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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年3月号

予算の概要を見て

特別支援教育推進の第一歩として

二通諭

平成15年度から特別支援教育推進体制モデル事業が始まり、北海道では私の勤務地である千歳市も札幌市、岩見沢市とともにその指定を受けた。私に与えられた仕事は本事業の千歳市専門家チーム委員長であるが、実質的には市全体の特別支援教育コーディネーターというものであった。

1 6.3%というショッキングな報告

特殊教育から特別支援教育へという流れを形成しているものの一つが14年10月に出された“LD、ADHD、高機能自閉症等の子どもたちが通常学級に6.3%の割合で在籍している”という報告である(特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議「今後の特別支援教育の在り方について(中間まとめ)」)。

千歳市でも15年秋、専門家チームメンバーが市内小中学校を訪問し、説明や研修とセットで280学級100%回収の調査を実施したが、前掲三障害は8456名中235名(2.8%)、不登校ほか三障害以外の要特別支援児童生徒を加えるならその総数は421名(5%)に上ることがわかった(これらの調査は担任らの気づきによるもので医学診断に基づくものではない)。

いずれにしてもすごい数である。他県、他市の調査では結果にバラツキがあり1%台もあれば7%台もあるのだが、仮にわが国総人口の5%と見積もっても600万人になる。170万都市の札幌なら8万5千人。札幌に発達障害者支援センターが1か所できることになっているが、そこに4人のスタッフが配置されるとしても一人当たりの対象人数は2万を超える。

もう少し現実的な数に引き戻そう。前述の通り、千歳における担任気づきの要支援児童生徒は400名を超えたが、そのなかで緊急な対応が必要と認識されるケースは、その後の相談件数からみて7%程度であった。したがって、札幌では6千人くらいが出発点におけるターゲットになる。スタッフは文字通り一騎当千の働きをしなくてはならない。

2 後戻りはできない

私は教委、勤務校、同僚からさまざまな配慮をいただき、16年度はこれまで並行してやっていた「教務」の職を解いていただき相談支援の係として独立し、授業を月~水に集中し、木、金をおおむね相談等で動ける日として認めてもらった。これはこれで有効であったが、実際の活動は先方や関係者の都合もあり、放課後から夜にかけてのものが多かった。

16年度の稼働件数は130に達したが、このほかに校内研修、団体研修の講師としての活動、視察研修で訪れた方々への説明、困難ケースに対するメンタルフレンド的活動、電話相談、Eメールでのやりとりなど、起きている時間はまさにフル活動であった。

私がやっていることは、自虐的に過ぎるかもしれないが“航空母艦に竹槍で戦う図”なのかもしれない。特別支援教育についても財政的支援がなければ頓挫するのでないかとの不安の声が現場で出始めている。しかし、箱の中を見てしまったからには後戻りはできない。困難を抱えている子ども、家族、担任らを救う人間的労働としての喜びを感じて前に進むしかない。

3 発達障害者支援の扉が開く

4月1日から「発達障害者支援法」が施行される。ここで定義されている発達障害は、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」となっている。脳機能障害の文字に反応して、状態像としては同じかそれ以上の困難を抱えていると思われる高次脳機能障害も対象になるのだと思ったのだが、それは早トチリで、外傷性ゆえに対象外ということになるのかもしれない。この例に限らず、法律の対象とする発達障害の範囲についてパブリック・コメントを皮切りに今後論議を呼ぶはず。

17年度予算では、発達障害者支援体制整備事業に2億4千7百万円、自閉症・発達障害支援センター運営事業(36か所)に4億4千3百万円、研修及び普及啓発等に1千6百万円が投入される。ここでの主なテーマは、発達障害者支援センターの立ち上げとバージョンアップ、特別支援教育推進体制モデル事業がそうであったように、個別支援計画の作成等のモデル的実施である。

たしかに現下の問題を解決する規模のものではない。あるアスペルガー症候群当事者は、発達障害者支援法と言っても、センターを一つ作るくらいで自分の困難を解決するものにはならないと語っていたが、当面はそのような評価を受けるとしても、間違いなく初めの一歩を踏み出したといえる。特別支援教育体制事業も幼稚園や高校にも対象を広げるということで17年度予算は5千6百万円ほど増額される。これもまた問題を解決できる規模のものではないが、歩を前へ進めていることについては疑いない。現場の底力発揮の時だ。

(につうさとし 千歳市立北進中学校教諭、千歳市教育委員会特別支援教育コーディネーター)