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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年3月号

予算の概要を見て

精神障害者保健福祉施策の充実

吉間清

平成17年度の精神保健福祉施策関連予算案(以下「予算案」)を、重点施策実施5か年計画(新障害者プラン、平成15年~19年)、「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(平成16年9月)及び「改革のグランドデザイン案」(平成16年10月、以下「GD案」)がどのように反映されているかという視点から評価してみたい。

(1)予算案の概要:障害保健福祉関係予算案全体が昨年度比8.5%増であるのに対して、予算案は16%増となっている。

居宅生活支援事業は35%増(特にホームヘルプは102%増)となっているが、GD案を受けて平成18年1月から義務的経費となるとともに定率負担が導入される予定である。社会復帰施設等は6%増にとどまるが、新障害者プランの平成19年度目標値を踏まえた予算増になっている。「心の健康づくり対策事業」の約220%増は、精神疾患に関する認知度を向こう10年間で90%以上とするという改革ビジョンの達成目標に関係している。地域医療体制の整備に関しては、中核的なセンター機能を持つ救急医療施設の整備事業として「精神科救急特別対策事業」が新規に計上された。

社会復帰施設等の機能面からの再編については、個別給付にかかる報酬等の基礎資料を得るために「精神障害者社会復帰施設等実態調査事業」が新規に計上された。就労・雇用支援はGD案と改革ビジョンの柱の一つとされており、多彩な事業が予定されている。「小規模作業所運営費助成事業」は2年連続1割カットとなったが、「障害者就業・生活支援センター事業」は10か所分が増額され、新たな施設類型への移行を図るための小規模作業所への支援として「小規模作業所への支援の充実強化事業」と、IT機器等に関する能力開発と在宅就労支援として「重度障害者在宅就労促進特別事業」が新規に計上された。職業安定局障害者雇用対策課でも、地域障害者職業センターでの職業準備支援事業に精神障害者を対象としたコースが新たに実施されるほか、公共職業安定所から医療機関等に出向いて就労活動に関する情報を実践的に指導する「ジョブガイダンス事業」も継続される。

また事業主支援策として、精神障害者の復職・雇用促進や在職精神障害者の雇用継続に取り組む事業主に対する統合的な支援を地域障害者職業センターで行う「精神障害者に対する総合的雇用支援」と、精神障害者を雇用しているまたは雇用しようとする事業主に対して雇用支援策に関する情報提供や障害特性や雇用管理に関する事業主向け相談窓口の設置を行う「精神障害者雇用環境整備事業」が新規に計上されている。約7万人の社会的入院者の退院促進をはかる施策の一つである「社会的入院解消のための退院促進支援事業」は、昨年度21か所から概算要求を上回る51か所分が計上された。通院医療費公費負担については、更生・育成医療とともに「障害者自立支援法案」の自立支援医療費として今年10月から実施され、自己負担割合も引き上げられる見込みである。

(2)評価:このように平成17年度予算案は改革ビジョン等の着実な実施に向けたものと言える。しかし改革ビジョンも認める通り、そもそも医療・福祉面で他障害の3倍の資源投入量があるにもかかわらず、その大部分が精神科医療費(8割は入院医療費)で占められ、残りの精神保健福祉分野でも通院医療費公費負担等の医療費が約7割であるのに対して福祉は約3割(しかもその8割は施設福祉)にすぎないという、医療偏重・施設偏重の予算配分状況は基本的に変わっていない。予算案の約64%は通院医療費公費負担等で占められ、大項目で213%増と最も大きな伸びを示したのは「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に関する医療体制の整備」である。精神障害者の居宅生活支援事業と社会復帰施設関連合計予算約242億円は、他障害の居宅生活・施設訓練等支援費合計予算約3832億円のわずか6%にすぎない。また居宅生活支援事業は社会復帰施設関連予算との合計の17%にすぎず、施設処遇に偏っていると言われる支援費の32%よりはるかに施設処遇に偏っている。しかも全国の市町村で社会復帰施設が一つでも整備されたのはまだ2004年4月1日現在やっと16%である。こうしてみると、改革ビジョンの「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本的な方向性が十分に反映された予算案とは言い難い。

さらに、改革ビジョンで示された重要ないくつかの課題への取り組みが予算案に反映されていない。第一に、「受入条件が整えば退院可能」な社会的入院の解消という重点課題は、わずか1億6千万円の「社会的入院解消のための退院促進支援事業」では不可能である。また社会的入院の7割が50歳以上、その3割が65歳以上という高齢者問題としての側面も重要だ。さらに「あり方検討会最終まとめ」(平成16年8月)では、社会復帰施設等の普及度が退院動向と相関関係がないことも明らかにされている。第二に、向こう10年で7万床の精神病床の削減という課題もある。第三に、居宅生活支援事業の一類型とされた相談支援事業は、自立支援法の相談支援事業と一体的なものとしてケアマネジメントによるサービス給付システムに位置づけられるが、単身入居を支える仕組み、退院促進への取り組み、ACT普及タイプと呼ぶべき取り組みなどの要としても同時に期待されている。最後に、精神障害者福祉も他障害と同様に今後は市町村がサービス提供システムの主体とされるなら、改革ビジョンも指摘するように市町村へのさまざまな支援は欠かせない。しかし、「制度改正に伴う市町村等への施行事務費」と「障害者給付認定調査員等事業費等」合計6億7千万円ではいかにも不十分である。

今後精神障害者福祉に関する部分は自立支援法の下で三障害共通に進められることになる。そのとき、立ち後れた精神障害者福祉に対する「合理的配慮」抜きに機械的な平等を進めるならば、GD案が精神障害者の地域生活を他障害並に引き上げる好機になるという保障はない。

(きちまきよし 明和荘タイムス施設長)