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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年3月号

列島縦断ネットワーキング

東京 第4回「障害者と高等教育を考える交流懇談会」
―夢と希望を叶えるために―

谷口満男

センターの事業目的

去る2月6日(日)、戸山サンライズ(東京都新宿区)において、「障害者と高等教育を考える交流懇談会」を開催しました。この交流懇談会は、私ども日本障害者高等教育支援センター(以下、センター)恒例のシンポジウムで、今年で4回目となります。学ぶ意志と能力のある障害者が安心して高等教育で学習できる環境条件づくりは、当センターの事業目的です。本シンポジウムはこの主旨に則り、当事者・関係機関・団体関係者が一堂に集い、支援の在り方・方法等を中心にご討議いただくものです。当日は、約80人の参加がありました。

当日の概要について

シンポジウムの司会は、伊藤聡知(いとうあきのり)氏(東京大学バリアフリー支援室)、シンポジストは、殿岡翼(とのおかつばさ)氏(全国障害学生支援センター代表)・根本匡文(ねもとまさぶみ)氏(筑波技術短期大学)・広瀬浩二郎(ひろせこうじろう)氏(国立民俗学博物館)・広瀬洋子(ひろせようこ)氏(メディア教育開発センター)・福井典子(ふくいのりこ)氏(日本てんかん協会常務理事)にお願いしました。

シンポジストからの話題提供

まずはじめに、殿岡氏から、全国障害学生支援センター(以下、支援センター)の活動紹介がありました。支援センターでは『大学案内障害者版』の発行やホームページでの情報提供を行っています。また、支援センターが実施した「障害学生受け入れ状況に関する調査2005」を基に、最新の調査結果(数値)が紹介されました。

明日からできる即行な対応策として、大学でのサポート例の確認、学内のサポート状況の確認、障害学生に対する支援窓口の確保が上げられました。今後取り組む課題としては、障害学生をはじめて迎えた場合の学内支援組織、在学年限の拡大や長期履修学生制度の導入が上げられました。

根本氏からは、聴覚障害学生支援の今後について、話題提供をいただきました。近年、聴覚障害学生の数が増加してきているが、何より情報保障の支援を中心に、音声による情報を視覚化して提示することが必要であること、筑波技術短期大学が新たに導入したサービス(他大学への遠隔地手話通訳システム、Webベースのリアルタイム遠隔地字幕提示システム、マルチメディア教育システム)が紹介されました。また、昨年秋に高等教育機関で学ぶ聴覚障害学生に対する支援体制の確立を図ることを目的とした「日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PET NetJapan)」の設立が紹介されました。また根本氏は、授業者は、聴覚障害学生に内容を伝える努力が常に求められており、教員の意識改革の必要性も言及されました。

広瀬氏からは、「視覚障害者と大学―ある個人的経験から―」というテーマでお話をいただきました。大学の門戸解放、学習環境の整備という面では、この50年間で大きな進歩があり、視覚障害をもつ学生も「何とか」晴眼の学生と同じような時間的・精神的余裕を持ってキャンパスライフを楽しむことができるようになった。しかし、卒業後の職域拡大は遅々として進まず、盲大生の就職難は古くて新しい問題である。点字による公務員試験を実施する自治体は増えたが、一般企業の全盲者採用はケースが限られている。就職難から大学院進学者は増加傾向にあるが、大学・研究機関での視覚障害者雇用が極端に少ない現状が報告されました。障害者「でも」できる仕事ではなく、障害者「こそ」ができる仕事を創造する柔軟な発想をもつ個人を育てるのは、やはり大学の役割ではないかと締めくくられました。なお、この広瀬氏の考え方は、著書『触る門には福来たる』(岩波書店、2004年6月)をご覧ください。

広瀬(洋)氏は、「高等教育における障害者支援システムの世界標準へ―動き出した欧州(EU)」をテーマに話されました。欧米型とは一味違うEUの支援システム構築の動きとして、昨年7月にオーストリア・インスブルクで開催された「第5回高等教育における障害者支援の国際会議」の報告をはじめ、EUが中心となって作成したEU諸国の大学における障害者支援情報「HEAG database」の紹介がありました。

福井氏からは、「てんかんのある人たちの高等教育とバリアフリー」についてお話をいただきました。福井氏ご自身とご家族のことをはじめ、今までの運動の中で実現してきたこと、高等教育に関する相談やてんかんのある人の置かれている現状、並びに今後の対策に期待することなどをまとめて話してくださいました。最後に大切なこととして、いつでも、どこでも、当事者が声を上げること、障害があっても、てんかんがあっても人間としての尊厳をもって生きていかれる社会の実現をめざすことを述べられました。さらに、私どもセンターへの要望として、てんかんのある人の高等教育についての研修会をぜひ企画してほしいと、提案されました。

最後に司会の伊藤氏から、次のようなあいさつがありました。

障害学生の支援というと、どうしても重度の障害をもつ人たちに目が向けられがちで、それ以外の軽度の障害学生の支援には目が向けられてきませんでした。これを機会に、これまでも支援が必要なのに、その枠に入らなかった人たちにも当然光が当たり、学びたい場所で学ぶために必要な支援が受けられるその一歩にしていきたい、とシンポジウムを締めくくられました。

最後に

各シンポジストの話題提供のあと、フロアからの質問や発言者からの補足説明が行われ、成功裏に終了することができました。なお、当日の内容は、報告集としてまとめることになっています。参加者の方々からも貴重なご意見をいただきました。報告書をご希望の方は、下記宛にお申し込みください(送料のみご負担いただきます)。

【申し込み先】
〒124―0021
東京都葛飾区細田4―42―12
谷口滿男
TEL 03―3658―8666
FAX 03―5694―2965

(たにぐちみつお 特定非営利活動法人日本障害者高等教育支援センター理事)

※この事業は、独立行政法人福祉医療機構の補助事業で行われました。