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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年4月号

モデル事業の取り組み

福岡市における高次脳機能障害支援モデル事業の取り組み

永吉美砂子

塩永淳子

黒木俊秀

福岡市立心身障害福祉センターは、国の行う高次脳機能障害支援モデル事業に、平成14年度から参画した。これを契機に、医療と福祉の両方の機能を持つ身体障害者福祉センターA型という利点を生かし、現行の医療制度の枠組みの中で、平成14年5月から2年間、Malecらの定義に基づいた包括的・全体論的リハビリテーションプログラムを実践した1)

当センターにおける包括的・全体論的リハビリテーションプログラム

(1)スタッフ

プログラムを行うスタッフは、臨床心理士(CP)3名、理学療法士(PT)1名、作業療法士(OT)2名、言語聴覚士(ST)2名、リハビリテーション医(リハ医)1名の計9名である。

(2)個別訓練:〈1回/週、50分/回、CPが担当〉

1.個別カウンセリング、2.認知トレーニング、3.リラクゼーションの3課程からなり、ここでは、本人の障害認識を進めるため、神経心理学的評価やスタッフ間で把握した日常生活上の問題点を考察し、訓練内容、ゴールを本人・家族へ説明した。

(3)グループ訓練:〈2回/週、60分/回、CP、ST、OT、PT、リハ医が担当〉

1.障害認識・対人関係技能改善グループ

他のメンバーの抱える問題を自分の問題として認識し、自分の長所を他から認められることで、自分の障害に向きあうことを目的とした。

2.認知トレーニンググループ

新聞記事の要約、メモの習慣化、スケジュール管理、81マス計算を用いた注意や思考の改善を目的としたトレーニングを行った。メンバーの前で記事の要約を発表し、意見交換を行うことにより、情報処理能力の向上や対人関係技能の改善をめざした。

(4)家族カウンセリング:〈1回/週、30分/回、CPが担当〉

相談の他に高次脳機能障害、行動変容、家族のストレス対処法の講義などを適宜行い、新しく参加した家族に対して、受傷経過の長い家族が経験者として励ますというピアカウンセリング的交流も行われた。

(5)社会適応訓練:〈不定期、ST、PT、OT、リハ医が担当〉

交通機関やデパート利用、買い物体験、飲食店利用、調理、カレンダー製作などを行い、対人関係技能の改善を図った。

(6)就学・就労支援

1.就労先の選定や調整、2.他機関との連絡調整、3.定着支援、4.職場への実地見学、5.復学・進学支援、6.障害理解を求めて、職場や学校との連携、である。主な連携機関は、障害者職業センター、雇用支援センター、就労支援センターなどである。

(7)生活・介護支援

1.パニックへの対応、2.対人関係構築の援助、3.スケジュール管理、4.こだわりへの対応、5.相談援助、6.活動参加援助、7.家族支援、8.福祉サービスの紹介や行政への諸手続きの援助、などにより環境調整を行った。

(8)権利擁護

1.障害の正しい理解を得るための支援、2.弁護士に対して、認知障害に関する一般的な情報提供、個別の症状説明、3.トラブル予防、などの支援を行った。

当センターの支援ネットワーク体制を■図1■に、支援結果を表12)に示す。このプログラムの特徴として、1.基底にある認知障害の改善を目的とした個別訓練とグループ訓練の重層化、2.家族の治療参加、3.多職種が同時介入し患者との治療共同体を形成、4.カンファレンスを繰り返し、治療戦略を設定・修正、5.障害程度、経過年数によって選別しない(定員制)、6.患者対スタッフ割合を低くした質の高いサービスの提供、7.精神科とリハ科の連携による重層的なサービスの提供、8.社会復帰に向けた支援ネットワーク体制の構築、が挙げられる。

国のモデル事業継続を受けて、当センターは、平成16年度に支援コーディネーターを配置した。これまで構築した支援ネットワークの強化と訓練内容の充実を図り、活用できるサービスの開拓が、今後の課題と考えている。

(ながよしみさこ・しおながあつこ〈福岡市立心身障害福祉センター〉、くろきとしひで〈九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野〉)

表1 2年間の訓練結果(平成14、15年度、対象者29名)

就労目標 17名
  新規一般就労 1名
復職・就労継続 9名
計10名(58.8%)
その他 結婚 1名
就学目標 4名
  高校復学後、職業訓練校進学 1名
大学復学後専門学校進学 1名
専門学校進学 1名
職業訓練校進学 1名
計 4名(100%)
介護量軽減を目標 8名、
  ボランティア活動参加 1名
資格取得(測量士) 1名
計 2名(25.0%)

※ 29名のうち、就労・就学・ボランティア・結婚などで社会参加が可能になったのは、実人数17名(58.6%)