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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年4月号

1000字提言

ADAにおける「有資格の障害者」

田門浩

米国では、「障害を持つアメリカ人法」(ADA)により、障害者に対する雇用差別が禁止されている。しかし、雇用差別が禁止されるのは「有資格の障害者」(qualified individual with a disability)に対してだけである。単に「障害者」であることだけではADAの雇用差別禁止規定が適用されない。

ここに言う「有資格」とは何か。ごく簡単に言うと、「対象となる仕事全体のうち本質的な部分を遂行できること」を意味する。

老人介護という仕事を例に挙げる。仕事の本質的な部分は「介護をすること」である。それ以外の業務、たとえば、接客、受付、電話応対などは、場合によっては必要があるかもしれないが、仕事の本質的な部分ではない。

施設が老人介護者を募集していた場合で、障害者従業員が教育機関で介護の勉強をし業務経験もあるにもかかわらず施設から差別を受けたときは、「有資格」であるためADAの適用を受けられる。しかし、前記と同じ事例であっても、障害者従業員が、介護の経験もなく勉強もしたこともなく実際にもできないという場合、「老人の介護という本質的な業務」ができない。それゆえ、「有資格」ではなく、ADAの適用を受けられない。

このように「有資格」かどうかが、ADAの適用の有無につながるのである。

しかし、障害者にとっては、この「有資格」という規定は非常に高いハードルである。私は以前に米国のギャローデット大学に通ったことがあった。この間、同大学のウィリアム・マッキャビン先生に質問をする機会を得た。同氏は次のように答えた。「障害者は長い間教育機関から差別を受けてきた。このため十分な教育を受けていない障害者が多い。したがって、『有資格』でないためにADAの適用を受けず、就職が困難な者が多い」。

このため、米国の障害者間には、ADAのような差別禁止規定だけではなくアファーマティブアクション(積極的差別是正措置)の強化を求める声が高まっているようである。米国ではリハビリテーション法501条及び503条により政府機関や特定の事業主はアファーマティブアクションを制定する義務が課せられている。米国の障害者はこのような規定の強化を求めているのである。

日本では、障害者差別禁止法と障害者雇用促進法との関係について議論があるが、これについては、米国の現状が参考となると思われる。

(たもんひろし 弁護士)