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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年5月号

座談会 障害者の生活と動物

多和田悟(たわださとる)
財団法人日本盲導犬協会付設盲導犬訓練士学校教務長

中平均(なかひらひとし)
八王子市役所勤務

長谷川あや甫(はせがわあやほ)
家庭犬しつけ方インストラクター

山口亜紀彦(やまぐちあきひこ)
日本介助犬使用者の会事務局長

司会:高柳友子(たかやなぎともこ)
横浜市総合リハビリテーションセンター医師
日本介助犬アカデミー専務理事

私と犬とのかかわり

高柳 身体障害者補助犬法が制定されたことを契機に、盲導犬、聴導犬、介助犬は障害者の生活になくてはならない存在だという啓発は少しずつ進んできていますが、一方で、機能を求めるのであれば、ヘルパーさんや、いずれ開発されるロボットでいいのではないかという意見を持つ専門職や行政関係者も多いと感じています。なぜ犬なのかに関しては、私は、人がなぜ犬と暮らしているのか、動物と暮らしているのかということが、根本的な答えの一つにあるのではという気がします。

今日は、介助犬使用者の方をはじめ、ペットとして犬を飼っていらっしゃる当事者の方、視覚障害者に盲導犬の訓練を指導されている方、また家庭犬のしつけインストラクターなど、さまざまなお立場から障害者と動物が一緒に生活することや補助犬のことなどについてお話をうかがいたいと思っています。

最初に、ご自身のお立場と犬とのかかわり、動物とのかかわりを含めて、自己紹介をお願いいたします。

多和田 親が何頭か犬を飼っていましたが、私が犬にかかわったのは1974年に日本盲導犬協会の小金井訓練所に勤めたときが初めてです。ジャーマンシェパードが中心でしたから、大きな犬だなというのが最初の印象でした。いまは日本盲導犬協会で盲導犬訓練士養成学校の教務長をしています。自宅ではゴールデンレトリバーを飼っています。

山口 私は介助犬使用者です。2002年の12月から介助犬のオリーブと合同訓練に入り、生活を始めました。歴史が浅いので、1頭目の介助犬です。家には、PR犬として活躍し、高齢になってリタイアした犬もいます。また、パピーウォーカーも経験しました。

中平 私は八王子市役所で市民相談をしていますが、犬を飼い始めたのは20年前、妻と結婚した次の日からです。私は犬を子どもだと思っていますが、最初の犬が亡くなって、いまはアメリカン・コッカースパニエルのオスとメスの4人暮らしです。

長谷川 13年くらい前に家庭犬のしつけのインストラクターとして栃木にある施設に入り、一昨年に独立して家庭犬のしつけの教室を開いています。犬とのコミュニケーションがうまくとれないといった問題を抱えている飼い主さんのお手伝いをしています。以前は親の飼っている犬と一緒に生活していましたが、私自身の犬を飼い始めて12年ぐらいになります。犬はミックス犬とボーダーコリーの2頭です。

高柳 私は、今日司会をさせていただきます。本業はリハビリテーション分野の医師ですが、介助犬の普及をめざすNPO法人日本介助犬アカデミーの専務理事として、情報収集や介助犬がほしいという障害者の方からのご相談に応じています。

介助犬とは一心同体

高柳 山口さんは、介助犬を使用していますが、なぜ介助犬でなくてはならないのでしょうか。ヘルパーさんではダメなのか。介助犬と同じようなことができるとしたらロボットでもいいのか。そのあたりはいかがですか。

山口 なぜかと言われたら、便利だからです。ロボットでいいのかと考えたことはないのですが、介助犬も万能ではないので、できないことはたくさんありますが、自分で犬の世話をすることにも意味があると思っています。うまく説明できないのですが、生き物だからいいのだと思います。介助犬と生活を始めたころは一人暮らしでした。いまは結婚していますが、奥さんよりオリーブに頼むことのほうが多いのは気兼ねをしないからです。人に頼むのが嫌なので、なるべく自分のことは自分でやりたいと思っています。

高柳 奥さんには「頼む」で、介助犬に頼むのは、自分ですることなんですね。

山口 職場でもみなさん親切にしてくださって、困ったことがあれば言ってくださいと言ってくれるのですが、やはりオリーブに頼みます。オリーブは自分と一心同体のつもりですので、頼むという意識はないです。自分が「やった」ことには気兼ねをしませんし、オリーブも喜びます。

ペットを飼いたい気持ちに、障害は関係ない

高柳 中平さんは、ペットとして犬を飼っていますね。世の中には、障害をもっている人が犬を飼うのはたいへんではないの? 引っ張られたり、ひっくり返されたりしたらどうするの? 力で制御することもできないでしょう。家の中がめちゃくちゃになるかもしれないわよと言われて、動物を飼うことを諦める障害者も多くおられると思いますが、中平さんが犬を飼おうとされたとき、障害ゆえに何かあったらどうしようとはお考えになりましたか。

中平 自分の障害があるために、もし何かが起こったら、こっちが必死にがんばって、何とか支えてあげられればいいなと思っています。でも、そういう思いをさせるのはかわいそうですから、事前にいろいろ調べて、かわいそうなことにならないようにと考えています。

ペットがかわいい、ペットを育てたいというのは、障害者であろうとなかろうと同じだと思います。私は、ペットは子どもだと思っていますから、障害者がペットを飼うことは、人にはばかることではないと思います。もし、障害者が動物を飼うなんてと言われたとしても、人間としてかわいいという気持ちが大切ですから、堂々と主張できると思います。

高柳 「あなたが飼うのはたいへんでしょう」とおっしゃる方は、その方自身がご自分の犬で引っ張られたり、咬まれたり、全然言うことを聞いてくれなかったりとか、たいへんな思いをしているのだろうという気がします。私でもたいへんなのだから、ましてや手の動かないあなたが、目の見えないあなたが、耳の聞こえないあなたがと考えると、そういう発言が出るのかなという気がします。

犬の体格、性格などを知る

高柳 犬と人とのコミュニケーションをお手伝いするのがインストラクターのお仕事ですが、「私が教えているのは、犬ではなくて飼い主さんなのよ」と常々感じていらっしゃるのではないですか。

長谷川 障害があるからむずかしいのではなく、制御がむずかしい犬を飼おうとすることに対しては、どなたにでも「ちょっと待ってください」と私はお止めすると思います。

大きい犬を飼ったことのある方が大きい犬を飼うのと、いままで小さい犬を飼っていた方が、70キロ級の犬を飼うのとでは全然違います。私たちがどれだけフォローできるのかもありますし、そのあたりのことをよくお話したうえで、それで飼われるのであれば、私はかまわないと思います。

問題が起きるかもしれないというのは、だれが飼っても同じです。体格の問題だけでなく、性質の問題もあります。また、散歩の量の問題もあります。元気のいい犬種を1日10分散歩できるかどうかという方が飼われるのであれば、障害者健常者に関係なく問題ですし、性質的にきつい犬種を飼われるのであれば、どうやって犬と接していけばいいのかという学習を人間がする必要があると思います。

盲導犬は最高の家庭犬であるべき

高柳 犬を理解するという経験がないと、一緒に暮らしていく中でのお互いの負担が大きくなるのではという気がします。多和田さんは、まったく犬を知らないという盲導犬のユーザーさんを指導された経験が多いと思いますが、犬を知る機会をもう少しつくってほしいと思われますか。

多和田 犬を見た経験がある方はまだイメージすることができますが、見えない方は実際に自分の手で触れて、自分でにおいをかいでみないと、犬が何なのかがはっきりわかりません。たとえばラブラドールでもゴールデンでも、赤ちゃんで抱っこしたときと、大きくなったときはまったく別物です。我々の仕事は、見えない人が犬と暮らすことが大前提ですから、視力がないことがハンディにならない犬と方法を選んでいます。

盲導犬は、角を教え、段差を教え、障害物を教える。これがわかれば、後は自分が地図を覚えていけば、歩くのに不便はないわけです。この便利な部分が、1日のどれだけの比率を占めるかというと、1時間で約4キロ歩くことができます。私が横浜からここにくるまで、たぶん200メートルは歩いていないと思います。盲導犬が必要な情報を教える時間は数分。後は一緒に暮らす相棒ですから、見えない人の目を盗んでいたずらをしては困るわけです。

ですから、盲導犬は最高の家庭犬であるべきだと思います。オリーブも、中平さんのペットも最高の家庭犬でしょう。ベースは最高の家庭犬で、便利はその上にあるものだと思います。完璧に角、段差を教え、障害物をよけてくれても、家に帰ったらムチャクチャする、人が来たら吠えるでは、一緒に暮らせないですよね。

自分の生活に合った犬を選ぶ

高柳 そういう意味では、介助犬もどういう犬種を選ぶのか研究されています。10年前に介助犬に向くと選んでいた犬といま選んでいる犬はだいぶ違うと思います。機能から言えば、介助犬は物をとってくるのが好き、開けるのが好き、スイッチを押すのが好きなどの作業だけを追求すれば、活発な犬になります。

トレーニングはそういう犬のほうがおもしろいのかもしれませんが、日常生活はいつも飛んで歩いているわけではなく、穏やかな時間が多いわけです。山口さんもオフィスワークをしておられますから、オリーブの大部分の時間は寝ているわけです。寝ていることができなかったら、就労どころではなくなると思います。

人と犬の関係が近くなればなるほど、機能以前に飼いやすいかどうかが大事です。自分の生活に合った、その場で落ち着いていられる犬を選ぶことが、補助犬でも家庭犬でも問われているのではないかと思います。

たとえば、いたずらは視覚障害者にとってはいちばん考えなければいけないことでしょうし、聴導犬のユーザーさんは、犬が低くうなっているのは視覚で確認するしかないでしょう。ウーッという音で何かあるのだと気がつかないと、あの犬と目線をそらせなければということが察知できないことにつながります。

肢体不自由の方で手に障害があって、リードでコントロールができなければ、どうしたらコントロールできるかを考えたトレーニングを受けるなり、容易にコントロールできる犬を選ぶことが、一緒に生活しやすくなることだと思います。そういう情報がもう少しあると、犬との生活がもっと楽しめる人たちが増えるのかなという気はしています。

トレーニングには、障害特性の情報がほしい

長谷川 私は最初、障害者のことを全然知らなかったので、視覚障害より聴覚障害の方のほうがトレーニングできそうな気がしたんです。以前「聴覚障害がありますが、息子が手話通訳しますので、話は全部通じますから大丈夫です」とおっしゃられたので、安易に受講希望をお受けしました。

トレーニングはすべてタイミングです。いいことをしているときにほめる、止めてほしいときに止めてほしいと伝えることが必要です。耳の聞こえる方なら、「いま犬がこうしていますよ」と伝えられますが、耳の聞こえない方は「いまですよ」ということが伝えられなかったんです。知らない方に手を触れてはいけないと思っていたので、息子さんに話すと、ワンクッションしてお母さんに伝わる。「拾い食いするよ、リード短くして」と言っても、息子さんからお母さんに伝わるときには、犬は拾い食いをしてしまっているんです。

障害特性についての情報がなかったので、迷ったことはたくさんありました。後ろに下がって犬を呼んでほしいという場合、人工関節の方で後ろに足を下げることが簡単にできなかったのに、事前に情報がなかったので、「下がってください」と言ったとたんに転んで、頭を打ってしまったというケースがありました。ご本人からは言わなかった自分がいけなかったと言われましたが。

一番残念だったのは聴覚障害の方に途中でトレーニングを止められたことでした。頼ってこられたのに、私たちが情報提供できなかったことになりますから、いまだに悔いが残っています。

高柳 家庭犬のインストラクトは、飼い主さんに合わせた指導を個別にすることだと思いますが、犬経験がどれくらいか、犬のセンスがいいか悪いか、人の言うことを聞ける人かどうかなどの一般的な総合学習能力以外に、障害特性として何ができるかできないか、それが犬のインストラクトにどう影響するかという情報があったらよかったということですね。

長谷川 一般的なことは、この方は人の話を聞いていないとか、この方はちょっとお話をすると深い理解をされるとか、経験から何となくわかってくるのですが、それ以外の部分の情報が私にはゼロでしたので、どうしていいかがわかりませんでした。

高柳 障害特性ゆえに犬とコミュニケーションがとれなくてたいへんとなってしまうのは、残念だと思います。中平さんは困ったことはありますか。

中平 私は最初から犬との間で障害が起きないように、自分たちが楽しめそうな犬種を調べて飼いました。一生付き合うのですから、基本的なものを抑えて、修正していくしかないと思います。

最初、性格はわかりませんでしたが、2頭のうち後に飼ったほうがやんちゃです。少したって訓練をしたら修正はきいたと思いますが……。夫婦どちらが強いかはわかっていて、私には悪さはあまりしませんが、かみさんだと悪さをします。

高柳 しつけ教室に通えば、修正可能ですよ。

中平 悪さはしても、家族だと思っていますから。十分かわいいので、自分やかみさんが許せたらそれでいいだろうと思っています。それにプラスして、ちょっと落ちているものを拾ってくれれば、私は十分です。

飼いたくてもまわりが反対

長谷川 家庭犬として一般的に飼われる方は、ファッション感覚が強いんですね。ちょっと前は、ゴールデンレトリバーやラブラドールレトリバー、その前はハスキーです。最近はチワワ、ダックスフンドです。隣が飼ったからうちも、かわいいから、ペットショップでいちばん多いから、値段とかが重要視されることが多いようです。

多和田 ペット人口では、障害のある人の比率は何百人のうちの数人だと思うのですが、それはなぜですか。

山口 そう言われると、私のまわりでも犬を飼っている人はいないですね。親と同居の人は飼っていますが。

中平 持ち家で暮らしている方で、小さい犬を飼っている方はいますが、動物を飼っている人たちは多くはいないですね。コントロールできるぐらいの大きさの犬を飼うべきだと障害者が発言しているのをテレビで見たことがありますが。

高柳 あくまでも仮説ですし、証明するのはなかなかむずかしいと思いますが、私が障害者施設に入所している方にお話を聞いた経験などでは、飼いたくてもまわりに聞くと反対されるということが一つ。もう一つは、飼っている人がそもそも少ないうえに、インストラクターに指導してもらう人はさらに少ない気がします。私のことを理解してくれるのかという気後れもあると思います。もともとしつけ教室に行く人口は、欧米人口に比べて日本は少ないですからね。

長谷川 自分のことを理解してくれるのかしらというのは一つのパターンだと思います。また、一度は家族の方が「耳の聞こえない人が犬を連れてトレーニングに行きたいのですが、一緒にトレーニングに通えますか」と聞きにこられたんです。健常者の方は、普通は犬を連れてきて、「この子と通いたいのですが、いいですか」というパターンと、何も聞かずに申込書を書かれるパターンがあります。何も聞かずに申し込みをされた障害者の方は、今までいらっしゃらなかったですね。

高柳 現実問題として、残念ながら受け入れ態勢はできていないですよね。そこをつなげれば、犬と暮らせてこんなに楽しいというところに至るかもしれないのにと思います。

多和田 「目が見えなくなったら、犬とは暮らせなくなりました」というのは、私の立場からは嫌なのです。「車いすになったら犬は飼えません」と言われたら、中平さんは「違うよ」と言わなくてはならない。耳が聞こえないと犬と暮らせないと言われたら、こういう方法があるよと先に飼っている人が言わなければならない。そうすることで、障害者のペット人口はもっと増えると思います。ペット人口が増えたら、盲導犬の体験歩行会で、尻尾はもちろん、鼻の穴、耳の穴まで指を突っ込んでみる人は少なくなると思います。

介助犬の認知はこれから

高柳 介助犬に、家の中でものを拾うことだけをやってほしいというご相談はわりとあります。一人で留守番をしているときに、テレビのリモコンが落ちたときに拾えないと困るからというようなことが多いんです。それ以上やってほしいとは思わない。介助犬がそもそも何をしてくれるかもわからないし、世話がたいへんならいい。でも介助犬としては認定してほしいという要望があったりします。

確かに室内の身のまわりのことは、家庭犬で十分できると思いますが、山口さんは、身近なことをしてくれれば、オリーブは介助犬でなくてもいいですか。

山口 便利さの味をしめてしまったので、困りますね。よく機械と比較されるのですが、介助犬に変わる機械がないので、自分ではイメージができなくて、返答に困るんです。パソコンを止めて手書きに戻ろうとはみなさん思わないように、いったん味をしめたので、これからも希望していくと思います。世話は生活のリズムになっているので、自分ではたいへんだとは思いません。

高柳 山口家は、パピーウォーカーを経験されたようですが。

山口 面倒をみたのはかみさんなので、私の生活はまったく変わりませんでした。パピーがきたときは、家に帰るとオリーブを追いかけまわしたりしましたが、それでオリーブが仕事をしなくなったりとか、ほえくせが増えたりとかはなかったです。

中平 八王子に全国介助犬協会がありますが、希望者が少ないと聞きました。

高柳 そこが、盲導犬と違うところだと思います。盲導犬は、外を歩くという目的があります。介助犬は、仕事がファジーです。外にどんどん出ていっている人は、今さら介助犬に何とかしてほしいと思わないわけです。いまさらこれがないと困るということはなくて、あったらいいかな、でも導入するのは面倒だからいいかとなります。

介助犬がほしいといってこられる方は、まずあなたの生活の根本にある問題点を解決しましょうというケースが圧倒的に多いんです。ご家族との問題とか、障害受容をしていないとか、私は生活を変えたいとか、漠然としたものを介助犬に求めてくるケースが多いんです。自立生活を構築するのにさまざまな支援体制があるところでは、介助犬を利用したいという人がいないんです。

山口 犬と暮らしてみないとわからないところがありますね。

多和田 生き物だから、トライアルができないんです。私が日本盲導犬協会の50頭体制を支持しているのは、盲導犬飽和状態をつくりたいからです。飽和状態をつくれば、この犬は気に入らない。じゃ、こっちと暮らしてみよう。そのうえで、私は盲導犬はいらないと言わせたら、本物だと思うんです。

介助犬も、犬と一緒に暮らしたいな、介助犬を申し込んでみようかという人がどんどん出てきたら、介助犬の質も目的もどんどん変わってくると思いますし、そういう人を受け入れていく社会も当然変わっていくと思います。

障害特性に合わせて「修正」を

高柳 子犬は、犬の一生の中でいちばん手のかかる大事なときです。衝動的にかわいいと思って飼うのも、子犬のときだと思います。山口さんも中平さんも子犬の知識がある程度あったのでたいへんではないと思いますが、これから子犬を飼おうとする、自分と同じような障害のある人が注意すべきことは何かありますか。

中平 予備知識がないとしても、しつけとしての基本の「待て」とか、いくつかありますよね。それだけは絶対にしておかないといけないと思いますね。

高柳 それを教えてくれる人に、ここを理解してほしいということはありますか。犬のトレーニングは、身体機能的に特殊なことを教える技術だと思います。目と耳で確認して、手で作業を行うことが、犬のトレーニングにはあると思うので、具体的にここができないならこういう方法でやればいいよということがあると思うのですが。

中平 犬との関係ではそれぞれの障害の特性があると思いますが、車いすでいちばん心配なのは散歩です。制御しているつもりでも、個体が大きいから、急にトイレをしたりすると、車いすが吹っ飛んでしまうような感じで、動けなくなったりします。たまに興味がある犬がいると、前に壁があっても突っ込んでいって、私が壁にぶつかったりすることがあります。雨が降ると車輪がすべるので、急に飛び出すと止められなくなったりすることもあります。

高柳 インストラクトのときに気をつけてほしいことよりも、普段の生活で犬の突発的な行動があったとき、車いすでない人より危険があるということですね。

中平 結局、飼った後の修正が大事なのかと思います。

高柳 飼い主さんに対する個別の問題点とか、特徴、特性というのと同じように、生活の中でこの飼い主さんにはこういうリスクがあるとか、こういう特徴があるからこういう方法では教えないといったことについてのやりとりということですよね。

中平 その修正が、トレーナーの方の財産にもなりますしね。

高柳 盲導犬、聴導犬、介助犬の分野でも、その人の障害特性を生かしたインストラクト技術はこれから発展の余地があると思います。耳が聞こえないと犬とのコミュニケーションでどんな問題点が起こりうるかについては、まだまだ情報不足です。

手が使えないからリードが持てないことで、その人と犬とのコミュニケーションにどんな支障が起こりうるのか、リードが持てない人が車いすにリードをくくりつけて散歩や街に出たとき、何が困るかなどはまだケースが少ないと思います。中平さんは、リードを車いすにくくりつけて散歩をしていらっしゃるそうですね。

中平 2頭を両方のタイヤにつけると横幅をとって、歩道を通れませんので、片方に集中させていますが、そうすると力を発揮しますから、制御が効かないときはたいへんです。坂道で止められたら、自分の力では上がれなかったりします。溝に設置してあるグレーチングを通過するときは、直進で進むと車いすの前輪が挟まったりしますので、少し斜めにして通過しますが、急に引っ張られたりして危ない思いをすることがあります。(笑)

多和田 たいへんなことを笑って話しているのは、一つのポイントになりそうですよ。

中平 犬を飼っているといろいろありますが、楽しいことがたくさんあります。犬を飼わなければ、たぶん家から500メートルや1キロ近くまでは行きません。また、犬を飼っている人の友達ができますし、隣近所とのコミュニケーションもとれますね。

補助犬用のグッズは改良の余地あり

高柳 散歩をしていて、このリードどうにかならないかと思うことはありますか。

中平 ヒモが車輪に引っかかったら、私は手で何とか外すことができますが、たとえば電動の方はどうなるのかと思います。うちのかみさんもそうですが、途中でウンチをしたら、とれないですよね。

山口 私も、リードがキャスターにからんだり、大車輪にからむので、いい方法がないかと悩みました。近づきすぎるとリードがたるみ、遠くに離れると車いすが引っ張られたりするので、伸縮可能なコイル式リードにしました。本来は、サーフボードと足を繋ぐものですが、リード代わりにして使っています。普段は縮んでいますが、オリーブの動きに合わせて最大で1メートルくらいまで伸び縮みします。リードを繋いだまま物を拾わせたり、持ってこさせたりさせることができますし、狭い通路などを通る時は、車いすの後ろに回り込みますが、いちいちリードを外したり持ち替えたりしなくても済むようになりました。オリーブが離れても、近づいても常にちょうどよい長さを保てるので、車いすの車輪にからむことがなくなり大変重宝しています。

長谷川 山口さんのようなコイルだとトレーニングされていない犬はむずかしいと思います。自転車にくっつける、自転車お散歩用のコイルで、スプリングになっているものがあります。

高柳 介助犬をより活用しやすくするための道具としてリードも入ってきます。作業療法士が考えるべきだとか、お金をどこから出すべきかなどの課題がありますが、障害者の方が使いやすい、犬とのかかわりのグッズや道具ができてくることにはつながります。

頸損の方は犬と遊んであげられないので、スイッチを入れると家の中でボール投げができるというグッズをつくりました。あくまでも介助犬のグッズとして、障害者の自立手段の一環としてつくりました。

多和田 たとえば盲導犬のカッパやコートをつくりましたが、けっこう一般化していますよ。

高柳 介助犬のグッズをつくっていますと、カラビナにしてもベルトにしても使いにくく、もっと簡単なほうがという道具は多いです。手が少し不自由だと使えないものがたくさんあると思います。犬のユニバーサルデザインがあるといいですよね。リード、カラビナ、首輪とかはどうしていますか。

中平 私は握力がありませんから、登山のときのフックをつけています。

楽しいから犬と暮らす

高柳 障害者の方が犬を飼うのは特別なことではないと思います。補助犬は、一定の目的がなければいけないわけですが、補助犬とユーザーさんの生活をみれば、基本的には家庭犬であって、人間が共に暮らしていく中でお互いに持ちつ持たれつの関係を保てる、一緒に暮らしていて存在感がありすぎない犬がよいのだろうと思います。そういう情報があるといいですよね。

多和田 そうですね。わが家にも犬はいますが、彼と暮らすことをすごく楽しんでいるし、中平さんもそうだと思います。山口さんは介助犬であっても、楽しんでいると思います。

楽しいから犬と暮らしたい。家の中をむちゃくちゃにされてと笑いながら言えるのですから、まさに個人的なQOLだと思います。AからBに行けたらいいでしょうというのはリハビリのレベルです。ゴールの設定が違うんです。それを無駄と見るか、10年早いと言われるか。私は10年早いとは思いません。歩くなら、楽しく歩こうよ、生きるなら、楽しく生きようよということです。

ただ、楽しむことが、犬の犠牲の上にあってはいけないと思います。たとえば障害があるからここの部分はできない、だから、諦めなさい、我慢しなさいではなくて、どうやったらできるのかという発想に立たなければならないと思います。

犬も楽しくハッピーであってほしいと思うし、彼らは同じだけの楽しみをもつ権利があるわけです。そういうふうに考えていったときに、介助犬だからペットだから、飼う人が障害者だから、障害がない人だからは関係ないと思います。

長谷川 世の中には、犬とうまく生活されていない方は多いんです。わが子に手を咬まれたとか、引っ張られるのでお父さんしか日曜日に散歩に行けない犬とか、たくさんいます。子犬が産まれたら、桜の木の下に埋めれば、桜の木が葬ってくれるとか、いい人に拾われてほしいと川に流す人もいます。

山口さんとオリーブを見て、お仕事も一緒に行って、常に一緒にいて、こんなにいいことは犬にとってないですよ。

多和田 これ人間だったら、うっとおしいですよ。盲導犬がかわいそう、介助犬がかわいそうという言い方をされることがありますが、その根拠はないんです。障害のない人が飼っている犬がみんなハッピーか、負担を押しつけていないかと言ったら、ペット人口が多いだけ、健常者のほうが教育すべき対象も多いと思います。

障害者は、介助犬、盲導犬、聴導犬も含めて、犬の負担になるだろうという発想から出発しないでほしいと思います。私と暮らしたら、この犬はきっと世界でいちばん幸せな犬になるというところからスタートしてほしいと思います。

高柳 おそらくみなさん、うちの子がいちばん幸せと思っていると思います。うちの子がいちばん幸せになることを実現するための情報、技術がどんどん発展していってほしいと思います。今日はありがとうございました。

【問い合わせ先】

財団法人 日本盲導犬協会(東京本部)
TEL:03―5452―1266
FAX:03―5452―1267
URL:http://www.moudouken.net

社会福祉法人 全国介助犬協会
TEL:0426―68―2464
FAX:0426―68―2465
URL:http://www.s-dog.jp/

特定非営利活動法人 日本介助犬アカデミー
TEL:0422―76―2544
FAX:0422―76―2765
URL:http://www.jsdra.jp/

【参考文献】

  1. 高柳友子/山崎恵子ほか編「医療と福祉のための 動物介在療法」、医歯薬出版、2003年
  2. 山崎恵子著「アニマルセラピーコーディネーターってなんだろう」、ウイネット、2000年
  3. 高柳友子著「動物と福祉」、明石書店、2004年