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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年7月号

自治体での取り組み 新潟県

新潟県における災害時精神保健医療対策

福島昇

はじめに

2004年、新潟県は中越地震(10月23日)と新潟豪雨(7月13日)という2つの自然災害にみまわれました。新潟県精神保健福祉センターは、県内外の精神保健医療福祉関係者と連携して、災害時の精神保健医療対策に取り組んできました。その経験を踏まえて、新潟県における災害時精神保健医療対策についてご報告します。

対策の概要

(1)こころのケア対策会議

2つの災害に際して新潟県が実施した精神保健医療対策は、県が招集する「こころのケア対策会議」の下で行われました。同会議は、新潟県精神医療機関協議会、新潟県精神科病院協会、新潟県立精神医療センター、新潟大学精神医学教室などさまざまな団体・機関によって構成されています。新潟県精神保健福祉センター及び新潟県福祉保健部健康対策課からなる「こころのケア対策班」(以下、対策班)が連絡調整、企画などの実務を担当しました。対策の内容は大きく4つに分けることができます(■図1■)。

なお、これらの対策の企画は、国立精神・神経センターならびに兵庫県こころのケアセンターの支援を受けて実施することができました。

(2)こころのケアチームの派遣

新潟県では、県内外から派遣された精神科医療チームを「こころのケアチーム」と呼称していました。チームの活動期間は、一部を除いて10月28日から12月28日の約2か月間であり、この間、都道府県を中心として合計39団体からチームが派遣されました。一時期に最大で23チーム、平均で13チームが活動し、6000件以上の診療、相談が行われました。

活動地域が偏ったり、活動が途切れたりすることがないように、対策班が全体の調整を行いました。また、「こころのケアチームマニュアル」を作成し、あらかじめ配布しておくことで、チームの活動内容や体制、装備の統一を図りました。

チームが扱った症例を主訴別に見ると、不眠、不安などのストレス反応の他に、「その他」という項目が多くみられました(■グラフ1■)。「その他」の内容は、高血圧等の身体症状への対応が中心でした。このことから、こころのケアチームといっても、災害時には専門性にこだわらず、身体的な問題にも対応しなければならないことが分かります。

チーム活動期間の後半は、市町村が行う健康調査と連動した訪問診療や、住民対象のミニ講話などの地域精神医療活動が活動の主体となりました。

(3)災害専用相談電話「こころのケアホットライン」

被災者の不安や悩みに応えるため、新潟県精神保健福祉センターにて同センター職員、児童相談所職員、新潟県臨床心理士会会員が、電話相談を行いました。2004年10月24日から2005年1月31日までで、計1,051件の相談が寄せられました。相談内容の上位を占めたのは、「余震に対する不安・恐怖」と「子どもへの対応」に関する相談でした。

(4)精神科入院医療の確保

十日町市の中条第二病院の病棟が被災により使用不能になったため、入院患者を転院させる必要が生じました。対策班の調整により、新潟県立精神医療センターと新潟県精神科病院協会の民間病院が入院患者を受け入れました。

災害の影響で精神状態が悪化した場合の救急対応として、新潟県立精神医療センターが24時間体制で対応しました。後方支援病院として、新潟県精神科病院協会の民間病院が新潟県立精神医療センターからの患者を受け入れました。

(5)啓発普及、研修活動

災害発生直後に、被災者に心身両面の健康について注意を促すためのポスターとリーフレットを作成して、避難所等に配布しました。その他、精神保健福祉センターとして、被災者のこころの健康に関するリーフレットを20種類以上と、精神保健医療活動の現況をまとめた「こころのケア通信」を適宜作成し配布しました。

各保健所、市町村では、こころのケアチームの協力を得て、一般科医師、保健師、ケアマネジャー、民生委員などを対象とした研修会を開催しました。

課題

この震災における精神保健医療活動は、平成17年度に入っても進行中ですが、これまで支援活動を行ってきた過程で見えてきた課題を提示します。

(1)コーディネート業務への支援

被災地では、保健分野に限っただけでも、一般医療チーム、こころのケアチーム、ボランティア等、数多くの支援者が活動していました。それらのコーディネートは地元市町村や県保健所スタッフが行っていましたが、外部からの支援が増えるほど、地元スタッフにかかる負担も増大しました。

外部支援がいくら豊富であっても、それをコーディネートできなければ有効な活用は期待できません。大規模災害においては、過剰な負荷によって地元スタッフの調整機能はオーバーフローに陥るため、これを支援する仕組みを確立することが必要となります。

(2)支援者の健康管理

今回の災害支援において目立ったのは、自らも被災しながら献身的な態度で支援を行っていた市町村職員等、地元支援スタッフの働きです。過労から体調を崩した者も少なくないと聞きます。

対策班では、災害発生当初から被災市町村に対して、職員の休養の必要性を繰り返し訴えてきましたが、目の前に問題が山積している状況では、なかなか休むことができないのが実情でした。職員の健康管理に関しては、より強力な啓発普及対策と、管理者の意識改革が求められます。

(3)精神科医療チームの機能とあり方

今回被災地で活動した、こころのケアチームの多くは、精神科単独のチームでした。しかし、こころのケアチームの活動実績からも分かるように、身体的な問題と精神的な問題とを分けて対応することはあまり効率的ではありません。医療チームの中に、精神科医や精神保健福祉士が所属して、心身両面の問題に対応できるようにすることが望ましいと考えます。

その一方で、精神科医療チームの活動においては、訪問診療やミニ講話などの地域精神医療活動も非常に大切です。

これらを総合して考えると、災害時に活動する精神科医療チームには、一般医療チームと精神科スタッフが密接に連携して活動する、いわば「総合病院精神科」的な機能と、積極的に地域に出て活動する「地域精神医療」的な機能の両面が求められることになります。これらを両立させるような精神科医療チームのあり方が、今後検討されるべきでしょう。

(ふくしまのぼる 新潟県精神保健福祉センター)