音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年7月号

知り隊おしえ隊

愛・地球博で世界を体感しませんか?

石川亜紗美

われら万博探検隊

21世紀初の万博は、「自然の叡智」をテーマに掲げ、環境にやさしい万博をうたっています。もちろん、人間も自然、環境の一部。人にも優しい万博は、すべての人が安心して楽しめるよう、設計の初期段階から障害をもつ当事者が関わり、さまざまな工夫がなされていることが、ウリです。さて、私たちは、どんな世界と出会えるのだろう…。5月晴れの空の下、弱視の私と電動車いすを使用している辻さん、介助の杉浦さんと松田さんの4人は、「知り隊・おしえ隊」として、愛・地球博へ出かけました。

会場へGO!

JR名古屋駅より「エキスポシャトル」に乗ると、約40分で会場へ到着。車窓からは、都会から郊外、そして、田畑や山といったごくどこにでもある田舎の風景が広がります。エキスポシャトルの終着駅「万博八草」駅を降りると、近未来の乗り物、リニモが、私たちを出迎えてくれました。スタッフの連携誘導で、スムーズに乗車でき、数分で「万博西駅」到着。

西ゲートからいざ入場

会場入り口は、熱気あふれる多くの来場客で、にぎわっていました。もちろん、その人だかりを抜けるためには、多少の時間を要しますが、中の様子を想像すれば、待ち時間は苦痛になるほどではありません。ゲート横にはケアセンター(入り口まで誘導ブロックあり)があり、次から次へと車いすを利用している方など身体が不自由な方とその同伴の方が入場されていました。ここは、高齢者・障害者に対するサポート活動の拠点で、バリアフリーガイドマップの配布、点字と大活字併記のガイドブックの貸し出し、手動車いすの貸し出しなどを行っています。センターの設備やサービスを利用する目的で、ここから入場することもできます。私も点字版ガイドブックを借り、いざ入場。

会場の中へ一歩足を踏み入れると、実にユニークで多種多様な地球の姿に出会えます。私は、海外の人や文化に触れることがとにかく好きなので、外国館にはとても心ひかれました。なにしろ、122か国の国々と国連地域が集結しているのです。

事前に立てた計画では、混みそうな日本館や企業パビリオンを見てから、外国館をじっくり回ろうとしていたのですが、いざ、現地に行ってみると、企業はどこも100分以上待ち、または整理券完売。それなら、空いている外国館から回って行こう、ということで一致しました。外国館は、エリアごとに6つに分かれており、「グローバル・ループ(長久手会場のメインロード・空中回廊)」沿いに、点在しています。ループには、階段かエレベーターで上がり、目的のエリアで降りるようになっています。ここからは会場全体が見渡せ、緑の山々、色とりどりのパビリオンの眺めを楽しみながら歩けます。これも魅力の一つでしょうか。

外国館は世界各国を旅した気分

外国館に飛び込んでみると、各国の文化や家族の様子、観光への案内、特産品の紹介、料理等、実に多種多様な表現がされていて、感心しました。じっくり見たところ、さらっと見たところを合わせ、15以上は回ったでしょうか。最初に行ったイタリア館では、チョコレートでできた車の模型があり、近くに寄ると、甘い香りがしました。ロシア館では、マンモスの骨格模型が展示されており、骨の一部に触れることができました。そして、私がぜひ見たい! と目をつけていたのは、イギリス館。自然・動物をテーマに、ユニークな科学技術が紹介されているのですが、その中に、コウモリの超音波からヒントを得て開発したという、視覚障害者用超音波式杖「ウルトラ・ケイン」があるというのです。真っ暗な館内に入り、実物はどこだろうと思いながら見ていたら、私の白杖を見てか、スタッフが来て「体験できますよ」と、案内してくれました。杖は、持ってみると通常のものの2~3倍くらいの重さ。左右にゆっくり振りながら歩くと、壁に近くなるにつれ、指に振動が伝わってきました。柄の部分から超音波が発信され、握り手にあるボタンを通して、振動が伝わる仕組みになっているそうです。ただ、人など動いているものには、反応が弱いようです。スタッフの方は、「慣れたら、感覚が分かってくるみたいですよ」と言っていました。なかなかおもしろい発想だと思いますが、果たしてこれが実用化される日は来るのでしょうか…。

それぞれの楽しみ方を

外国館は、それぞれの興味や視点によって、楽しみ方もさまざまだと思います。私は、触れるもの、聞けるもの、体感できるものがあることで、楽しさが一気に膨らむ気がしました。辻さんはアメリカ館、松田くんは死海に潜る体験ができるというヨルダン館、杉浦さんはヨルダンの塩でできた美白石鹸に心ひかれていました。その中で、私たちが共通しておもしろいと思ったのは、各々の国の障害者に対する対応です。特に現地のスタッフがきているので、その国の障害者のとらえ方が、垣間見えるのではないかと。列に並んでいると、さりげなく別ルートから通してくれるところ、前の席を案内してくれたところ、階段昇降機はあるものの、何も説明されず、困ったところ等々。とにかく、世界が身近に感じられたひと時でした。

企業館と日本館

企業館は、夕方には少し空いてきたものの、やはり予約なしでは待ち時間があったので、「JR東海超電導リニア館」のみ入りました。ここは、3Dメガネをかけて、リニアの走行シーンが体感できます。私は、音響で迫力は感じられましたが、これは見える見えないだけでなく、電車が好きかどうかによっても、好みが分かれるかもしれません。最後に入った人気の日本館は、列に並んでいたら、スタッフが「よろしければ、音声ガイドがあるのでご案内します」と声をかけてくれました。本人はイヤフォンをつけるだけで、ボランティアの方が、PDA端末を操作してくれました。言葉の説明で、より想像が広がり、あたたかく神秘的な自然と人の探究心を感じました。

会場のバリアフリー状況について

会場は、山を切り拓いてつくられているため、起伏が激しく、足腰が弱い方、特に高齢者や障害者には、少しつらいかもしれません。その場合、有料ですが、「グローバル・トラム」「IMTS」といった乗り物があるので、うまく活用するとよいでしょう。また、風が強く、天候が変わりやすいので、体温調節できない方は、寒さ暑さ、雨対策を十分検討してください。もし、体調が悪くなった場合は、ケアセンターや診療所で休憩でき、ドクターや救命救急士が診察や相談にのってくれます。外出先で最も重要な設備の一つはトイレ。ほとんどが、車いすで使えるよう間口が広く、オストメイト対応トイレも各所にあります。パビリオンでは、大半のところが車いすのまま利用可能ですが、一部では予約が必要なので、ホームページ等での事前予約をお勧めします。音声ガイドや触知模型などの情報は、バリアフリーガイドブックで紹介されているので、事前にチェックしておくとよいでしょう。

だれもが快適に楽しめるために

さまざまな障害をもつ当事者の視点が取り入れられた、この愛・地球博。私たち4人も、細かな不便は感じたものの、ほぼすべての施設を快適に利用でき、一緒に楽しむことができました。設計の初期段階から携わってきた障害者団体「AJU自立の家」の鈴木さんは、「一時的な催しのため、建物のバリアフリーには、限界がある。その分、ソフト(人的サポートの充実やスタッフ教育など)に力を入れた」と話していました。ソフトは、たくさんの人が利用することで、よくなっていくもの。また、何人かの高齢者の方から、「万博は、快適でとっても楽しかった。また行きたい」という声を聞きました。障害者が提案し関わることで、だれもが快適に使える仕組みになっていく。そんなメッセージをこの「愛・地球博」は、発信しているように思います。さぁ、あなたも出かけてみませんか?

(いしかわあさみ 特定非営利活動法人チャレンジド)

●愛・地球博公式ホームページアドレス
http://www.expo2005.or.jp
●愛・地球博総合インフォメーション
TEL :052―955―2005