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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年9月号

移動・交通のバリアフリーを検証

視覚障害者にとっての交通バリアフリー法を考える
―近未来への期待を込めて―

小森晃

交通バリアフリー法が施行されて早くも5年を迎えようとしている。「今、視覚障害者にとって日本は安心して移動ができる国ですか」と問われたら、あなたならどう答えるだろうか。

私の勤務する東京都視覚障害者生活支援センター(以下、支援センターと称す)では、視覚障害者の方が住み慣れた地域で自立した生活を過ごすことを目標に、移動、コミュニケーション、ADLの面から生活訓練を提供している。

今回、支援センターの最寄り駅を参考に電車やバスなど交通機関のハード面から、旅客施設(鉄道駅、バスターミナル)や車両(鉄道車両、乗合バス車両)、信号機(音響信号機、高齢者等感応信号機)のバリアフリー化と、ソフト面から案内情報の適切な提供(音声誘導装置、視覚障害者誘導用チャイム)や障害のある方への社員教育などのバリアフリー化が現在どんな状況であるのか。そして、これまで自分が関わってきた視覚障害者の外出支援ボランティアの養成やガイドヘルパー養成事業から福祉のまちづくりを含め、バリアフリー化を進めていくうえでの人材育成の面から交通バリアフリー法の現状と課題についてまとめてみた。

支援センターの隣には都営地下鉄大江戸線の若松河田駅が交通バリアフリー法施行とほぼ同時期に誕生した。その駅構内では音声案内付きエレベーター、音声誘導装置や視覚障害者誘導用チャイムが設置され、視覚障害者誘導用ブロックの敷設もされているほか、音声誘導システムの研究開発の実験モデル駅としても協力がなされている。近隣には国立国際医療センターや東京女子医大病院といった医療機関や本誌の発行所である日本障害者リハビリテーション協会のある戸山サンライズや区立の障害者福祉センターがあることから、大江戸線開通当初より杖や車いす、歩行器、介助者を同伴された高齢者や障害者の方の利用の多い駅として知られている。

当初、無理解な自転車やバイクの違法駐輪が非常に視覚障害者の移動の妨げになっていたが、近年では毎日駐輪を整理されているボランティアの方や駐車スペースの新設によりその問題も良い方向に向かっているようである。また、高齢者やさまざまな障害者の方が多数利用することもあり、駅職員やバス乗務員の接遇も良く協力的である。と同時に、近隣の商店街の方も慣れて心のバリアフリーが徐々に広がっている感じである。

しかし、バリアフリー化の基準であるプラットホームに視覚障害者誘導用ブロックが敷設されているが、ホームドアや可動式ホーム柵など転落防止設備は設けられていないことや、時間帯によって、駅員がひとりもいない状態もあり、安全面から視覚障害者の駅利用者から不安の声をよく聞くことがある。

次に、支援センターの最寄駅以外ではどうかとみてゆくと、案内情報の適切な提供として音声誘導装置が有効に活用されていない点を感じる。視覚障害者に現在地や方向の確認など必要な情報を発信していくシステムは、現在数社で取り組んでいるが、ある区で行われた音声誘導装置の送信機の所有状況の調査結果では、送信機所有者が1割に満たないということである。福祉のまちづくりの面からも活用方法を模索する必要がある。この点に関しての情報や提案は後述する。

さて、交通事業者側の障害のある方への職員教育はどう行われているのだろうか。バリアフリー化を進めていくうえで、ハード面を扱い、利用者に接遇する職員の水準が地域格差を生むのではないだろうか。バス営業所でも、日頃から視覚障害者のガイドヘルパー養成事業に協力いただく所や各バス停の定位置での停車の遵守、乗車時の音声案内の完全実施の状況を指導係がチェックして接遇に努めている所は相対的に視覚障害者からも評判が良いようである。

そして、「JBOS東京」という視覚障害者の外出支援ボランティアの養成に関わる者として、市民の視覚障害者に対する理解を深め、手助け等積極的な協力者を養成していくことが、今後さらにバリアフリー化を進める力となり、福祉のまちづくりには欠かせないことであると感じている。

ところで、前述の音声誘導装置の活用についてであるが、世田谷区松陰神社通り商店街で今年1月に、「音で聞くウインドウショッピング」なるイベントが行われた。やさしい商店街づくりの会による地域の取り組みとして、AMラジオ微弱電波発信機から商店街音声案内装置の実験が行われた。

視覚障害者の方も日々、会社や学校に通い、買い物をする、手続きをする、通院する、文化教養活動するなど、外に出て生活している。そんな時に、気軽に出かけられるまちには、まだまだなってはいない。

そこで、「てくてくラジオ」という音声案内システムと「エコーカード」「エコーチャイム」という音声誘導装置を、バリアフリー化への可能性と視覚障害者の生活に今後の期待が膨らむアイテムとしてご紹介する。

開発販売している大田区池上に事務所がある(株)バリアフリージャパンの代表取締役である道音征夫さんによると、「てくてくラジオ」はAM微弱電波発信機にICレコーダー、AM変調回路、AM電波送信機能、バーアンテナを内蔵し、市販の1000円程度のAMラジオのスピーカー式のものや、イヤホン型の100円ショップで販売されているもので、1620キロヘルツを標準として、周波数にダイヤルを合わせることによって、発信機に録音された音声を聞くことができる。発信機から2~3mの範囲でその音声を聞くことができる。商店のお勧め品の宣伝やチラシにも活用もできる。公共施設の建物全体やトイレの中の紹介にも活用できる。電源が取れる所であれば、発信機が簡易に取り付けられ、さまざまな活用方法が模索できる可能性を秘めたアイテムである。

さらに、「エコーカード」という音声誘導装置についても視覚障害者の方が、名刺サイズで約35gの携帯型カードの発信カードで、2時間のオートパワーオフ機能付き、IDコードによるデータ送信方式のため、セキュリティも保持される。厚生労働省の日常生活用具給付の対象にもなっており、高齢者等感応信号機の操作も可能である。

「エコーチャイム」は駅や公共施設周辺や施設内に設置される受信機で、電源さえあればどこでも設置が可能である。送信機が5~10mの距離に近づくと音声やチャイムで案内が自動的に始まり、また8チャンネルまで活用でき、センサーとも組み合わせが可能とのことである。バスターミナルの音声案内や自販機の案内、コンビニの案内などなら24時間活用でき、高齢者や聴覚障害者にも文字データを送れるものなので、バリアフリー化には近未来の有望アイテムである。問い合わせは、TEL 03―3751―7491(バリアフリージャパン)まで。

最後に、ご自分でもバリアフリーの点検評価をされている支援センターの退所生の方とお話しをする中で、大事なヒントをいただいた。「鉄道駅などの人員削減によるホームでの無人化をなくし、電車の乗り換え先まで誘導案内してくれる方がいると移動の自由がもっと増えます」と。

そう、病院や郵便局で地域のボランティアさんが活躍されています。鉄道駅構内にも元職員の方の活用や鉄道に詳しい人材、妊婦さんにも配慮できる主婦の方など、案内誘導役のボランティアとして養成することは、だれにでもやさしいユニバーサルな交通バリアフリーを進めていくことである。

その時に、「視覚障害者にとって日本は安心して移動ができる国ですか」という問いに、少しは答えられるようでありたい。

(こもりあきら 東京都視覚障害者生活支援センター)