「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年9月号
提言 聴覚障害者から
移動・交通のバリアフリーについて
小川光彦
聴覚障害者は行動上障害がないので、移動の際の困難はない、とよく誤解されます。
実は明確な障害があります。情報の障害です。
バリアフリーをデザインするとき、長さや重さに配慮する必要がある、ということにはだれもがすぐに気づきます。メートル法やグラム法で測ることができます。それでは情報のバリアフリーのためには、困難の度合いはどうやって測ればよいのでしょう。情報の量を換算する単位が必要です。計測方法が必要です。ですが、音声情報のように、目に見えない、後に残らないものだと、計測も困難です。
情報の障害には、わかりにくさがつきまといます。聞こえないと車両などの接近に気づかず、危険なケースがある、というのはわかりやすいでしょう。ですが、聴覚障害者が電車に乗るとき、エレベーターに乗るときに危険がある、というのは皆さん想像できるでしょうか?
ホームの電車のドアが開いていて、発車ベルが鳴り響き、「駆け込み乗車はおやめください」というアナウンスがあれば、普通は乗りません。聞こえる人は。ですが全く聞こえない人には、ドアが開いていることしかわかりません。危険かどうか、という情報はないのです。さらに「飛び乗った」後も、「他の乗客のご迷惑になります」云々、というアナウンスがあったりすると、周囲の人から白い目で見られてしまいます。
エレベーターではどうでしょう。重量オーバーのブザーがあります。乗ったとき、ブザーが鳴っているのが聞こえないでいると、周囲の人に「早く降りろよー」と白い目で見られます。こうして情報障害者は、理由もわからずに犯罪者扱いされる危険にもさらされているのです。
これは聴覚障害が「見ただけではわからない」障害であることに加え、情報に障害のない人の視点でシステムが作られてきたことに問題があるのです。環境から制約(障害)を受ける方々にとっては人権を著しく侵害され、人間としての誇りを損なわれるものでした。情報障害者の視点で検証することが必要なのです。交通バリアフリー法ではこうした視点が欠落していました。
東京都では去る8月5日、第5期東京都福祉のまちづくり推進協議会から、「ユニバーサルデザインの理念に基づく福祉のまちづくりの推進に向けて」の提言の中で、情報面の配慮に着目した「移動円滑化のための情報提供のユニバーサルデザインガイドライン」(※)が出されています。特に整備の遅れている情報面のガイドラインになっている点が、これまでなかった視点です。
こうしたガイドラインが普及することで、聴覚障害者の情報障害改善に大きく寄与することを期待しています。
(おがわみつひこ ベターコミュニケーション研究会)
※移動円滑化のための情報提供のユニバーサルデザインガイドライン
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kiban/machizukuri/kanren/guideline/files/p18-19.pdf