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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年9月号

わがまちの障害者計画 神奈川県秦野市

秦野市長 二宮忠夫(にのみやただお)氏に聞く
参加と協働、味わいのある温かなサービスの提供

聞き手:成田(なりた)すみれ
(横浜市総合リハビリテーションセンター福祉部職能訓練課長、本誌編集委員)


神奈川県秦野市 基礎データ

◆面積:103.61平方キロメートル
◆人口:168,261人(平成17年8月1日)
◆障害者の状況(平成17年8月1日現在)
身体障害者手帳保有者 3,921人
(知的障害)愛の手帳保有者 750人
精神障害者保健福祉手帳保有者 440人
◆秦野市の概況:
秦野市は、神奈川県央の西部に位置し、県内19市のうち4番目の広さをもつ都市。北方には神奈川県の屋根と呼ばれる丹沢山塊が連なり、南方には渋沢丘陵が東西に走り、県下で唯一の典型的な盆地を形成している。1950年代より企業進出が相次ぎ、工業集積が増大。県央西部の広域拠点都市。本年1月1日市制施行50周年を迎えた。
◆問い合わせ:
秦野市健康福祉部障害福祉課
〒257―8501 秦野市桜町1-3-2
TEL 0463―82―5111(代) FAX 0463―82―8020

秦野市障害者福祉相談ネットワーク

障害のある人が、身近な地域で福祉サービスの適切な選択や生活相談、情報提供を受けることができる体制の整備を図るため、施設等の相談機能のネットワーク化を図り、三障害の連携を強化し、総合的、横断的な解決を図ります。


▼秦野市の特徴、魅力についてお聞かせください。

本市は神奈川県央の西部に位置し、北は丹沢山塊、南は渋沢丘陵に囲まれた盆地で緑多く、地下水の豊かな山紫水明の地です。

従来は農業、特にたばこの耕作や落花生栽培などを行っていた地域でしたが、80年代以降東京から私鉄で1時間余という地の利もあって、急速に首都圏のベッドタウンとして都市化が進みました。面積103平方キロメートルという市内には、4か所の駅があり、温泉病院や日帰り入浴施設のある街、大学キャンパスの玄関、丹沢への登山口などさまざまな顔をもっています。

また恵まれた自然環境が疾病等療養者に適していることから、戦前より国立療養所、また戦後70年代には精神病院、障害者施設などが開設され、現在では地域社会に自然な存在として溶け込んでいます。

▼二宮市長は、障害のある人たちの地域生活支援について、どのようにお考えですか。

本市では昭和56年の国際障害者年を契機に障害者福祉都市の指定を受け、その中で施設や制度の整備等を行ってきました。障害のある人もない人も、子どももお年寄りもお互いに支え合い、地域でいきいきと明るく豊かに暮らすことのできる普通の社会をめざしていこうとスタートしました。現在も「ノーマライゼーション」の理念を具体化する努力を重ねています。

たとえば市内にある4精神病院(総ベッド数も1000床)では、入院から外来、地域の生活へと移行する人々に対する地域住民への理解や協力を図るよう支援を行い、地域での共存に早くからチャレンジしてきました。

多様な市民が混在して暮らすことのできる社会、普通の社会をめざしていくことを重視し、以降「神奈川福祉の街づくり条例」を受けての「秦野市版」の制定と、暮らしやすい環境整備などを行いました。最近では交通バリアフリー特定事業計画を策定し、エレベーターや歩道の整備などにも力を入れています。そして平成11年には「障害者福祉計画」を策定し、大きく変化した障害者を巡る社会環境を受けてのさまざまな分野への施策を進めています。

障害者が暮らしやすいまちは、市民全体にとって暮らしやすいまちと言えます。それはハード面・ソフト面の壁をどのように取り除いていくかです。社会的・経済的ハンディを負っている方々に制度的な面でも充実させていくことが大切です。これは市民一人ひとりの努力(自助)と福祉関係者、ボランティア、自治会の方々などの協力(共助)、公の支援(公助)をみんなで支え合っていくことが安心して暮らしていけるまちであると呼びかけています。

三障害を同じレベルでサービス内容を充実させていくことについて、本市では、早くから決断しました。たとえば、精神障害者施策については平成14年に市町村に移管されましたが、本市では、平成15年から精神障害者手当を支給しています。これは、三障害の格差是正、バランスを取るためのものです。また相談機能というのは、一番大事だと思っています。専門職を市独自で採用してさまざまなニーズに対応しながら、社会資源を生かしつつ住民パワーを生かすためには、ネットワークが重要です。関係者間のネットワークを利用者の方々にとって期待できるように地域全体で取り組んでいくことが大切です。

とかく行政にしても民間にしても「与える」という感じがあります。福祉においても同様ですね。福祉というのは、与えるというのではなくて、「味わってもらう」ことが大事です。ですから障害のある人も地域を構成している人と同じような気持ちで毎日が送れるような、そういうサービスシステム、温かい中身のものを考えていったほうがいいと思っています。

▼今年の3月に第2期「秦野市障害者福祉計画」が策定されました。今回の計画のセールスポイントと、そこでの新規事業についてお聞かせください。また、精神障害のある方々の生活支援のことや今後、大切にしていきたい事業のことなども併せてお聞かせください。

今回の障害者福祉計画は、「自立して暮らす、ともに暮らす、地域で暮らす」の副題のもと、障害のある人も普通に暮らせるまちを実現するために、すべての市民の参加と協働により事業の推進を図ることをめざしています。

人間として尊ばれる社会、安全・快適に地域でいきいきと暮らす社会、一人ひとりがお互いに理解しあい、協力し合える社会をつくることの3つを基本理念に、1.障害者個々人のライフステージに応じた施策の展開、2.地域での暮らしを重視した支援体制の整備、3.自己選択・自己決定、自己実現を支える仕組みづくり、4.地域社会への参加促進、5.安全に、安心して暮らせるまちづくりの5つを各種施策の基本軸として、障害のある人々の乳幼児期から高齢期、および生涯にわたっての生命や健康、生活や暮らし、人生を支えるべく多様な支援サービスや事業を提供することにしています。

今回の計画の特徴はいくつかありますが、自立を支える相談支援の仕組みづくりで、新規事業として「秦野市障害者福祉相談ネットワーク」の設置があります。

これは市内にある社会資源(福祉施設)が第一義的窓口となって、障害のある人の相談を受けるための事業です。施設は地域に住む障害のある方々の相談窓口になっています。それぞれの施設は一つの障害に対応するのではなく、身体・知的・精神のどの障害にも対応できるようにすべきです。また、施設開放により、地域住民との連携を深めていくことも大切だと考えています。

そのためには、身近な地域で福祉サービスの適切な選択や生活相談、情報提供を受けることができる体制の整備や、市内にある施設等の相談機能のネットワーク化と身体・知的・精神の三障害の連携を強化し、総合的、横断的に解決を図ることをねらいとしています。

ネットワーク化により各施設が連携を図ると、自分たちがやっていることが見えてくるようになります。同時に問題解決能力が高まりますし、また透明性を保つことができるようになります。今後は、各施設の職員で県のケアマネジメント研修修了者を軸に、相談ネットワーク担当者会議の開催なども予定しています。

▼秦野市には早くから障害者施設や関連医療機関がありますね。このことが地域においてどのような意味を与えていると思われますか。

地域に施設があることは、障害者の社会生活にとって不可欠であり、ノーマライゼーションに貢献していると思います。施設も障害者の生活の場としてのみではなく、日中活動や各種社会参加、安らぎや出会いを提供するなど多面的な役割を提供するようになっています。

歴史ある地域の施設は、まだまだ地域に暮らす障害のある人々に対して提供できることは多いと思っています。

▼現在の課題を、今後の障害保健福祉施策にどう反映させていこうと考えておられますか。

現在議論中の障害者自立支援法案が障害者施策を考えていくうえで重要となるため、その動向を見守っていますが、性急に事を運ぶことには賛成できません。

各種事業の実施や継続を考えると、負担と給付のバランスをある程度考慮する必要があることはやむを得ないでしょうが、応益負担(定率負担)での費用負担の考え方は利用当事者へのていねいな説明と、当事者の理解と納得が不可欠と考えています。

▼秦野市は、わが国でも先駆的な福祉施設のある自治体で、秦野市ならではのこれまで地域で育んできた地域の風土を上手に活かした障害者福祉計画であると実感しました。長年市行政に携わり、福祉分野での管理者も経験された二宮市長からは、しっかりと地域に根づいた公民の連携協働の確かな歩みが確認されました。お忙しいなか、インタビューの時間をいただきありがとうございました。