音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年10月号

私流、旅の楽しみ方

「人」として「地球人」として

海老原宏美(えびはらひろみ)

8か国10回の海外旅行

初めて海外旅行を経験したのは中学校1年が終わった春休み、15年前のことでした。本当は、北海道旅行に行きたかったのですが、「シーズン中は車いすのお客様は他のお客様の迷惑になるのでツアーには参加できません」と旅行会社に言われたそうです。それを聞いた母が、国内がダメなら海外に行ってやる! とほとんど逆ギレのノリで企画したのでした(笑)。行き先は、「コアラが見たい」と以前から私が言っていたこともあり、治安も気候も良いと聞いていたオーストラリア。家族の中に英語ができるメンバーがいるわけでもなく、本当に行き当たりばったりの旅でした。それでも、現地の人々の大らかさに触れ、国内で感じるような障害者に対する興味津々の視線を感じることもなく、私が特殊な存在ではない、という初めての雰囲気に感動したことを覚えています。それ以来、海外の魅力、というものに取り付かれ、今までに10回の海外旅行で8か国を旅しました。

酸素ボンベと呼吸器をしたがえて

一言で海外旅行と言っても一般的な海外旅行とはずいぶん準備の手間が異なります。私の場合、一番厄介なのが酸素と呼吸器の問題。フライト中の分の酸素ボンベは事前に申し込んでおくのですが、これがまた順調にいったためしがない!「これは一般のお客様で緊急事態が起こったときのためのボンベなので…」と言われたこともありますが、「今、私が緊急事態のお客様です」とフライト中に交渉することにも慣れてきました(笑)。そして無事酸素ボンベを獲得すると、「××航空会社のボンベ獲得☆」と写真を撮ってコレクションにしています(笑)。呼吸器は、変圧器とたこ足コンセントさえあればどこの国でもやりこなせますが、医療が絡むと時には妥協も必要なのが残念ですね。

呼吸器だけでも大きな荷物ですが、それ以外に飛行機に乗るときには車いすと自分が一度分離しなければならず、それに伴いクッションだとかバッテリーだとか、車いすの付属機器を一挙に運ばなくてはいけなくなります。だから、その他の荷物は極力少なく! 介助者の荷物もリュックひとつなどにしてもらいます。「現地調達できるものは持って行かない」のが旅行のコツ。

そして、旅立つ前に主治医に英語の紹介状を書いてもらいます。万が一現地で病院に行くようなことになっても、自分の障害や生活の様子がすぐに伝われば少し安心ですよね。いままで幸運にも使ったことはないですが(笑)。

自分の足で現地をウォッチング

海外旅行では、観光というよりその国の人たちがどんな生活をしているのか、ということに興味があるので、地下鉄やバスに乗ってみたり、マーケットでご飯を買ってみたり、その場で知り合った人とおしゃべりをしたり、ちょっと手を貸してもらったり、ぶらぶらあてもなく散歩したりと自分のペースでその国の空気をとことん味わえるのが旅の醍醐味のひとつだと思います。私が使っている簡易型電動車いすは海外ではお見かけすることがなく、「これはどこの会社が作っている車いすなんですか?」とよく現地の人に声をかけられます。逆にこちらからそんなことを聞いてみたり。そんな些細な交流が大好きです。

動きやすいように部屋の家具は移動

私は、ホテルに着いたら洋服や洗面用具など、貴重品以外のものはホテルの部屋のタンスなどに入れて、ベッドの位置も動かして車いすで動きやすいスペースを作って、自分の部屋みたいにしてしまいます。余計なソファーなどは部屋から撤去してもらうこともあります。部屋にいるときにちゃんと休息できる、というのも意外と大事な旅の要素ですよ。

「地球人」を自覚できる旅

不思議なもので、海外旅行というのは回数を重ねるごとに海外に行ったという感じがしなくなるのです。国内旅行よりは確かに大変な面もあるけど、「日本人」という枠を超え、「地球人」になっていくのがたまに自覚できる時があります。初めての海外旅行で自分が「障害者」ではなく「人」として扱われた感動と同じような感覚とでもいうのでしょうか。狭いカテゴリーに捕われない自分というものができあがることで、いろんな価値観を受け入れられるようになります。

また、一度でも訪れたことのある国のことには、その後なにかと関心を持つようになります。一度でも行った国とは戦争なんてしたくないし、災害があったと聞けば募金など支援に積極的になりますね。発展途上の国に行けば自分はなんて恵まれた環境に生きているのかと感謝し、先進国に行けばもっとこういう部分を自分の国にも取り入れたいと勉強になる。そうやって海外にどんどん出て行く人が増えれば、世界は本当に平和になるのではないかと実感します。

ちょっと無理して海外旅行を重ねるたびに、障害も重度化し、身体には負担をかけているような気はします。でも、やっぱりその刺激には変え難い! 今後は、もう少しアジアの国に進出したいですね。

(自立生活センター・東大和)

◆旅を楽しむための必需事項◆

  • 基礎的な英語力:旅の充実度が違います。
  • 介助者への気配り:自分の旅を支えてくれる人あっての…。
  • 気合い:ボンベの獲得など、旅の間は交渉の嵐。