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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年10月号

わがまちの障害者計画 千葉県市川市

市川市市長 千葉光行(ちばみつゆき)氏に聞く
市民との協働で、「健康なまち」を築く

聞き手:石渡和実(いしわたかずみ)
(東洋英和女学院大学教授、本誌編集委員)


千葉県市川市基礎データ

◆面積:57.46平方キロメートル
◆人口:464,873人(平成17年10月1日)
◆障害者の状況(平成17年9月1日)
身体障害者手帳保有者  8,946人
(知的障害)療育手帳保有者  1,644人
精神障害者保健福祉手帳保有者  1,101人
◆市川市の概況:
千葉県西部に位置し、江戸川を挟んで東京都に隣接するという地理的条件から、戦後より急速に宅地開発が進み首都圏有数のベットタウンとして知られる。縄文時代の国の史跡や神社仏閣が数多くあり、戦前戦後を通じて文豪や芸術家が多く居住していることから、歴史と文化のまちとしての顔も併せ持つ。人と自然との共生、ITを活用した行政サービス提供にも先進的に取り組む。
◆問い合わせ:
市川市保健福祉局福祉部障害者支援課
〒272―8501 市川市八幡1-1-1
TEL 047―334―1111(代) FAX 047―335―2030

▼市川市については、知的障害者の親の会の活動などが活発で、以前から関心を持っていました。まず、障害者福祉の特徴についてお話しいただけますか。

今、「施設から地域へ」という流れが急速に進んでいますが、どんなに重い障害があっても、生まれ育った地域で暮らし続けたいという願いをかなえることが、障害者福祉を進める重要な視点だと考えています。市川市では平成10年3月に、「市川市障害者施策長期計画」を策定しました。すべての市民の人権が尊重され、地域社会においていきいきと活動できるよう、1.自立、2.参加、3.共生、を基本理念としています。また市民憲章では、1.協働、2.人間尊重、3.自然との共生、という3点をテーマとしています。

障害者施策としては、まず第一に「地域生活を豊かにするための取り組み」をあげています。「居場所づくり」と言ってもいいと思いますが、自立と参加をどう具体化し、市民としての位置付けを築いていくかを課題としています。具体的には、1.居住の場の確保、2.日中活動の場の確保、3.介助サービスの充実、4.人権擁護の充実、の整備促進に取り組んでいます。市が特に力を入れているのは、知的障害者や障害児のホームヘルプサービスです。支援費制度になる前の利用は知的障害者が5名、障害児は皆無でした。制度開始時の平成15年4月には、知的障害者は98名となり、障害児は42名に増加しました。

▼市川市での利用者の急増については新聞でも紹介されていて、私も興味深く拝見しました。こうしたサービスが可能となる背景として、どのようなことがあるのでしょうか。

まず、平成12年から余暇支援について、「手をつなぐ親の会」などと勉強会を重ねてきました。支援費制度になってからは行政としても、地域生活に欠かせないものとして、余暇活動や社会参加のための移動介護を積極的に認定してきました。さらに、適切なサービスが提供できる事業所の育成に努めました。そこで、障害者施策の第二の特徴として、「市民との協働による地域社会づくり」があげられます。今後も「行政と市民との協働」を基調に、障害者が自らサービスを選ぶための基盤整備を進めたいと考えています。

▼「市民との協働」ということでは、市川市では「1%支援制度」というのが全国から注目されていますね。

はい。多方面から問い合わせが多いので、『1%の向こうに見えるまちづくり』という本を出版しました(笑)。正式には、「市民(納税者)が選ぶ市民活動団体支援制度」といい、今年4月にスタートしました。納税者である市民が支援したいと思う市民活動団体を選び届け出ると、その方の納税額の1%相当分を、市から補助金としてその団体に交付する制度です。この制度のヒントはハンガリーにあります。私自身、2度、ハンガリーに行ってきましたが、今の市川市の制度は独自のものです。市川はもともとボランティアや市民活動が盛んで、市が把握しているだけでも270団体を超えています。しかし、これらの団体は財政的に厳しく、行政が団体をいかに支援し、育て上げるかが大きな課題です。1%制度は、財政支援のためだけでなく、市民団体が、「地域の中で認められ、市民に認知されること」をめざしています。ここがポイントで、地域のこれらの活動をさらに育て、市民に認知してもらってこそ、地域がいきいきとしてきます。それこそが「まちづくり」であり、この制度がめざすところなのです。

▼さきほどの「居場所づくり」や「まちづくり」という言葉からも、障害のあるなしにかかわらず、市民一人ひとりが尊重され、地域で役割を果たしているということが実感できます。まさに市民憲章にある「人間尊重」が、このような形でも実現しているのですね。こうした活動の基盤として、市川市がもう一つ注目されている、WHO(世界保健機関)の「健康都市」についてお聞かせいただけますか。

昨年11月、市制施行70周年記念式典で、「健康都市いちかわ」宣言を行いました。これはWHOの精神を基本に、都市に住む人々の健康を維持するため、健康都市連合に参加し、同じ目的の世界の都市と連携しようとするものです。このきっかけは、IT関係の情報収集のためにスウェーデンに行ったことです。この時にヨーロッパの都市を見学し、1986年に始まった健康都市の取り組みについて学びました。すでにヨーロッパでは健康都市のネットワークがあり、アジアでもそれを作る動きがあることを知りました。そして、2004年にマレーシアで主にアジアの地域を中心とした「健康都市連合」が設立され、日本からは市川市など4市が設立メンバーとして参加しました。その後、韓国ウォンジュ市やフィリピンのマリキナ市などとも交流が始まり、それぞれの「健康都市」としての情報を交換しあい、発信しあっています。こうした中で、アジアがつながっていることを実感しますし、アジアの平和にもつながっていくと考えています。そして市川市に目を向けると、障害についても「健康」がキーワードになって、地域を基盤にいろいろな活動が広がっていると感じます。

▼市川市にとっての「健康都市」の意味がよく理解できました。そういうことの発展として、「あんぜん・あんしん」を基盤とする「災害に強いまちづくり」ともなるわけですね。災害時の「ITによる情報発信」も注目されていますが、市川市はIT化にも意欲的に取り組んでいますね。

これからは情報化への取り組みが行政サービスを大きく変えると思います。市川市では全国に先駆けて、市内のコンビニエンス・ストアに「360+5情報サポート」の情報端末機を設置しました。施設の予約をはじめボランティアや福祉などの情報を、365日24時間体制でいつでも入手できるシステムです。一方で、個人情報保護にもいち早く取り組みました。平成15年10月には全国の自治体で初めて、情報セキュリティ・マネジメントシステムの国際的な標準規格「BS7799-2:2002」を取得し、同時に、国内の標準規格「ISMS Ver2.0 適合性評価制度」の認証も得ました。しかし、ITの本来めざすところは「市民と行政の双方向性」ということであって、単なる事務の簡素化・効率化だけではありません。これまで行政は自分たちの頭だけで、「よかれ」と思ってやってきました。市民のいろいろな意見を吸収することで、より細やかな、市民の立場に立った施策展開が可能となります。市民と行政とのコミュニケーションをスムーズにして、「協働」という新しい方向性が具体化するのです。ITを市民との交流の原点と考えて、その活用を進めています。障害者福祉にとっても、このIT活用は防災という視点ばかりでなく、情報提供や就労開拓という意味でも新しい発展につながると考えています。

▼本当にそうですね。では次に、就労支援についてお話しいただけますか。

障害者施策の第三の特徴として、「就労支援への取り組み」があげられます。就労を通じて社会参加し、自己実現を図ることはだれもが願うことです。障害がある人が就労し、仕事を続けていくためには、仕事だけでなく人間関係など、さまざまな支援が必要です。そこで、平成12年6月に市の単独事業として「障害者就労支援事業」を創設し、障害者就労支援センター「アクセス」を設置しました。運営を「地域作業所連絡会」に委託し、職場開拓から実習中のジョブコーチによる支援など、障害者のニーズに合わせたきめ細かな対応に努めています。昨年度は年間2,722件の相談などに応じ、登録者数が87名で、就職者14人となっています。

▼着実に実績を上げていますね。それでは、これからの市川市についてどんな展望を持っていらっしゃるか、その中での障害者施策についてお聞かせください。

市川市は多くの貝塚や国分寺などもありますし、永井荷風氏など、文化勲章受賞者が4人も住んでいたりして、「歴史と文化のまち」という側面もあるのです。多分、他の市町村にはないと思いますが、市役所には「文化部」というセクションがあって、「文化とまちづくり」というのも市政の柱になっています。キーワードは、1.地域、2.健康、3.文化、ですね。文化はいうなれば、「心の健康」ということでもあって、今の日本社会ではますます強調されなければならないと思うのです。文化も含めて「健康なまち」を築き、その「まち」で市民がどう生きていくかが問われてきます。「まち」の構成メンバーである市民が果たす役割として、市民活動やボランティアもあると思うのです。これは、障害がある市民も同じです。それぞれの市民のもつ力、可能性を生かせる「まちづくり」が求められ、それを実現する一つが「1%支援制度」ということでもあるのです。

市川市の障害者計画は策定から7年が経過し、この間に措置制度が見直され、自己決定を尊重する支援費制度に移行しました。障害者を取り巻く環境は、かつてないスピードで大きく変化しています。新しい計画の策定にあたっては、「行政と市民の協働」を基調とする市川らしく、「市民福祉会議」のようなものを組織したいと考えています。障害のある市民もない市民も一緒になって、市民主体の新しい計画づくりを実現したいと思っています。平成18年・19年と2年がかりで、1.障害者だけでなく、さまざまな人が共に生きる地域社会の実現、2.そのための福祉サービスの再編成、3.計画の推進・進行管理体制の整備、などを視点として、「協働による計画策定」を進めていきたいと思います。

▼本当に楽しみです。市長の国際的視野に立った独創的な発想、何より市民を尊重し、「協働」を貫いている姿勢には感服させられました。これからの市川市に、熱い視線を注ぎ続けたいと思います。今日は、本当にありがとうございました。