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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年10月号

ほんの森

澤村誠志著
実践 地域リハビリテーション私論―ユニバーサル社会への道標

評者 奥野英子

「私の先生は当事者の方々である、私の教科書は地域社会です。」

このようなお言葉を自然に語られる澤村誠志先生の全人間的魅力にとりつかれてしまう人は、わが国においても世界各国においても、非常に大勢います。

澤村先生は神戸市にお生まれになり、お父様が鉄道事故によって下腿切断をされ、幼少期からお父様が義足の不適合による傷に苦しんでいたことを身近に見ているなかで、医師になることを決意されました。神戸医科大学(現神戸大学)に進んだ後、米国に留学され、同大学整形外科教室に戻られてからは、兵庫県身体障害者更生相談所の嘱託医として年50回にも上る巡回相談や、兵庫県立のじぎく園(肢体不自由児施設)などの勤務を経て、1960年代から40数年をかけて、わが国および世界においても最高レベルの総合的リハビリテーションセンターである「兵庫県立総合リハビリテーションセンター」を築かれました。

この間、わが国に義肢装具士の国家試験制度を作られ、補装具交付制度の改善や、地域リハビリテーションの概念の普及とシステム化、地域リハビリテーション協議会設置の制度化等、わが国の障害児・者と高齢者のリハビリテーションを発展させるために多大な貢献をなされるとともに、アジア諸国の義肢装具技術者の養成に尽くされ、国際義肢装具協会の会長等の要職にも就かれてきました。

このように50年にわたる澤村先生の足跡をたどり、わが国におけるリハビリテーションの発展の歴史や、地域リハビリテーションの重要性を知り、福祉のまちづくりやユニバーサルデザイン等について学ぶためには、何にもかえがたい素晴らしい大著です。

澤村先生は、障害児・者や高齢者のリハビリテーションとユニバーサル社会を実現するために、地域を基盤としてさまざまな取り組みをされ、それらが国の制度としても実現されてきました。海外の医療・福祉・居住環境の現場を頻繁に訪問され、海外先進国との比較研究から、わが国のマンパワーや社会福祉・社会保障の低さを訴えられてきました。

本著は2005年6月に発行されましたが、1960年代から、今まさに議論が交わされている介護保険制度や障害者福祉制度の改革に至るまで、幅広く、わかりやすくまとめられています。地域で障害のある方々が尊厳のある生活を営めるようになるためには、今こそ、地域リハビリテーションの目的に沿って、社会保障を充実し、心豊かな安心社会を実現できる政策への転換の必要性を訴えられています。ぜひ、じっくりと読まれてください。

(おくのえいこ 筑波大学大学院人間総合科学研究科)