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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年11月号

民間団体による支援

互いに支えあい、安心して生活できる地域づくりをめざして
-知的遅れのない発達障害児者に対するアーチルでの取り組み-

蔦森武夫・高橋桃代

はじめに

仙台市発達相談支援センター(以下愛称「アーチル」と略す)は、発達障害児との「早期出合い」と「生涯ケアの実現」をめざす専門的な相談機関として平成14年4月に設置されました。

アーチルは児童相談所と更生相談所の業務に加え、障害児(者)地域療育等支援事業拠点施設ならびに発達障害支援センターの指定も受けています。医師、保健師、保育士、教員、ケースワーカー、心理判定員、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士等の職種が配置されており、相談者のニーズに応じて各職種がチームを組み、乳幼児期、学齢期、成人期の各ライフステージの相談支援にあたっています。また、相談の中から新たに把握された課題の解決に向けて、ネットワークづくりや新たな社会資源の開発といった取り組みも家族や関係者及び市民と実施しております。本項では、そのなかで浮かび上がってきた課題を紹介したいと思います。

開設以来、相談件数は年々増加し、平成16年度の相談総数は6,500件を超え、新規相談者は約1,000件に上っています。増加の要因は、相談支援の対象を従来の障害者福祉の対象から知的遅れのない発達障害にまで拡大したことにより高機能自閉症等の相談が急増したことにあります。

新規相談の約6割を占める乳幼児相談では、相談者数の増加に加えて初回相談時年齢もより低年齢化の傾向にあり(ピークは2歳代)、知的遅れのない発達障害児もより早期にアーチルに相談来所するようになってきています。学齢児相談では通常学級に在籍する発達障害児の相談が急増しており、成人相談でも高機能自閉症の就労や生活に関する相談件数が年々増加の傾向にあります。このように知的遅れのない発達障害児・者との出合いが増えたことで、彼らの地域での生活を支えていくこともアーチルの新たな課題です。

将来を見通した子育てのために

乳幼児期には、子どもの発達上の問題に気づき不安を抱える家族に即応できる支援が必要です。そこで、低年齢で相談にきた親子の支援を小集団により実施しています。この療育グループは同じ悩みを持つ家族同士が出会い、子どもの特性に合わせた子育てについて学びあう場として位置付けております。1グループは8人程度で週1回、有期限で実施しています。プログラムのひとつに、先輩家族との出会いの場も設けています。この場での情報や体験の交流によって、初回相談時には孤独な子育てを訴えていた家族が、将来を見通した子育てとわが子の人生を考えるきっかけを得て自信をつけていきます。

一方、先輩家族も自らの体験を語ることでさらにエンパワメントされ、地域で積極的に互いに支え合えるようになろうと「家族同士のネットワークづくり」に向けて自主活動を開始しています。さらに乳幼児期から家族が出会い、互いに支え合う場を身近な地域の中にさらに広げていくことが今後の課題です。

幼稚園入園後、アーチルに初めて相談に訪れ戸惑いを感じている家族に対しても小集団で支援を行っております。これと並行して、幼稚園教諭と子どもの特性や支援方法について学びあう場も設けています。この交流から私立幼稚園連合会と共催で研修会を実施するなど連携の輪が広がっています。今後はさらに、区ごとに自主学習会ができるなどの場が広がっていくことが課題です。

特別支援教育との連携・協働に向けて

相談の中で把握した「障害の特徴を理解した一貫した支援を」という家族の願いを受けて、積極的に学校を訪問してきました。その中で「学校の支援力を向上させたい」「発達障害への理解を深め、適切な対応をしていきたい」という学校側からのニーズを受け止めてきています。学校側でもアーチルと連携・協働する意味を確認してきており、アーチルのスタッフを活用して「個別の支援計画の作成」「全校会議での事例検討会」「家族への発達障害に関する研修会」等の取り組みを行う学校もでてきています。

特殊教育から特別支援教育への転換に向けて、地域の社会資源と連携する学校の窓口となる特別支援教育コーディネーターの養成が開始されています。今後、ますます支援の目標を共有し互いに期待される役割を果たし合っていくことが求められます。今後は、そのなかで共通の課題を抱える学校同士のネットワークを構築するなどして、学校においても子どもを理解したうえでの適切な支援を受けられるようになることに寄与していくことがアーチルの課題と考えております。

その人らしい地域での「自立」に向けて

高機能自閉症等の知的遅れのない発達障害者に対しても青年グループを実施しております。この取り組みの中で理解できたことは、グループの中だけで対人スキルを向上させることには限界があることです。また、彼らの望む生活を実現していくためには、一人ひとりのニーズを大切にするケアマネジメントによる支援が必要であるということです。

このケアマネジメントの視点から彼らを理解しようとしたときに見えてきた課題は、「安心して過ごせる場」「関心や興味のある活動ができる場」「就労の場」「自立して暮らせる住まい」の確保でした。アーチルが提供できているのはそのなかのほんの一部です。パソコンや音楽などを楽しめる「活動メニューを増やしたこと」、地域の障害者生活支援センター等とも連携し「理解者・支援者の拡大の機会をつくったこと」などがこれまでのアーチルの取り組みです。また、本人を支援する場と併せて、青年期になって初めてわが子の問題を知った家族同士が相互支援する場を作ってきました。

知的遅れのない発達障害者は生活上の困難を抱えていても、既存の福祉サービスに該当しませんので、必要な社会資源は新たに作っていく必要があります。本人同士が集い、共通の興味を通して安心して過ごせる場をより身近な地域の中に広げていくこと、本人の自立した生活を可能とする住まいの場、就労の場を確保することなど具現化すべき課題は山積しています。今後の課題は、その人らしい地域での「自立」のための支援のしくみをどう具現化していくかということです。

おわりに

以上、アーチルで出会った知的遅れのない発達障害児・者とその家族の抱える課題について、ライフステージ別にあげてみました。彼らの抱える課題は、他の人には理解されにくいことから本人も家族も孤立しがちであり、必要な支援が行き届かないと問題は深刻化します。長期化、深刻化した問題は、家族やアーチルだけでは解決できません。しかし、問題解決に向けた取り組みの過程で「顔の見える関係」になると、どんな困難な問題についても一緒に知恵を出し合えるネットワークが形成されることを経験してきています。幾重にも本人と家族を支えるネットワークができたときに、本人や家族にとってその地域は、本当に安心して暮らせる場となるのではないかと考えます。

アーチルではこのことに確信を持って、彼らと早く出会うことができ、本人と家族、支援者そして地域の人々とが支え合う協働のしくみを作り上げていきたいと考えています。

(つたもりたけお・たかはしももよ 仙台市発達相談支援センターアーチル)