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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年11月号

1000字提言

言い訳からの脱却

武田元

蔵王すずしろでは、昨年から各地の作業所に「手作り豆腐工房で利用者の賃金アップをめざしませんか」と呼びかけています。1か月1万円前後の低賃金にあえいでいる多くの施設の役に立てないかと思っているからです。

私たちは「障害が重いから」賃金が低くてもいいとは考えていません。むしろ「障害が重いからこそ」一定の所得保障をしなければと思っています。所得保障を抜きにして障害者の豊かな地域生活は実現しないからです。

蔵王すずしろは蔵王山麓で、蔵王の水と国産大豆100%、凝固剤として塩田にがりを使うことで大豆の風味豊かな豆腐を作り一定の成果を挙げてきました。しかし、このことがどこの地域でもできるかといえば、そうはいきません。敷地や建物の広さ、設備投資の額、そして何よりも水質の問題、等々。都会であればあるほどこの3つが絡んできます。

これらを一挙に解決したのが手作り豆腐工房です。これは蔵王すずしろから、高品質で安定した豆乳を届けるところから始まります。豆乳が届くのですから、施設所在地の水の良し悪しは関係ありませんし、設備投資も少なくてすみます。製造室の広さも6坪前後あれば可能になります。豆腐の種類は限定されますが、豆から豆腐を作る際の3つの問題点はすべてクリアされます。

この提案に対する反応はさまざまです。面白いのは、水質が悪くてできないと残念がっていた人が、今度は賞味期限が短くて売るのが大変だと言い出したことです。賞味期限が長い豆腐ができたら今度はどんなことを言うのでしょうか。豆腐製造は朝が早いし、冬は水が冷たくて大変だとでも言うのでしょうか。私にはやりたくない言い訳を必死に考えているとしか見えません。しかし、このタイプの人が、現実には少なくないのです。

反対に、どう考えても豆腐作りには向いていない場所、狭いとか2階とかなのに、何とかならないかと考え、ぎりぎり可能な方法を見つけ出した人。職場の同僚や上司の理解を得るために、試食で品質の確かさを、イベント販売で売れ筋の商品であることを実感してもらい、1年がかりでオープンにこぎつけた人。本当にいろいろです。

要は、極端に低い賃金を施設関係者がどう考えているかです。障害当事者が求めているのは、言い訳ではなく結果だからです。その期待にどう応えるか。

何事にも困難はつき物です。特に、生産性の低さを高い付加価値で補うとしたら、ハードルの高さは、むしろ望むところのはずです。言い訳からの脱却、これが今後のキーワードになるかもしれません。

(たけだはじめ 知的障害者通所授産施設蔵王すずしろ施設長)