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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年1月号

障害者自立支援法をめぐって

障害者自立支援法上の障害福祉計画

田代俊之

障害者自立支援法が平成17年11月7日に公布されました。この法律ではさまざまな制度改正が行われています。今回は、その一つにあたる障害者自立支援法に基づく障害福祉計画(以下「障害福祉計画」と呼びます)を中心に触れてみたいと思います。

障害福祉計画については、障害者自立支援法第八十七条から第九十一条までに明文化されており、同法附則第一条第二号により、その施行は平成18年10月からとなっています。

策定のための準備に要する期間については、地方自治体の状況に応じてさまざまかと思われますが、すでに始めている地方自治体もあるのではないでしょうか。

障害者計画と障害福祉計画

障害福祉計画のことを述べるにあたっては、まず、障害者基本法に基づく障害者計画(以下「障害者計画」と呼びます)との関係を整理しておく必要があります。

障害者基本法は障害者施策全般を示す法律であり、その中に位置づけられた障害者計画では、地方自治法に基づく各自治体の基本構想を踏まえ、福祉だけでなく、保健、医療、教育、就労等の障害施策全般の方向性を示すこととなります。一方、障害者自立支援法は、障害者基本法の理念の基に自立支援給付や地域生活支援事業等の福祉サービスを中心に定めた法律であり、障害福祉計画はそれらのサービスを計画的に実施していくために必要となるものです。

以上を整理すると、まず、地方自治体の基本構想があり、その次に障害者計画があり、最後に障害福祉計画がある。そして、社会福祉法に基づく地域福祉計画が障害福祉、児童福祉、高齢福祉等を含めた福祉施策全般について、地域福祉の視点から方向性を定めていると言えます。

(仮称)ふじさわ障害者計画2010の策定

藤沢市におきましては平成10年9月に障害者計画として、障害者福祉長期行動計画を策定し、さまざまな施策を展開してきましたが、平成17年度中にこの計画が終了することに伴い、現在、新しい計画となる「(仮称)ふじさわ障害者計画2010」の策定作業を進めています。約7年半ぶりの策定となりますので、この間に障害施策はとても大きく変わってきました。

新しい計画を策定するにあたっては、障害のある当事者、当事者団体を含めたさまざまな分野で構成された委員及び公募による委員の選出によって、23人からなる藤沢市障害者施策検討委員会を設置しました。検討の期間を平成16年、17年度の2年間として、主に平成16年度は現状把握、そして平成17年度は課題設定とそれを解消するための具体的な計画づくりの期間といたしました。

計画の特色

(1)計画の視点

「すべての人々の個性が輝くまちへ」これが、藤沢市の障害者計画の理念です。現行計画の理念を継承しながら、その考えの基となる「ノーマライゼーション」、「リハビリテーション」に「ソーシャル・インクルージョン」の考え方を踏まえたものとしています。

また、基本目標の最初に「心のバリアフリーと地域における支えあいの活動の促進」を位置づけ、すべての施策について、この目標を土台にしながら事業の設計、展開を進めていこうという大きな柱立てとしました。

(2)重点プロジェクト

この計画では基本目標に掲げる方向性を横断的に構築し、それを重点プロジェクトとして位置づけています。

「藤沢らしさ」をいかに表現し、それを計画書に盛り込むか、これが意外に難しいことです。そこで、まずは現状をイメージで把握するために「みんなが行っていることを絵にしてみる」ことから始めました。これで現状がイメージ化されましたので、次にアンケート結果から浮かび上がった課題や国の障害者基本計画、そして障害者自立支援法等を踏まえながら、これからめざすイメージを広げつつ方向性の表現を致しました。それを描いたのが5つの重点プロジェクト、1.相談支援体制の確立、2.地域生活への移行促進、3.卒業後の進路対策の充実、4.精神障害者施策の充実、5.地域基盤の充実です。

障害福祉計画の目的

冒頭にも触れていますが、もう少し詳しく障害福祉計画の位置づけを考えてみたいと思います。この計画の策定は義務規定であるため、すべての地方自治体(広域連合等の対応は可能)が数値目標を伴った計画を策定しなければなりません。

障害福祉計画策定の主な目的は、第一に障害福祉サービス等の必要量を的確に見込むためです。地方自治体はニーズに応じたサービスの必要量を的確に見込み、必要な費用を確保する必要があります。平成15年4月から始まった支援費制度は、自己選択、自己決定という理念の基で、利用者や利用量の拡大につながるなど一定の評価を受けました。しかし、サービスの増加が、国の見込み以上の伸びを見せたために、財政的な確保が困難な状況になってしまいました。潜在的なニーズを把握しきれていなかったことや、それに対応できる供給量の見込みなどデータが足りなかったことなどが原因として挙げられています。

障害福祉計画では、障害者自立支援法における全市町村のサービスの見込み量等のデータを積み上げて、それを国が的確に把握することで、財源の確保や資源の整備に努めようとするものです。

第二に計画的な障害福祉サービス等の整備を進めるためです。全国的に必要量に応じた均衡あるサービスの基盤整備を図ることが必要となります。支援費制度においては、市町村の努力により、主に居宅サービスを中心に大きな利用者数の伸びを見せたわけですが、一方で地域によるサービス量の格差が問題となってしまいました。たとえば、ホームヘルプサービスの利用者数においては、最大6.3倍もの都道府県格差があります。全国どこでも必要なホームヘルプサービスが保障されるためには計画的な整備が必要です。

第三に計画的な人材の養成を行うためです。ケアマネジメントの制度化に伴って、今まで以上にケアマネジャーを養成する必要があります。また、増大するサービスに対応するためにもホームヘルパー等を養成、確保していく必要があります。

計画的な整備

以上の目的を計画的に整備していくために、まず、国は全市町村が行った平成16年10月の障害福祉サービス利用の実態把握調査等に基づき、全国のサービス利用状況や最近の障害福祉サービス利用者数の伸び等を踏まえ、国全体のサービス利用者の将来推計を試算します。これはすでに平成17年12月の社会保障審議会等で示されています。さらに、これをベースに基本指針を平成18年の春に示すことになります。

基本指針では次の3点が示されます。障害福祉サービス及び相談支援の提供体制の確保に関する基本的事項。市町村障害福祉計画及び都道府県障害福祉計画の作成に関する事項。その他自立支援給付及び地域生活支援事業の円滑な実施を確保するために必要な事項です。これに基づき、市町村は障害のある人や事業者の意向を踏まえながらサービス利用の見通しを立てることになります。

障害福祉計画をより実効性の高いものとするためには、見込み量の積算をベースにして、国の障害者プランを総合的な視点から見直していただく必要があると思います。国の福祉サービスの数値目標は地方自治体の見込み量を積算すれば示すことはできます。しかし、国民の啓発や公共交通機関のバリアフリー化等との数値目標との整合性を図らなければ、障害施策全体を総合的に推進することは難しいのではないでしょうか。また、地域移行を促進するうえで「成年後見人は足りるのか否か」など、踏み込んで障害者プランを修正していただくと、より具体性が増すような気がします。

障害のある人の意向把握

適切に住民ニーズを把握し、数値目標を立てることができる仕組みが必要です。公聴会等により意見を聴くことは重要ですが、それを直接、数値に置き換えることは難しいものです。今回の策定手法においては、実績に対する今後の伸びを中心に数値化するものと思われます。その場合、現在サービスを利用していない人や地域の事情により提供できていなかったサービス等の潜在的な需要を加味することが難しいと考えます。それをどのように数値化するかは課題です。また、障害の範囲が拡大した場合等のファクターもあるでしょうし、障害や疾病への理解が進めば手帳所持者やサービス希望者も増加します。

今後は利用意向を把握する手法も必要になってくるかと考えます。障害のある人の福祉サービスの適切な利用量を把握するには、本人の希望だけでは量りきれない場合もあります。そういう意味では、適切にケアマネジメントされたサービス量を見込む必要があると考えます。資源量や財政規模等を含めて、さまざまなファクターを数値化できるような手法を作成することは難しいかとは思いますが、できる限り適切なサービス量を算出できるような手法を提示していただきたいと考えます。

スケジュール上の課題

障害福祉計画は早くても平成18年10月からの計画ですので、平成18年度当初予算にこの計画を反映させることはできません。そのため、多くの自治体が19年度当初からの予算規模を考慮した数値目標となるのではないでしょうか。おそらくどこの市町村の予算編成も秋頃かと思われますので、平成19年度予算編成を考慮するならば、相当にタイトな日程となります。国や県が示すスケジュールを基に藤沢市のスケジュールを想定しますと、10月施行を考えた場合、3月に施策検討委員の選出・公募、7月に意見の公聴、9月に議会報告、そしてこの期間を通じて障害者施策検討委員会による検討と各サービスの数値化作業等が考えられます。市町村障害福祉計画は、都道府県障害福祉計画にも影響しますので、すでに数値目標を伴った障害者計画がある市町村においても、その数値の上方・下方修正や現行計画に記載のないもの、また、新たなサービスについては、別に数値化を図る必要が生じることも考えられます。市町村の総合計画等で同様の数値が見込まれている場合は、それをもって対応が可能と言われていますが、既存の事業が大幅に組み替えられますので、少なくとも都道府県が積算するためには、新しい事業体系における数値化や単位の置き換え等が必要になることも考えられます。神奈川県では、そのような課題を共有・検討する場として、障害福祉計画策定検討部会を設置しています。

進ちょく状況の管理

計画を策定することだけが目的であってはなりません。計画がスタートした段階から目標に向けて、それをいかに実現することができるかが非常に重要です。また、しっかり評価すること、さらに当初の目標に遅れをとってしまっている分野があれば、その分析と検討が必要です。手探り状態での計画のスタートとなりますので、計画がスムースに実施され、計画立案(Plan)、事業実施(Do)、事後評価(Check)、計画の見直し(Action)というPDCAサイクルに乗るまでには、現実的にはもう少し時間がかかってしまうのではないでしょうか。

(たしろとしゆき 藤沢市福祉健康部障害福祉課)