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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年1月号

ワールド・ナウ

国連世界情報社会サミットにおける障害コーカスの活動

野村美佐子

はじめに

国連世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society:WSIS)は、二つのフェーズに分けて行われました。第1フェーズは、2003年の12月10日から12日にかけてスイス政府がホストになり、ジュネーブで開催され、第2フェーズは、チュニジア政府がホストになり、チュニスで2005年11月16日から18日にかけて開催されました。

情報社会におけるデジタル・ディバイドを解決するためにまずジュネーブでは基本の理念を話し合いました。その成果として「基本宣言」と「行動計画」が採択されました。チュニスサミットでは、それを具体的に実施するための戦略について討議しました。また、貧困を撲滅し、ミレニアム開発目標など国際的に合意された開発目標達成においても重要なサミットでした。チュニスサミットには、174か国の政府、民間セクター、国際機関、市民社会のNGOなどから19,401人が参加しました。筆者は、このサミット中に開催された「情報社会における障害者のグローバル・フォーラム」の事務局として参加しましたので、障害コーカスの活動を中心にサミットの報告をいたします。

チュニスサミットとその成果

チュニスサミットに向けて、2003年にジュネーブサミットの「基本宣言」と「行動計画」に基づいて、実施する方策や体制などについて事前の準備会議(Prep Coms)を通じて話し合ってきました。具体的には、デジタル・ディバイド解消のための資金メカニズム、インターネットガバナンスと関連課題、及びジュネーブとチュニスにおける決定の実施及びフォローアップに焦点をあてた討議が重ねられてきました。最終的な公式文書は、9月にジュネーブで開催された第3回事前会議ではまとまらず中断という形式を取りました。サミット開催の3日前から再開された準備会議で、開会前日の11月15日の23時にようやく合意に達し、最終公式文書として、「チュニス・コミットメント」と「情報社会に関するチュニス・アジェンダ」が採択されました。結局、現在のアメリカ主導のICANN(米国籍非営利民間団体)によるインターネット管理の体制を変えることはできませんでしたが、マルチステークホルダー(すべての関係者)によるインターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)を設立し、2006年第24半期までに会合をギリシャで開催するという合意ができました。つまり今回のサミットで終了するのではなく、ジュネーブで採択した行動計画の実施に向けての新たな活動が始まることになります。

また公式文書においては、2004年12月のスマトラ沖大地震による津波により多数の生命が奪われたことやパキスタンの大地震などで災害の対策に焦点があてられ、早期警報・管理・緊急通信におけるICT(情報通信技術)の利活用についても明確に言及しています。

最終公文書における障害者への配慮

WSISの初期の準備会議から、障害コーカスのフォーカルポイント(世話人)である国立身体障害者リハビリテーションセンターの障害福祉研究部長である河村氏を中心にした啓発活動がありました。ジュネーブサミットの事前会議の実況中継メールを含めた国際的な議論を展開した結果、ICTデザインに関する問題が障害者のデジタル・ディバイドの中心課題であるとして、各国の政府関係者に働きかけをしました。河村氏の「障害という言葉を特に使わずに、適切な文脈の中でユニバーサルデザインと支援技術という障害者固有のニーズのエッセンスを盛り込む」という戦略は、ジュネーブサミットで採択された「基本宣言」のパラ25の中で次のように取り上げられるという結果を生みました。

「開発に関する全体的な知識の共有と強化は、ユニバーサルデザインや支援機器の利用に加え、経済、社会、政治、健康、文化、教育及び科学的な活動のための情報への公平なアクセスに対する障壁を取り除くことによって、また、パブリック・ドメインの情報へのアクセスを容易にすることによって促進される。」

こうしたジュネーブサミットの経過を踏まえ、チュニスサミットの事前会議においては、ユニバーサルデザインと支援機器の利用の重要性がさらに系統的に訴えられました。と同時に、障害コーカスとして災害時に障害者の安全を確保するうえでのICTの役割についてのパネルフォーラムや、先住民コーカスと障害者コーカスの合同フォーラムを開催して、ユニバーサルデザインと支援機器の利用が、障害者だけでなくすべての人のデジタル・ディバイド解消を進める戦略であることをアピールする活動を行いました。

今回、チュニスサミットで採択された「チュニス・コミットメント」の「したがって、我々は、あらゆる場所のすべての人、特に障害者のためのユニバーサルデザインと支援技術を含めた、ユニバーサルで、ユビキタスな、平等かつ手ごろな料金でのICTへのアクセスを促進し、社会の中で利益をより公平に分配することを保障し、デジタル・ディバイドを解消してすべての人にデジタルオポチュニティを創出し、開発のためのICTが提供する可能性から利益を得られるようにするために、絶え間なく努力する(パラ18)」という文言と、「情報社会に関するチュニス・アジェンダ」の「障害者を含めたすべての人々のアクセスを推進するためのユニバーサルデザインの概念の形成と支援技術の利用に特別な注意を払う(パラ90―e)」という文言は、サミットの準備会議からの一貫した障害コーカスの啓発活動の結果であると言えます。

第2回「情報社会における障害に関するグローバル・フォーラム」

フォーラムはチュニスサミットの公式イベントとしてDAISYコンソーシアムとチュニスのBASMA(障害者雇用促進協会)の共同主催で11月15日と18日の2回に分けて開催されました。これはICTと障害に関する認識を高める機会であり、障害者自身にとっても活用可能なICTを知る非常に良い機会でした。その目的は、世界的にアクセシブルな情報とコミュニケーションを推進し、ICTの活用事例の知識の共有、そしてWSISの成果の実施過程への障害者の参加のための世界的連携の確立でした。またこのフォーラムは独自に「チュニス宣言」を採択しました。

このフォーラムには、2日間で延べ200人ほどの参加者があり、障害者も多く参加しました。これらの障害者の宿泊、移動、会議場のアクセシビリティの確保については、DAISYコンソーシアムに参加する団体から成る障害コーカスの事務局が、チュニスの関係者に交渉及び確認を取りながら全面的に支援しました。

フォーラムは、BASMAの会長でもあるチュニジア大統領夫人の挨拶で始まりました。参加者は、このフォーラムを通して障害者のインターネットアクセス、教育と研修、携帯電話技術、雇用、能力開発、知識を共有するグローバル・ライブラリー、ソーシャル・インクルージョン、マルチステークホルダー・パートナーシップ、読み書きに有効なマルチメディア、災害対策、障害をもつ先住民などの課題が取り上げられました。また、IDA(国際障害同盟)の構成団体8団体のうちの6団体の代表が、前会長であるキッキ・ノードストロム女史のコーディネートにより、「ICT開発における対等のパートナーシップ」というテーマで活発な意見交換を行いました。フォーラムは、最後にタイのモンティアン・ブンタン氏が提案したチュニス宣言を採択して閉会しました。

18日の本会議において、このフォーラムがジュネーブとチュニスの両サミットに関連して世界中で開催された数百のマルチステークホルダーによるイベントの中から選ばれて報告をする25のイベントの一つに選ばれました。このことをもって、最後の段階ではサミット全体として障害者のデジタル・ディバイド問題に高い関心を示したと言ってよいだろうと考えます。このフォーラムの詳細は、日本障害者リハビリテーション協会の「障害保健福祉研究情報システム」のウェブサイト(http://www.dinf.ne.jp)に掲載しております。

障害コーカスのサミットの成果と次の課題―フォーカルポイントの視点

障害コーカスのフォーカルポイントであり、グローバル・フォーラムの企画者である河村氏は、チュニスサミットの成果と課題について「サミットは、デジタル・ディバイドを解消してITの進展をディジタル・オポチュニティに変えるための戦略を確立することが目標だった。戦略には、方向性を明らかにするとともに、それを実施する担い手を形成することが含まれる。その方向性がICT開発をユニバーサルデザインと支援技術という視点で進めることで、一応ジュネーブで理念として確認され、その理念を実施するための中軸である障害者団体がチュニスのフォーラムでIDAのセッションに結集した。また、チュニスサミットでは、ITU、UNESCO、WHOなどの国際スタンダードを作る団体が、一緒にやろうと障害コーカスに公式に呼びかけてきた。これに積極的に応えて一般のスタンダードの開発の中にユニバーサルデザインの理念を生かし、それと不可分に結合された支援技術の開発に取り組むことが大事である。そのために実施のモデルを作ることが必要である。サミットで開催した障害者の防災に関するセッションを発展させた取り組みが、最も分かりやすいICT活用の国際的な好事例となる可能性がある。やる気のコアグループができればこういうことができるというモデルケースを作り、次の好事例につなげることがサミットの成果を生かした次の一歩である」と語ってくれました。

河村氏は、かなり前から災害時における障害者への対応についての取り組みをしてきましたが、「すべての人が安全に暮らせる基盤としてICTを活用する場合、障害がある人のニーズに対応していないために取り残され命が助からないケースが想定される早期警報システムの開発は、デジタル・ディバイドの拡張そのものであるという考え方が必要である。そういう意味で、ICTのデザインは人の命に関わる重要問題であり、それを確立することは国の責任でもある。サミットでこのような考え方が国連機関も含めてグローバルに共有できることが確認できた」とも語りました。

今世界中で緊急課題になっている災害時における障害者の安全確保のためのICT活用が、サミットの成果を生かしたデジタル・オポチュニティの具体的な好事例の国際共同開発として加速化されることに期待したいと思います。

(のむらみさこ 日本障害者リハビリテーション協会情報センター)