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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年6月号

岐阜県高山市における取り組み

高山市企画管理部企画課
福祉保健部福祉課

1 はじめに

「飛騨高山」として知られる高山市は、岐阜県の北部、飛騨地方のほぼ中央に位置します。天正年間に豊臣秀吉の命を受け、飛騨に赴任した金森長近が江戸時代に城下町を築いてから400年余り、政治、経済、文化など、飛騨地域の中心都市として発展してきました。

2 合併の経緯とまちづくりの方針

(1)合併の経緯

高山市は、平成17年2月1日に周辺9町村と合併し、日本一広大な2,177.67mの面積を有する、人口約96,000人の都市となりました。

平成13年5月に飛騨地域20市町村長で研究会を設立したことを第一歩に、15市町村による任意協議会において合併の枠組みや方式など基本的事項について研究と議論を重ね、その後、平成14年12月に10市町村で設立した法定協議会や、住民代表で組織する合併まちづくり審議会において、建設計画の策定や4,000項目以上にも及ぶ事務事業の調整を行い、約4年の年月を経て新高山市は誕生しました。

(2)新高山市の特色

新高山市は、長野県、富山県、福井県、石川県の4県に接し、日本一の広大な面積は、香川県や大阪府よりも広く、東京都とほぼ同じ規模です。面積の92.5%を森林が占め、乗鞍岳などの中部山岳国立公園を含む緑豊かな山々や美しい清流などの恵まれた自然資源、春・秋の高山祭や古い町並みに代表される歴史ある伝統や文化、奥飛騨温泉郷をはじめとする温泉など、個性あふれる観光資源を有しています。

こうした観光資源を活かし、年間約430万人の観光客にお越しいただいています。

(3)新高山市の方針

新高山市となり、平成17年3月に第七次総合計画を策定しました。基本理念を「住みよいまちは、行きよいまち」、都市像を「やさしさと活力にあふれるまち飛騨高山」と定め、計画的な土地利用のもと、分野別目標と、地域特性を活かすため旧町村ごとに地域別目標を掲げ、まちづくりを推進しています。

また、中心部と周辺部の発展に格差が生じることなく、日本一広大な市域全体の一体的な発展を図るため、旧町村地域ごとに地域審議会を設置して地域住民の声を市政に反映できるようにしたほか、地域住民の利便性を考慮して合併前のすべての役場を5課体制の総合支所とし、各地域の特性を十分発揮するために「地域振興特別予算」を設けています。

3 合併における障がい者施策の調整

合併に向けた事務事業の調整は、関係市町村の課長等で組織する分科会で検討し、その結果を助役、収入役などで構成する幹事会で協議、その後首長や議会議員で構成する合併協議会で協議し、決定しました。

事務事業の調整にあたっては、合併の効果が住民生活に反映されるように住民の視点に立って行うことを基本とし、その中で、行政各分野のサービス水準や負担水準については、原則として高山市の水準に合わせる方針で調整しました。

障がい者施策の調整にあたっては、必要なサービスを妥当な水準で持続的に安定して提供できるよう、福祉分科会での検討や社会福祉協議会などの関係機関との協議を進めました。その結果、旧町村では実施されていなかった補装具の交付や修理に対する自己負担助成、重度障がい者に対する紙オムツの購入費助成、積雪寒冷地である高山市の居住環境に配慮した屋根融雪装置の設置に対する助成、在宅の障がい児が通園施設や病院等に通う場合の助成などを合併後の市域全体で実施できるようになり、旧町村地域のサービス水準は向上しています。

一方、旧町村の一部において実施されていた障がい者や高齢者など交通弱者の外出支援サービスは、合併後も社会福祉協議会に委託して実施していますが、対象者や利用範囲、利用回数、利用負担等を統一したことにより、若干負担水準が高くなった地域もあります。

合併後、旧高山市で実施していた事業はすべて新市に引き継がれたことにより、旧町村地域のサービスは総じて拡充され、きめ細かいサービスが受けられるようになっています。

4 地域福祉計画への取組み

地域福祉計画の策定は、当初から合併後の平成17年度から18年度の2か年で行うこととしていました。ただし、合併後速やかに策定作業に入れるよう、平成16年1月から合併町村も含めて職員の研修を行い、6月には市民周知を目的としたセミナーを開催しました。その際、市民の準備委員を公募し、9月には市民40人による策定準備委員会を設置するなど、合併までの間に時間をかけて研修やワークショップを重ね、合併後、市民委員を追加公募し、委員数は60人と増加しました。

市民委員会では、地域の現状と地域における住民の生活課題やニーズを把握するため、子ども・高齢者・障がい者それぞれを対象とした語る会を各3回開催しました。中でも、障がい者を対象とした語る会ではさまざまな障がい者やその家族などが集まり、参加者同士のまたとない交流の機会となりました。また、生活課題やニーズを把握するため、市民アンケート調査を行いましたが、それぞれの地域特性が顕著に表れる結果となっています。

語る会やアンケートで把握した課題をもとに、市民、社会福祉協議会、行政が一体となって13地域で懇談会を行い、参加した多数の市民からさまざまな意見が出されました。こうして把握した地域における生活課題や意見などを計画に反映するとともに、地域福祉計画素案に対する意見募集を行う予定としています。

地域福祉計画の基本理念である「たがいに支え、助け合い、誰もが安心していきいきと暮らせる高山づくり(案)」をめざして、計画の策定、実行について多くの市民の参加のもと事業者等とも協働して、時間をかけて積み重ね、計画を完成させるプロセスこそ地域福祉推進の近道であると考え、取組みをすすめています。

5 誰にもやさしいまちづくりへの取組み

(1)安全・安心・快適なバリアフリーのまちづくり

高山市では、住む人が住みやすく、また、住み続けたいと思うまちが、訪れる人にとっても訪れやすいまちである「住みよいまちは、行きよいまち」を基本的な考え方として、「安全・安心・快適なバリアフリーのまちづくり」に取り組んできました。

平成8年度から実施している「障がい者モニターツアー」(実際に障がいのある方に観光にお越しいただき、まちに存在するバリアについて意見を述べていただく事業)の意見を参考にしながら、バリアフリー事業に取り組んできました。

1.道路の改修

車道と歩道の段差を解消し歩行者ゾーンにカラー舗装を施した歩車共存型道路の整備、車いすやベビーカーの車輪が落ち込まない仕様のグレーチングへの取り換えなどを行っています。

2.快適公衆トイレの整備

車いす対応または多目的型トイレの整備、オストメイト対応や大人のおむつ交換ができるユニバーサルシートの設置などに取り組んでいます。

3.民間事業者の取組み支援

ホテルの大浴場や客室のバリアフリー改修、施設出入り口へのスロープ設置、円滑に乗降できるタクシーサポートシートの導入など民間事業者の取組みに対する助成を行っています。

4.ソフト面での取組み

視覚に障がいのある方に配慮した「点字や音声による観光マップ」、事業者向けにさまざまなお客様をお迎えするための対応をまとめた「人にやさしいコミュニケーション365日」などの冊子を作成しています。

市の公式ホームページは、音声読み上げ、文字拡大など、バリアフリー基準に合わせたものとし、観光情報は日本語を含む10言語で表記しています。

(2)バリアを取り除くまちづくりからバリアを生まないまちづくりへ

取組みを推進するなかで、障がい者や高齢者だけでなく、少しでも多くの人が過ごしやすいまちにするために、いかにバリアを生まないようにするかという視点での施策展開が必要になると考え、バリアを取り除くまちづくりにバリアを生まないまちづくりの視点を加えて取組みをすすめています。

(3)誰にもやさしいまちづくり

平成17年にはユニバーサルデザインの考え方によるまちづくりの基本的方向を示す「高山市誰にもやさしいまちづくり条例」を制定しました。ソフト面では基本的施策を定め、ハード面では、ハートビル法による適合義務の対象となる建築物に保育園や学校等を追加するなど市独自に適合義務施設の範囲を広げるとともに、対象施設面積の規模を引き下げています。また、整備基準には、観光地であることへの配慮から50室以上の客室を有するホテルまたは旅館には車いす使用者用客室を設けること、積雪寒冷地であることへの配慮から出入口には屋根または庇を設けることなどを加えました。

誰もが過ごしやすいまちづくりへの取組みに終わりはなく、予算や時間的な制約が伴うほか、乗り越えなければならない課題がたくさんあります。広大な市域全体のバリアフリー化の推進やいかに意識を浸透させるかは大きな課題ですが、市民、事業者、行政が一体となって継続的に取り組み、誰にもやさしいまちの実現をめざしています。

6 おわりに

合併後の高山市では、障がい者手帳(身体・知的・精神)所持者は約5,800人で、人口の6%にあたります。

障がい者が、地域で暮らし、自分らしく生きることができる社会の実現に向け、障がい者をはじめとした市民の声を反映して「地域福祉計画」や「障がい福祉計画」の策定を行うとともに、障がいの有る、無しに関わらず、誰もが個人として尊重され、さまざまなふれあいや交流のなかで、安全に安心して快適に心ゆたかに過ごすことのできるまちの実現を目的とした誰にもやさしいまちづくりをすすめます。