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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年6月号

市町村合併と残された課題

小澤温

1 市町村合併の現状

市町村合併の動きは、1995年の合併特例法の改正により、急速に進んでいます。国は、合併特例債などの財政支援を行うことにより、この動きを推進してきました。この背景には、基礎自治体(市町村)の財政力の強化、権限の委譲などの利点もありますが、国が地方自治体に交付する地方交付税交付金の削減の側面も大きいと思われます。その点では、合併特例債などの財政支援といったアメの面と地方交付税交付金の削減といったムチの面の2側面によって、市町村合併を推進してきたとも言えます。

1995年4月に3,234あった市町村は、2006年4月では1,820になり、この10年間で、1,414(44%)減少しています。これを町の数でみると、1,994が844になり、58%の減少、村の数でみると、577が197になり、66%の減少です。この間の特徴としては、政令指定都市(いわゆる大都市)が増加したことです。合併により、さいたま市、静岡市、堺市が政令指定都市になりましたが、今後も、新潟市、浜松市が予定されています。また、県庁所在都市などの地方の中核的な都市も合併による人口、市域の拡大が目立っています。これに対して、都道府県では、町村数の減少から、郡が消滅するケースが目立っています。

市町村合併にはさまざまな面があるので、一概に、メリット、デメリットを論じることはできませんが、福祉面に限ってみると、人口や市域、財政規模の拡大によって、サービス対象者の増加とそれに対応するための社会資源の整備は進めやすくなることはまちがいありません。ただし、これは合併により規模の拡大の見られる自治体のことであって、合併をしない自治体(特に、町村など)の場合はこれまでよりも課題が大きくなると思います。

ここでは、障害者福祉における都道府県の課題と町村などの小規模自治体の課題を障害者自立支援法との関係で論じたいと思います。

2 都道府県行政の役割と今後の課題

障害者福祉における都道府県行政の役割は大きく、1.圏域などの設定により市町村では対応できない広域的な社会資源整備、2.精神保健福祉センター、(身体障害者、知的障害者)更生相談所、保健所などの整備と運営による専門的な相談と市町村に対する専門的な支援体制づくり、の2側面があります。市町村合併による町村の減少と障害者自立支援法による市町村業務の拡大により、これらの都道府県行政の役割は大きく後退すると思われます。

ここでは、1に関しては地域自立支援協議会を取り上げ、2に関しては総合相談体制を取り上げたいと思います。

(1)地域自立支援協議会と都道府県行政

障害者自立支援法では、地域生活支援事業をはじめ、福祉と保健、医療、教育、雇用就労との連携による社会資源の開発が必要になります。このため、地域自立支援協議会が必要になります。この協議会は市町村単位でも圏域単位でもかまいませんが、医療、教育、雇用就労はこれまで(現在でも)ほとんど都道府県行政の管轄なので、市町村単位の運営では困難があると思われます。また、精神障害者および難病患者へのサービス提供のかなりの部分もこれまで都道府県業務なので、この分野も市町村単位ではむずかしいと思われます。

地域自立支援協議会の業務は、関係機関の連携・ネットワーク化、相談支援事業者の委託の検討および業務の点検、社会資源(新たなサービス)の開発などがあります(図参照)。障害者自立支援法の施行以前から、活発にサービス調整会議、圏域のネットワーク会議などを開催していた市町村の場合(都道府県の圏域単位でなされる場合が多い)、それをベースに考えると、地域自立支援協議会は比較的簡単に設置し、運営できると思われます。問題は、これまで、そのような取り組みが全くなされてこなかった市町村の場合です。

相談支援体制の整備について

○新制度において、相談支援事業を市町村に一元化することとしているが、直ちに、市町村では十分な体制を確保できない場合も想定されることから、次のとおり、都道府県が積極的に支援を行う。

  • 相談支援に係る専門的職員を市町村に配置
  • アドバイザーの派遣を通じ、圏域ごとのネットワークづくり、困難ケースへの対応等を支援
図 相談支援体制拡大図・テキスト

現在のように、急速に市町村合併が進み、同じ圏域でも、より規模拡大する市と小規模のままの町村に分かれていくと、規模拡大する市は独自に取り組みを始めることができます。他方、小規模のままの町村では、都道府県の役割が縮小していく中で、これまでのように、都道府県が主導的に圏域を設定し、協議会の運営、アドバイスを実施することには困難が生じることが考えられます。

(2)総合相談体制と都道府県行政

総合相談窓口としては、市町村、保健所、更生相談所、精神保健福祉センター(都道府県など)、三障害に応じた相談支援事業者、が考えられます。これらいずれの機関に行っても同じようなサービスが受けられることが重要です。そのためには、総合相談窓口の連携システムが必要になります。

合併により規模の拡大した市では、これまでの三障害の相談支援に関わる事業者を利用した複数の相談窓口の設置が可能になるかもしれませんが、合併しない人口規模の比較的小さな町村では、三障害に対応した相談窓口を設置することは困難と思われます。

また、精神障害者地域生活支援センターのように、これまで都道府県による整備が進められてきた制度は障害者自立支援法の施行により市町村における相談支援事業に移行しますが、多くの都道府県の場合、圏域などの広域的な整備をしてきましたので、これまでの整備計画と市町村単位の整備との間で整合性がとれずに混乱の生じることが予想されます。

3 町村などの小規模自治体の課題

市町村合併により規模の拡大した市と合併をしないで小規模のままの町村との間には、障害者福祉に限定してみると、これまで以上に大きな格差が生じると思われます。

ここでは、社会資源の整備と市町村障害者計画、市町村障害福祉計画の策定について触れます。

(1)社会資源の整備と市町村障害者計画

障害者福祉に関連する社会資源には分布に偏りがあり、小規模自治体の場合は、在宅サービスの基盤が弱いと言われてきました。特に、精神障害者や難病患者に対する支援基盤は、これまで都道府県を中心に推進されてきたこともあり、著しく基盤が弱いと言われています。この基盤が弱いと、市町村での在宅福祉サービス提供を前提とした相談支援活動にも支障が生じます。

1995年の「障害者プラン」に代わるものとして、2002年「障害者基本計画」と「重点施策実施5か年計画」(「新障害者プラン」)が公表され、市町村(および都道府県)行政に在宅福祉サービス基盤を整備する計画を策定し、実行することが求められています。

都道府県を中心に推進される分野として精神障害者施策を取り上げると、「新障害者プラン」によれば、精神障害者地域生活支援センター470か所整備、ホームヘルパー3,300人確保、グループホーム12,000人分整備、福祉ホーム4,000人分整備、生活訓練施設6,700人分整備、通所授産施設7,200人分整備、が福祉施策として挙げられています。

その後、身体障害者および知的障害者に対する支援費制度が施行され、さらに、市町村を中心とする障害者自立支援法が成立施行された現在では、基盤整備の推進者としての国、都道府県の役割が見えにくくなっています。そういう状況においても、当面の課題として、新障害者プランの数値目標達成は重要です。ただし、従来の市町村障害者計画でも難病対策や精神保健福祉を除外した計画策定の問題などがあり、きちんとした計画づくりを市町村に求めていくための働きかけや地域での運動が重要になります。

(2)市町村障害福祉計画

市町村障害福祉計画は障害者自立支援法において定められ、市町村障害者計画は障害者基本法(現在、市町村は努力義務になっていますが、2007年4月より義務に変わります)において定められ、この二つは根拠法が違います。

市町村障害福祉計画の内容は、障害福祉サービス(訪問系サービス、日中活動系サービス、居住系サービス)、相談支援事業所、地域生活支援事業(相談支援事業、コミュニケーション支援事業、日常生活用具給付事業、移動支援事業、地域活動支援センターなど)の必要量と見込み量の3年間の推計と必要量の確保に関する方策の計画です。特に、これまでの計画にない特徴点は、必要量と見込み量の推計の中に、入所施設あるいは精神科病院から地域に移行する人の推計を入れる点です。この点で、障害者自立支援法はわが国で初めての脱施設に関連した法律といえるかもしれません。

これに対して、市町村障害者計画は、障害者のための広範囲の施策(教育、保健・医療、情報、啓発など福祉以外の分野も含まれます)に関する中期・長期計画です。ただし、障害福祉計画を障害者計画の一部(生活支援分野)として位置づけ、策定することもできます。

現在、市町村のほとんどが障害者自立支援法の体制整備づくりに忙殺されている状況の中で、この計画づくりをどのように推進し、サービス基盤の整備を行うか、計画づくりに当事者の参加を推進し、そのニーズを反映させるのかは、小規模な自治体にとって極めて大きな課題です。

(おざわあつし 東洋大学)