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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年6月号

重点連載 障害者自立支援法と自治体施策

川崎市における独自の利用者負担軽減策

川崎市

障害者自立支援法による利用者負担見直しの意味

介護保険制度の創設や社会福祉基礎構造改革など福祉サービス供給システムが変容を続け、また社会保障制度全体が大きな転機を迎える中、障害福祉サービスについてもまた、財政的に安定した制度の構築とサービスの需給関係を健全に保つ仕組みを整備することは不可避の課題である。確かに、障害者の置かれた経済的状況をみると、利用者負担が少ないに越したことはない。しかし、障害福祉サービスにかかる費用が4,000億円以上となった今、利用者のモラルハザードや事業者との対等な関係づくり、限られた資源の適正な配分などの諸課題を考えると、やはり利用した分だけ代金を支払うという市場経済のルールを導入することはやむを得ない状況であり、市場全体が縮小したり、質の悪いサービスしか提供できない事態に陥らせないことが今回の見直しの目的であることをまず押さえておく必要がある。

利用者負担軽減の考え方

そのうえで、やはりこの方式を単純に導入するだけで障害福祉サービスが適切に提供されるわけではないというのもまた現実である。その根本的な原因は、障害者に対する経済的な支援が不十分であることはいうまでもなく、法の附則にもあるとおり、抜本的な改善のためには、年金・手当・就労支援等所得保障のあり方に関する議論は避けて通れない。ただ、このことと利用者負担のあり方を一括りにすることは、かえって議論の混乱を招くため、やはり時間をかけて別に議論すべき課題であろう。

そこで、当面は障害者自立支援法において負担軽減を図るということになるわけだが、制度上設けられた利用者負担の軽減措置が現実的に十分機能するのかということ、具体的には、負担軽減が図られる低所得世帯にとって実際に負担できないものなのか、また、あまり注目されていない論点であるが、実は大きな問題を含んでいる、負担軽減が図られない一般世帯にとって本当に負担できる利用者負担なのかをまず的確に検証する必要がある。その結果、応分の負担をしていただく仕組みとするという見直しの趣旨を尊重し、また障害福祉サービスの今後を展望しつつ、地方自治体として配慮すべきところがあれば必要な手を打つという観点から、川崎市では独自の負担軽減を図ったので、以下、その内容を概説する。

通所サービスの定率負担軽減

通所サービスである通所施設やデイサービスを利用する場合、低所得世帯は、社会福祉法人軽減により定率負担は7,500円となり、食費も人件費分が軽減され約5,000円、月額合計約12,500円の負担となる。一方、一般世帯は、負担軽減措置はなく、定率負担が約15,000円、食費が約15,000円で、月額合計約30,000円の負担となる。

一般世帯というと、いかにも収入がある世帯のように聞こえるが、世帯員の中で一人でも市民税が課税されている世帯のことをいい、例えば3人世帯では年収約300万円以上の世帯のことをいう。年収300万円程度の世帯において、障害福祉サービスにかかる費用が年間36万円では、あまりにも過重な負担と言わざるを得ない。川崎市では、養護学校卒業後の日中活動の場を全員に保障するという施策をとってきており、原則として障害者は毎日通所サービスを利用している状況に鑑み、通所サービスの定率負担は、たとえ一般世帯であっても月額7,500円までとした(表1参照)。

表1 通所サービスの負担軽減策の考え方

*3人世帯の場合  *月22日通所の場合

年収(概算)   定率負担 食費負担 合計  
~100万円 生活保護 0円 5,000円 5,000円
~280万円 低所得1 7,500円 5,000円 12,500円
~300万円 低所得2 7,500円 5,000円 12,500円
300万円~ 一般 15,000円 15,000円 30,000円 年収300万円以上から負担軽減なし。
年収300万円に対して年額36万円の負担は可能か?
  上限設定
施設補助
 
  一般 7,500円 8,800円 16,300円

施設等に対する食事提供体制確保のための補助(通所サービスの食費負担軽減)

通所サービスは、定率負担に加えて食費が実費負担となるわけだが、これは各施設・事業所によってかなりの差が出てくる。大規模で入所施設併設ほど調理コストは下がるが、川崎市には中小規模の単独型通所施設・デイサービス事業所が多数存在しており、国基準では1食650円となっているものが900円程度かかっている場合がほとんどである。利用者が定率負担を支払ったうえで、さらに食費を本来の実費額負担することは非常に難しいと想定され、また食事をとらないとなると喫食数が少なくなり、さらに調理コストが上がったり、利用者の栄養管理上支障を来すことも考えられる。

このため、市独自に施設等に対する食事提供に係る補助を行うこととした。実際に提供体制を確保するのは施設等であるため、利用者に対する直接的な負担軽減とはしなかったが、これにより利用者が実際に施設等から請求される食費の額は、低所得世帯は1食230円、一般世帯は1食400円程度に軽減されることとなる(表1参照)。

知的障害者入所施設・障害児(入所)施設の医療費・日用品費負担軽減

知的障害者入所施設と障害児(入所)施設は、これまで医療費と日用品費は公費負担されていたが、今回の利用者負担の見直しに伴って実費負担とされた。定率負担や食費が他のサービスと同様の負担体系となったことはやむを得ないとしても、手元に残るとされた金額からこうした費用をさらに負担することになっているが、これら施設の利用者は、障害特性ゆえ医療や日用品にかかる費用は通常より高いのが一般的である。これらは日常生活に密接に結びつく費用であり、障害特性上の配慮は必要だろうということで、これら施設の利用者の医療費自己負担割合は1割となるようにし、日用品は月額3,000円まで補助することとした。

自立支援医療の負担上限の設定

自立支援医療は、制度上市民税非課税世帯に属する場合や「重度かつ継続」に該当する場合は負担上限額が設けられており、それぞれの世帯所得に比して過重な負担となるとは考えにくく、この範疇で負担軽減が必要なのであれば、自立支援医療による負担軽減を超えた配慮が必要と思われる。

しかし、市民税課税世帯であって重度かつ継続に該当しない場合、中間的な所得とされる市民税課税であって所得割額20万円未満世帯の場合、負担上限額は医療保険の負担上限額である(育成医療は経過措置あり)。また、一定所得以上とされる所得割額20万円以上世帯は、自立支援医療対象外であり、負担割合さえも医療保険の負担割合となる。

具体例でみると、更生医療で300万円の心臓手術をする場合、重度かつ継続に該当しないため、中間的な所得の場合、医療費と食費を合わせて月額約12万円、自立支援医療対象外の場合は約19万円の負担である。親子3人世帯だとすると、中間的な所得は年収約300万円から700万円、対象外は約700万円以上であるが、こうした世帯に対してこのような負担を毎月強いることは難しいと考え、これまでの更生医療、育成医療の負担額を考慮し、1.中間的な所得世帯の月額負担上限額を20,000円、2.一定所得以上世帯であって所得割額40万円未満世帯の月額負担上限額を40,200円とした。

国民健康保険加入者に対する付加給付(精神通院医療)

従来、川崎市の国民健康保険加入者が精神通院公費制度を利用した場合、その自己負担分を国保財源から付加的に給付しており、実質的には自己負担がないこととなっていた。自立支援医療の導入に伴い、精神通院公費も1割負担が原則となったが、制度の大きな変化に対処するには時間を要するような精神障害者も多く、また制度変更が通院中断に繋がらないよう一定の経過的配慮が必要ということで、付加給付を継続することとした。

障害者自立支援法の今後の展開と施策の方向性

障害者自立支援法は、利用者負担の見直しにとどまらず、10月1日に新支給決定プロセスや新事業体系関係が施行されることにより、そもそも現在利用しているサービスを継続できるのかという問題に直面することが予想される。さらには、近年中に介護保険制度との統合をめざす動きも再始動しており、ここ数年は大規模な制度改正が断続的に行われることが予想される。よって、今回の川崎市独自の利用者負担軽減策は、第1段階の経過措置として、年限を区切って実施することとしている(表2参照)。今後は、第2段階として地域生活支援事業等の利用者負担を検討しつつ、障害者施策全体を見渡したうえでの対応策を総合的に組み立てていくことになる。

表2 川崎市独自の負担軽減策一覧

  軽減施策名 軽減対象 国基準 市の軽減策 18年度予算額 軽減期間
直接的な負担軽減 自立支援医療 1 「重度かつ継続」対象外の方で市民税課税の所得割額20万円未満世帯の方 
2 「重度かつ継続」対象外の方で市民税課税の所得割額20万円以上40万円未満世帯(制度上対象外)の方
(負担割合/負担上限額)
1 1割負担/医療保険の負担上限額
2 3割負担/医療保険の負担上限額
(負担割合/負担上限額)
1 1剖負担/20,000円
2 1割負担/40,200円
10百万円 3年間
通所サービス  社会福祉法人軽減対象外(一般世帯含む)の方 通所サービスとしての月額上限なし 適所サービスとしての月額上限7,500円 52百万円
知的障害者入所施設
障害児施設
1 医療費の負担割合
2 目用品費
1 3割負担
1 3割負担
2 実費負担
1 1割負担
2 月額3,000円負担軽減
22百万円
国保による負担軽減 国民健康保険付加給付 川崎市国保加入者の自立支援医療(精神通院公費)受給者の自己負担 1割負担 無料 142百万円 1年半
間接的な負担軽減 施設等に対する補助 施設等に対して栄養管理体制、食事提供体制にかかる補助し、施設が食費の負担軽減 低所得230円(市内実勢約670円)
一般650円(市内実勢約900円)
低所得230円

一般400円
施設等補助の総額
1,031百万円
(上記額の一部を充当するが、詳細は調整中)
当面の間

戦後50年続いてきた措置制度から脱却し、「地域での自立した生活を支援する」という新しい時代に合った制度を再構築していくということで、この障害者自立支援法は、相談支援体制の構築、就労支援の強化、精神障害者施策の充実、施設サービスの再構築など、障害者の生活支援という観点からは評価できることも多く含まれている。サービス提供のあり方を大きく転換していくプロセスに時間を要するのは致し方ない面もあり、この法律の評価を現時点で下すことは尚早である。

この大きな分水嶺に立っているときに、目先の問題に目を奪われて長期的視野を欠いたその場しのぎの対処をすれば、問題の先送りにとどまらず、問題の顕在化を遅らせ、結果的には利用者の不利益となる恐れさえある。最終的な目的は、良質なサービスを安定的に提供できる体制づくりであって、粗悪なサービスが提供されたり、サービス提供基盤そのものが崩壊したりするような状況に陥らないよう、適切な状況判断をもって施策を熟慮断行していく必要がある。国は、国民生活の安定に向けて着実な制度改革を実施し、地方自治体にあっては、地域の実状に応じて新たなサービスの枠組みへの円滑な移行を図るとともに、地域で暮らす障害者が次の時代のサービスに希望が持てるような施策を展開していかなければならない。

(川崎市健康福祉局障害保健福祉部障害計画課障害者自立支援準備担当)