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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年7月号

障害こと始め

障害者自立支援法のなかでの障害と障害者のとらえ方

佐藤久夫

まず、「障害者」のとらえ方に大きな問題がある。端的に言えば、働けない者は価値が低いという考え方である。就労自立(一般雇用)と社会自立(病院・施設でなく地域で暮らす)を権利ではなく義務と捉えている(2004年の障害者基本法改正では、自立への努力義務を削除することによって義務から権利へと転換した国会が、1年で再び義務にする法律を成立させたことになる)。この財政難の時代に働けないばかりか、働こうと努力もせず、安穏とサービス利用を続けている人を認めてはならない、という認識である。入所施設を終の棲家と勘違いしている利用者・家族・職員がいる、とも。

これは戦前のわが国政府の障害者観に似ている。富国強兵に役立たないばかりか政府の救貧施策の世話になるような者は恥ずべきであり、普通選挙権などの市民権がなくて当然とされた。

この障害者観は定率負担の軽減策にも見られる。国民家計調査の最低区分の層(2人以上世帯で年収200万円以下)では、1人月額約5万円という消費生活という結果が出ているとのことで、これを基準とし、たとえば単身で月6万6千円までの人からは1万5千円とっても暮らしていけるはずだと考える。施設入所者は2万5千円で暮らしていける、と。障害者自立支援法の支援を受ける障害者の生活は最低生活でよいとの考えである。

これまでの応能負担と比べて所得のとくに高い世帯では負担額が減る(とくに所得税額600万円以上の世帯では支援費全額を払っていた)。一方無料であった低所得者からは1万円、2万円と徴収する。強きを助け弱きをくじく施策に他ならない。

このような批判に対して、働く希望と能力のある人に働くことを保障するのがこの法であって、それが困難な人をむち打つものではない、と反論があろう。しかし次第に法実施によって現実が見えてくると、きれいな言葉による説明との食い違いが明らかになりつつある。6月6日の知的障害者福祉協会の集会に参加した多くの与党議員が「自立支援法は喜んでもらえるはずだったのにこのような抗議の大集会が開かれるとは…」と述べているのはその一例である。

さて、「障害」のとらえ方にも問題が多い。「障害者の範囲」(谷間の障害)の問題は3年後に見直すこととされた。残る大きな問題は障害程度区分である。

障害者自立支援法第四条四項で、「障害程度区分」とは、障害福祉サービスの必要性を明らかにするために心身の状態を総合的に示すものとし、第五条で「障害福祉サービス」とは「介護給付」と「訓練等給付」からなると規定している。にもかかわらず作成された「障害程度区分」は介護給付とのみリンクし、訓練等給付では基本的に使われない。しかし一次判定は訓練等給付のみの申請者にもなぜか行われる。もっとも「介護」、「機能訓練」、「生活訓練」、「就労訓練」、「継続就労支援」、「グループホーム支援」など全く異なるサービスのニーズを一つの区分で示せるはずがない。支援費制度ではサービス種類ごとの区分だったが、さらに多様なサービスを含めて1区分としてしまった。しかも支援費の調査項目はほとんど使われていない。106の項目のなかのいくつかを組み合わせてそれぞれのニーズを評価するのも困難であろう。「支援の必要度」ではなく「心身の状況」が基礎であるので。

そもそも障害程度区分が何を反映するものなのか、はっきりしない。介護の時間か、介護の難しさか、介護には何が含まれるのか、などが非常に不明確である。介護保険の要介護度とは異なるロジックが使われていると説明されているが、操作手順以上のロジック(意味)は説明されていない。

要介護認定79項目に加えて、行動障害や日常生活関連動作(IADL)の困難が使われ、障害者のニーズを評価するとされるが、これらは実際上、79項目で非該当とされたり区分1とされたものを1ランクアップする程度の効果しかない。

介護保険では、心身状況の調査結果と実際の介護時間との「統計的な」照合作業を通じて区分と判定ソフトを定めた。つまり認定調査に当たって個々人の実際の介護時間を見るのではなく心身の状況を見て、統計的にもっとも相関の高い介護時間を推定するという方法がとられた。しかし、障害程度区分の試行事業では実際の介護時間の調査はなされていない。しかも調査対象のほとんどはホームヘルプサービス利用者に限られていた。

あくまでも評価リストをもとに統計処理をかませた判定基準を作るのであれば、本来的には「障害福祉サービス」の利用者と非利用者を調査対象とし、サービスの種類ごとの利用の有無と量を測定し、利用状況に最も影響する調査項目グループをサービスごとに確定するというような作業が必要だったと思われる。

とはいえすでに実施段階に入っている。実施を通じて事実を集積し、エビデンスを皆で検討し合い、改善するしかない。利用者が作るサービス利用計画案、市町村による障害程度区分と支給決定、それへの不服審査請求などは多くの矛盾を含み、議論と調整が蓄積される。その検討により信頼できるニーズ評価の基準ができ、それを適切に活用できる専門性と専門職が明らかになる。これと並行して、市民・利用者参加の市町村障害福祉計画作りを通じて支給決定水準の合意形成を進める必要がある。こうした取り組みは、障害程度区分(要介護度)の改善を経て、最終的にはその廃止をもたらす。

(さとうひさお 日本社会事業大学)