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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年9月号

災害時要援護者対策について

諏訪五月

1 はじめに

平成16年の梅雨前線豪雨や一連の風水害等への対応に関し、高齢者等の避難支援についての課題が明らかとなったことから、内閣府では有識者、関係省庁、地方公共団体等からなる検討会を立ち上げ、要援護者情報の収集・共有や避難支援プランの策定等について検討を進め、「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」を昨年3月に取りまとめた。

しかし、要援護者の避難対策をさらに進めていくためには、避難所における要援護者の支援体制を整備・充実していくとともに、保健・医療機関、保健師、看護師や福祉関係者、ボランティア等のさまざまな関係機関等の間での連携を強化し、同ガイドラインに沿った取り組みをさらに発展させていくことが重要である。

このため、内閣府では昨年9月に有識者からなる「災害時要援護者の避難対策に関する検討会」(座長:故廣井脩東京大学大学院教授)を新たに立ち上げて検討を進め、本年3月、検討成果を取りまとめるとともに、それを踏まえて前記ガイドラインを充実させたところである。

このガイドラインでは、1.情報伝達体制の整備、2.災害時要援護者情報の共有、3.災害時要援護者の避難支援計画の具体化、4.避難所における支援、5.関係機関等の間の連携の必要性を打ち出し、具体的な対策として、避難準備(要援護者避難)情報の発令や要援護者情報の共有を図るための関係機関共有方式(個人情報の避難支援体制の整備のための目的外利用・第三者提供)の積極的活用、避難所における要援護者用窓口の設置、要援護者避難支援連絡会議(仮称)等を通じた関係機関等の間の連携の強化などを呼びかけている。

また、従来の推進会議の枠組みを拡大し、広く災害対策の関係省庁を招集して、ガイドラインに沿った取り組みを促進するための各省庁の取り組み状況等について、情報共有と意見交換を図るべく、本年6月22日及び8月25日に「災害時の要援護者避難支援対策及び情報伝達に関する推進会議」を開催した。

災害時要援護者の避難支援対策については、今後とも、関係省庁と連携しつつ、市町村を中心とした高齢者等の避難支援体制の整備に向けた取り組みの促進を図ることとしている。

2 「災害時要援護者」について

一般的に「災害時要援護者」とは、いざ災害の時に、迅速に行動ができずに支援を必要とする方々のことを指す。高齢者、障害者、難病患者、外国人、乳幼児、妊婦等が考えられるが、これらの人々は、必ずしも「支援を必要とする人々」とは限らない。

たとえば、80歳を過ぎても足腰の強い人もいれば、日本語を流暢に話せる外国人もいる。したがって、災害時に避難を支援する要援護者の範囲を明確に定め、日頃から情報収集や情報共有を進めて、対象を絞ることがきわめて重要である。

3 情報伝達体制の整備

旧ガイドラインでは、市町村に福祉関係部局を中心とした横断的な組織として「災害時要援護者支援班」を設け、要援護者の避難支援業務を的確に実施することや、風水害時における避難準備(要援護者避難)情報の発令・伝達等が示されていた。今回の新ガイドラインでは、要援護者を支援するための専用の通信手段の構築やインターネット(電子メール、携帯メール等)、災害用伝言ダイヤル「171」、災害用伝言板サービス(携帯電話を使用した安否確認サービス)等のさまざまな手段を活用し、通信の確保に努めるべきであることが示されている。

4 要援護者情報の共有

ガイドラインでは、要援護者情報の収集・共有に関し、次の三つの方式を示している。

「同意方式」は、要援護者一人ひとりに直接働きかけ、必要な情報を収集する方式である。必要な支援内容等をきめ細かく把握できる反面、対象者が多いため、効率的かつ迅速な情報収集が困難である。

「手上げ方式」は、要援護者登録制度の創設について広報、周知したのち、自ら要援護者名簿等へ登録を希望した者の情報を収集する方式である。実施主体である市町村の負担は少ないものの、要援護者への直接的な働きかけをせず、要援護者本人の自発的な意志に委ねているため、支援を要することを自覚していない者や障害等を有することを他人に知られたくない者も多く、十分に情報収集ができていない傾向にある。

「関係機関共有方式」は、地方公共団体の個人情報保護条例において保有個人情報の目的外利用・第三者提供が可能とされている規定を活用して、要援護者本人から同意を得ずに、平常時から福祉関係部局等が保有する要援護者情報等を防災関係部局、自主防災組織、民生委員などの関係機関等の間で共有する方式であり、被災リスクの高い者を網羅的に特定・把握するうえで有効である。さらに本人からの確認があれば、必要とする支援等をきめ細かく把握することができる。

このため、ガイドラインでは、要援護者情報の収集・共有に関しては、原則として、まず、「関係機関共有方式」により対象とする要援護者の情報を共有し、その後、避難支援プランを策定するために必要な情報をきめ細かく把握するため、「同意方式」により本人から確認しつつ進めることが望ましいとしている。

5 市町村等による避難支援の進め方

災害時における要援護者の避難支援は、家族や近隣の助け合い(自助・共助)が基本となる。そのうえで、市町村は、要援護者に関する情報(住居、情報伝達体制、必要な支援内容等)を普段から電子データ、ファイル等で管理するとともに、一人ひとりの要援護者に対して複数の避難支援者を定めるなど、具体的な避難支援計画(避難支援プラン)を整備しておくことが重要であるとしている。

そして、市町村は、自助・共助による避難支援の取り組みを促進するとともに、自助・共助による必要な支援が受けられない要援護者の避難支援の仕組みについては、関係機関(消防団員、警察の救援機関)や自主防災組織、近隣組織、介護保険制度関係者、障害者団体等の福祉関係者、患者搬送事業者(福祉タクシー等)、地元企業等のさまざまな機関等と連携し、早急に整備する必要があるとしている。

6 はじめに

災害時要援護者対策は、高齢者、障害者、防災等の複数の部局にまたがる課題であるため、これまでは担当部局が内部的・対外的に不明確となるとともに、普段から関係部局の連携の下、総合的な対策を進めるような取り組みを実施するのが困難であったという傾向がみられた。そのため、市町村は、福祉関係部局を中心とした横断的な組織として「災害時要援護者支援班」を設けるとともに、社会福祉協議会、民生委員、介護保険制度関係者、障害者団体等の福祉関係者との連携を深め、発災時はこれらのネットワークを避難準備(要援護者避難)情報等の伝達に活用することが重要であるとしている。

避難支援プランを整備するため、市町村は、要援護者本人から収集した情報を防災関係部局、福祉関係部局等で共有することが基本となる。しかしながら、対象者が多く早急な整備が不可能な場合等のため、「関係機関共有方式」と併用することも必要であるとしている。

7 避難所における支援

今まで、避難所における障害者などの要援護者用の窓口が必ずしも明らかになっていなかったため、要援護者は必要な支援に関する相談等がしにくく、一方、避難所の責任者や被災市町村担当者も、避難所における要援護者のニーズの把握や支援の実施が不十分となる傾向にあることから、新ガイドラインでは、避難所において要援護者用窓口を設置し、要援護者からの相談対応や、確実な情報伝達と支援物資の提供等を実施することとしている。

また、福祉避難所については、介護保険関係施設における要援護者の受け入れには限界があることから、緊急入所できない者のために福祉避難所が必要となるものの、市町村の福祉担当者や防災担当者、福祉関係者等の、福祉避難所についての理解が全般的に不十分であるため、平常時及び災害時に十分な取り組みがなされていない状況にある。そのため、市町村、都道府県、国は、研修や実践的な訓練を実施・促進するなど、福祉避難所についての理解を深めていくことが重要であるとしている。

8 関係機関等の間の連携

発災による居住環境の急激な変化、孤立や孤独の不安が解消されるよう、災害時における福祉サービスの継続を確保する必要があり、「要援護者避難支援連絡会議(仮称)」等を通じ、災害時要援護者支援班、医療機関、保健師、看護師、社会福祉協議会、介護保険制度関係者、自主防災組織、民生委員、障害者団体などのさまざまな関係機関等の間の連携を深めることが重要であるとしている。

9 今後の進め方

新ガイドラインについては、策定後、直ちに内閣府、消防庁、厚生労働省の連名で地方公共団体へ通知するとともに、本年4月21日に開催された中央防災会議に報告している。

今年度は、さらに、市町村を中心とした取り組みの促進を図るため、とりわけ福祉関係部局と防災関係部局との連携の確保を主要テーマとして、検討会を開催し、検討会委員が分担して先進的な事例等を調査するとともに、調査事例全体を分析し、重要なポイントについて具体的な方策を提示する。

また、個別課題とは別に福祉関係部局と防災関係部局との連携を中心とした災害時要援護者の支援対策の時系列、系統的な流れを抽出して、全体的なフローチャートの作成を検討する。

そして、国、都道府県、市町村をはじめ関係機関等は、本ガイドラインの趣旨を十分に理解して要援護者支援に取り組んでいく必要がある。今後は、各種会議・研修を通じて浸透を図るとともに、重点項目などについてさらなる分析を加え、市町村を中心とした災害時要援護者の避難支援体制の整備に向けた取り組みを関係府省が連携してさらに支援していくこととしている。

(すわさつき 内閣府(防災担当)防災情報官)

【災害時要援護者が必要とするもののリスト(例)】

  • 食糧(高齢者、障害者等への軟らかい食事、温かい食事、おかゆ、乳幼児への粉ミルク、離乳食、缶詰、レトルト食品)、水、浄水器、ポット、哺乳びん、カセットボンベ、カセットコンロ
  • テント、簡易ベッド、介護用ベッド、毛布、タオルケット、マット
  • 簡易トイレ(障害者に利用しやすいもの。洋式のものが望ましい)、障害者用携帯トイレ
  • 高齢者、障害者用の車いす、電動車いす
  • 緊急連絡カード、白杖、点字盤、老眼鏡、補装具、非常ベル、ペンライト、懐中電灯
  • 真仕切用資材、カーペット
  • テレビ(文字放送付き)、ラジオ(見えるラジオ)、ファックス、パソコン、携帯電話、洗濯機、掃除機などの電化製品、暖房器具、予備用電池、絵本、おもちゃ
  • 毛布、下着類、タオルなどの生活用品
  • 医薬品等:ALS等の在宅人工呼吸器用酸素、潰瘍性大腸炎・クローン病の成分栄養剤、膠原病のステロイド系薬品、糖尿病のインシュリン、抗パーキンソン剤、拡張型心筋症の利尿剤、重症筋無力症の抗アセチルコリンエステラーゼ剤や免疫抑制剤、血液系疾患の副腎皮質ホルモン剤、低肺機能者への小型酸素ボンベ、酸素濃縮器、酸素充填・スペアボンベ、吸引器、加湿器、吸引カテーテル、減菌水、消毒薬、減菌手袋、注射器50ml、人工鼻、衛生材料、延長チューブ、蒸留水、カヌラ
  • 人工透析を実施するための大量の水、透析液などの医薬品、人工腎臓装置(ダイヤライザー)を稼働させるための電力、透析従事職員(医師、看護婦、臨床工学士(透析技術認定士)、臨床検査技師、栄養士など)の確保
  • 衛生用品(紙おむつ、タオル、おしりふき、ティッシュ)、着替え、下着
  • 発電機
  • アンビューバック(手動式人工呼吸器)