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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年9月号

台風14号の教訓

永山昌彦

想定外の大被害

宮崎県内に大きな被害をもたらした台風14号から9月6日で丸1年を迎えます。

宮崎県内での想定外の豪雨は、死者13人、負傷者26人、住家被害9,186棟の被害を出し、山間部の傾斜地の深い地層まで浸透し大規模な「深層崩壊」を誘発しました。宮崎、延岡市など河川河口部では、都市化が戦後進んだ流域で被害を大きくしました。森林や土の保水、遊水機能の低下が多くの土砂災害と大量の雨水の河川への流入を生み出してしまいました。大淀川沿いの旧高岡町(現宮崎市)は、全戸数の約2割に当たる1,168棟が浸水等による住家被害に遭ったのでした。

地震等の突発的な災害と違い、規模や大きさ、予想進路が把握及び予測されている台風において、大きな混乱と被害をもたらしたことは驚きです。また、近代化の中での森林の荒廃と密集した建物が災害を大きくしてしまったことに驚かされます。

延岡市から高千穂町を結ぶ高千穂鉄道(以下、TR)は五ヶ瀬川に架かる2本の鉄橋が流され、TRは再建を断念しました。部分運行を新会社が観光用として再開を検討中で、交通弱者の足としての機能は失われました。

宮崎市の中央を流れる大淀川は危険水位を超え、堰き止められた多くの支流が氾濫しました。宮崎市の浄水場では浸水のため、運転を停止したため、5万世帯以上に水道水の供給ができなくなってしまいました。給水場所に行けない高齢者や障害者に在宅介護支援センター等を通じて水を届けるボランティア活動が行われました。

避難勧告発令

6日午前零時過ぎより大淀川が氾濫する恐れがあり、下流地域に避難勧告、避難指示が相次いで出されました。当センター事務局長の住むアパートも大淀川近くにあり、同じアパートの住人たちと共に避難しました。頚椎損傷で一人暮らしの彼は、いざという時のために介助者に宿泊を依頼していたので、避難所に非難した際も心強かったと言っています。

一方、3歳年下で65歳の妹さんとの2人暮らしの重度脳性マヒのI氏の自宅にも避難勧告が出ましたが、消防局の災害弱者情報管理事業へ自己申告していたので、連絡しておけばすぐに救助に来てくれると思っていました。しかし、連絡してもなかなか救助は来なく、近所の人も避難して取り残されてしまいました。

避難勧告から相当経って救助が来たと後日教えてくれました。自宅待機中に大淀川が氾濫しなくて幸いでした。一度に多くの人からの救出依頼が舞い込み、消防局の避難支援や安否確認等に混乱が生じていたのでした。

その後、宮崎市は庁内各課(消防局、障害福祉課、介護長寿課)で災害弱者の情報を共有することにはなりましたが、市民団体等との情報共有に関しては、個人情報保護法の観点から慎重な対応が必要であると担当者が話をされていました。大事にしてほしいところです。

緊急時においては、公的支援だけに頼らず、日頃から地域での支援確保や避難場所の情報等に当事者である私たちも努めなければならないと強く思いました。

被害を受けた小規模作業所

また、いくつかの小規模作業所も大きな被害を受けていました。小規模作業所の支援者、スタッフ、メンバーの多くは被災者であり、自宅の後片付けに翻弄され、期限が決められた粗大ごみ無料回収にあわせて自宅の後片付けを行うだけで手一杯です。災害ボランティアも人命、個人宅等が優先となり、小規模作業所等の復旧作業は手付かずの状態でした。

宮崎市糸原にあるタンポポ福祉作業所もそんな状況にありました。花卉栽培と植栽を行う知的障害者の母親たちが始めた作業所です。

その現状は、阪神・淡路大震災の復旧にボランティアとして従事した経験を持つA授産施設のT施設長が知ることになり、彼のネットワークを活かし、多くのボランティアを派遣することができました。また、「ゆめ風基金」からの資金援助もあり、一時は閉鎖を考えていた作業所を再開することができました。しかし、公的支援の少ない小規模作業所においては、老朽化しているうえに被災した建物の改修や、畑への上水道の整備等は、年度末に分配される共同募金等の配分を待たなければならなかったのでした。

行政の復旧支援を望む

日頃通所する施設等が被災した場合、メンバーの行き場が無くなり、避難所や自家だけでの生活になり、後片付けや整理等を精力的に行わなければならない家族にとって、また慣れない環境下にあるメンバーにとって大きな痛手です。社会資源としての(資金的な裏づけの少ない)作業所の早急な復旧に行政の力を仰ぎたいと切に思いました。

今回の台風は、障害をもつ私たちに大きな教訓をもたらしました。避難時の対応、避難所の問題、地域力の向上など公的にも、個人的にも考えていかなければいけないことが多くあります。昨年の台風14号を教訓に議論を深めていきたいと思っています。

(ながやままさひこ NPO法人障害者自立応援センターYAH!DOみやざき)