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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年9月号

災害時における障害者支援のための
「災害支援ボランティアリーダー養成研修」の取り組み

森泉摩州子

はじめに

国際障害者交流センターは、「国連・障害者の十年」を記念する施設として厚生労働省により建設され、平成13年(2001年)に開館いたしました。館内は、多目的ホールのほか研修室、宿泊室やレストランを有し、すべての方が利用しやすいようにと全館バリアフリー化しております。

本施設の有する機能を活用した諸事業の一つとして「災害支援ボランティアリーダー養成研修」を実施しています。

研修の概要

さて、「阪神・淡路大震災」以降、大規模災害を教訓に各自治体では、速やかに広域的な救援体制を作るだけでなく、「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」に基づくマニュアル作成などに取り組んでいます。しかし、災害の予測は難しく、「平成18年7月豪雨」では犠牲をなくすことはできませんでした。

本研修は、過去の災害から障害者への支援ボランティアの必要性を受け、年2回実施し、今年7月の研修で10回を数え、受講修了者は全国に265人となりました。

1.目的 災害発生時、特に、阪神・淡路大震災以降、浮き彫りになった安否確認、生活情報の伝達手段、避難所での環境整備など、さまざまな課題に直面する障害のある方へのきめ細やかな救援・支援を行うボランティアリーダーを養成することとしています。

2.対象者 平時から障害者の支援活動に携わっている方、または、地域でボランティアリーダーとして災害時における障害者への支援を希望する方が、都道府県・指定都市・中核市の障害保健福祉担当課に申し込み、各担当課が取りまとめ、推薦していただいております。

3.定員 各回30人。新潟県中越地震や台風23号による水害以降、定員を超える受講申し込みがあります。

4.開催時期・期間 6月~7月、10月~11月の年2回、土・日を含む3日間。当センターの宿泊室を利用するなど全国から参加していただいております。

講座内容

被災地の報告によりますと、ボランティアの受け入れを想定した防災訓練を行っても災害に見舞われると、ボランティアの受け入れをはじめ、作業の割り振りなど上手く機能しないことが多いようです。

過去の災害事例から、被災地とボランティア双方の課題を知り、ボランティアを受け入れるため、平時から地域の実情に則したネットワーク作りを行うことの大切さを理解する講座を考えています。

講座は、1.国や自治体の防災計画「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」等の概要やボランティアセンターの立ち上げなど、防災に関する法律や制度を知ること、2.地域で防災に取り組む事例や被災地での活動報告を受け、災害発生時の避難方法や避難所での課題を認識すること、3.災害事例から抽出した課題を基に、地域において取り組めることや準備するものなどを討議するグループ演習を実施しています。

(1)平成18年度第1回講座内容について

今年7月に実施した日程表(図)を参考にしますと、1日目は、3月に改訂された「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」にある福祉避難所について、「災害救助法」の一般基準や特別基準と照らし合わせるなど、設置する際の制度面から考えてみました。また、受講者の災害ボランティア経験に差があるので、「ボランティアセンター」の立ち上げや運営の基礎を学びました。

2日目は、地域で取り組む防災訓練の先進的事例をはじめ、携帯電話等を使用しての安否確認の方法の紹介など、災害を経験して取り組まれた事例から、災害時に必要なことを創造できる視点を学びました。

最終日は、防災ボランティアの関係団体を講師に迎え、過去の災害の事例を基に、避難所で「必要なもの」「何ができるのか」などの課題を、受講者の年齢や職種、地域を考慮した10人前後のグループを編成し、討論しました。そして、受講後、各地域の特性をいかし、個々ができることを考える機会としました。

平成18年度第1回災害支援ボランティアリーダー養成研修日程(概要)

時間 科目
[第1日]
平成18年7月1日(土) 「自治体等における災害時要援護者の避難支援対策」
10:30~12:00 ○福祉避難所の概要【厚生労働省】
13:00~14:50 ○防災ボランティアの基礎【日本赤十字社】
ボランティアセンターの運営
15:00~16:50 ○保健師の広域的な応援【自治体】
被災地における活動報告と課題
[第2日]
平成18年7月2日(日) 「災害時要援護者の避難対策と支援事例」
9:30~11:00 ○災害時要援護者避難支援計画の取り組み
【ボランティア連絡協議会】
地域活動事例の紹介
11:10~12:30 ○オストメイトの生活ニーズ【日本オストミー協会】
災害時の取組みと課題
13:30~15:20 ○災害時の効率的な安否確認の方法について
【被災地の特定非営利活動法人】
支援方法と課題
15:30~17:20 ○災害ボランティア活動の実際【大学講師】
避難支援のための図上訓練の手法
[第3日]
平成18年7月3日(月) 「福祉避難所の役割と課題」
9:30~11:00 ○福祉避難所の概要【特定非営利活動法人(防災)】
過去の災害からみた課題等
10:15~12:00 ○GW1 福祉避難所運営にかかる事例検討
13:00~15:00 ○GW2 地域と作る福祉避難所事例検討

(2)今後の課題

研修当初の講座内容は、阪神・淡路大震災時、避難所における障害者の生活に多くの問題点が浮き彫りになり、きめ細やかな支援活動ができるボランティアの養成を目的にしたものでした。したがって、防災ボランティアの役割を理解し、被災地でボランティア団体が実践した活動の報告及び被災した障害者団体や障害者の経験を通じて、被災地における障害者の状況を把握することでした。

しかし、回を重ねると、受講者の所属が自治体、社会福祉協議会、障害者施設や支援センターなど多岐にわたり、受講目的も異なり、受講者のニーズに合致したものとすることが難しくなってきました。

また、中越地震や台風による災害などその規模、発生地域や季節により、また支援の方法は、災害発生直後、発生から1週間、避難所生活1か月など被災地の状況とともに、刻々と変化し、課題がどんどん見出されてきました。

本研修では、受講者の幅の広さを考慮し、どうしても支援方法の総論となり、障害の種別で対応することは難しく、障害者個々人にあるさまざまな課題については、各受講者の経歴や経験の中で、適切な支援方法を見出しているのが現状です。障害者への支援に限定した研修としては、視点をどこに置くかが今後の課題です。

おわりに

地震や水害など災害の種類や規模により、避難所で求められるものも異なります。昨今の災害で、避難所運営も改善されています。災害時に即応的に避難所を立ち上げ、障害者への支援を行うためには、平時から福祉避難所をイメージし、地域で土台を作ることなどが、この研修で問われている新たな課題です。

そして、何よりも、災害時に速やかに避難するには、地域で防災訓練等を継続的に取り組み、地域で支援の必要な人を知ることが、災害による犠牲をなくし、また、福祉避難所を円滑に運営する方法を知る研修でもあります。

今年度第2回の研修は、10月28日から30日に開催いたします。募集締切りは、9月下旬です。詳細等は当センターの事業課、もしくは、各都道府県・指定都市・中核市の障害担当課にお問い合わせください。ぜひ、多くの方のご参加をお待ちしています。

(もりいずみますこ 国際障害者交流センター)