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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年9月号

わがまちの障害福祉計画 群馬県伊勢崎市

伊勢崎市長 矢内一雄氏に聞く
小規模多機能の良さを生かした福祉とまちづくり

聞き手:田中正博
(国立のぞみの園、本誌編集同人)


群馬県伊勢崎市基礎データ

◆面積:139.33平方キロメートル
◆人口:209,179人(平成18年6月1日現在)
◆障害者の状況(平成18年3月31日現在)
身体障害者手帳保有者 5,578人
(知的障害)療育手帳保有者 841人
精神障害者保健福祉手帳保有者 417人
◆伊勢崎市の概況:
関東平野の北西、群馬県南部の商工業都市。古くは養蚕が広く行われ、「伊勢崎銘仙」として全国的に知られていた。近年は電気・機械・輸送機器・食品などの産業が集積し、活力ある北関東の都市として発展している。また、北関東自動車道の開通によって、首都圏をはじめ近接する他県との交流が盛んになり、工業だけでなく、農業・商業のバランスのとれた都市になっている。
◆問い合わせ:
伊勢崎市福祉部障害福祉課
〒372―8501 伊勢崎市今泉町2丁目410
TEL 0270―24―5111(代) FAX 0270―26―1808

▼最初に伊勢崎市の特色をお聞かせください。

群馬県の人口は、今年あたりをピークにこれから減少傾向にあると予想されています。しかし、本市においては、来年度以降も人口が増え続けていく見通しです。その理由はいくつかありますが、一つには地理的には平坦で、自動車交通網が放射状に整備されているため他市への移動が容易な条件だからだと思います。転入された市民に伺うと「買い物に便利で、住みやすい」と言う声が一様に返ります。

21世紀の地方都市のモデルをめざしていて、中心市街地と新しい商業圏を並行して盛り上げていこうとしています。歴史と文化の香り漂う中心市街地は、良好な住環境が整った散歩の似合うまちとして、人と活力あふれる西部地区は、大型店舗とレジャー施設が集まった買い物と娯楽が気軽にできるまちとして位置づいています。この二つの中心機能は歩いて行ける程近い距離にありますので、玉子の中に2つの黄身が並んだコンパクトシティをイメージとしています。

▼平成の大合併はこの市においてはどのような展開だったのでしょうか?また合併後の障害者福祉の考え方を教えてください。

赤堀町、東村、境町と伊勢崎市で17年の1月1日に対等合併しました。この地域は群馬の中でも平坦で中心部に位置するため、流通の要でもあり、似通った都市として支障なくソフトランディングできたという感じです。

20年先のまちづくりを考えると高齢者の多いまちになることが予想されます。高齢者や障害者の方々の住みよいまちづくりを考えるには、こうした方々が増えてからなどとする、先々の事とせずに、今の暮らしぶりに目を向ける必要があると感じています。高齢者や障害者の暮らしやすいまちづくりを考えると、『健常者とは何か』を改めて問わざるを得ない気持ちです。

市役所の課長以上の幹部職員に、定年後の生活設計を尋ねてみると、みんなゴルフとか温泉三昧の生活を送りたいという人が多いのですが、「そういう生活は5年は持つかもしれないけど、いずれ飽きてしまうよ。年金をいくらもらうかではなくて、どんな働き方、社会参加をするかが、定年後の暮らしには大切になるよ」と話しかけるようにしています。

市民が80歳、90歳になっても戸惑わない暮らしを考えるためにも、障害者がどれだけ社会参加ができるかを大事にしたまちづくりをしたい。ユックリズムとかスローライフの環境は、障害者の暮らしやすいまち、高齢者にも居心地がいいと習慣的にとらえられるようにしたいと思います。障害があっても安心して暮らせるまちづくりをしたいものです。

ですから市長として、合併して不都合な状況があるかどうかの状況は、障害のある方の暮らしを聞かせてもらうと、ある程度のバロメーターとして理解できる部分があるので、意識して事情を聴かせていただくようにしています。

▼障害者自立支援法になると相談事業がシステムの要になりますが、伊勢崎市では相談についてはいかがでしょうか?

市町村設置の障害者相談支援事業を障害者相談支援センターとして、県内では2番目になりますが、平成14年に開設しました。設置した途端に国庫補助が無くなり交付税措置になりましたけれども、情報提供や相談体制の場の充実をめざして続けています。運営は社会福祉協議会に委託しています。平成16年度からは群馬県が行っている伊勢崎圏域障害者生活支援センターが設置されたので、知的障害者の地域療育等支援事業のコーディネーターと協調して相談体制を作ってきました。年間700~800件ほどの相談件数となっています。今後は精神の相談も含めて自立支援法のめざす3障害を対象としたものにしていく予定です。

▼昼間の社会参加や日中活動の場所についてはどうですか?合併した時に統廃合などは考えられなかったのですか?

日中活動は、近隣に通所授産施設が少なかったこともあり、作業所がその多くを担っています。作業所の仕事だけではなく、利用者が困っていることを何でもやるのはいいことだと思っています。市内には6か所の作業所があり、2つが直営で、4つは指定管理者で委託しています。合計で94人の方が利用しています。

合併を経済効率だけでとらえないほうが良いと思っていました。小さな町が合併して吸収されたと思い込みがちな中で、育んできた人のつながりとか温もりとかが失われてしまうよりは、多少費用がかさんでも大事なものは無くさないようにしようと思ったのです。それぞれの地域で拠点となる活動があれば地域の支え合いの拠点にもなると思います。小さい自治体だった頃の良さが失われないようにしようと思っています。

▼めざしているのは小規模多機能な感じがしますが、資金のやりくりに工夫が必要ですね。

子どもが目の前で転んだのに救急車が呼ばれるまで、だれも助けないような専門性だったら要らないと思っています。その意味で小規模で多機能な有り様は、わが市の状況には合っているかもしれません。また合併協議会の時に、大切にしてきた考えとして、「サービスはなるべく高く維持し、負担は低くしよう」と言うのがあります。でも、現実には制度を無くしたり新たに作ったりすることは必要です。利用できる状況にあったものが無くなってしまう、というのは不満につながりやすいですけれども、見舞金など、所得に関わらずに一律に配っていたものは廃止して、必要なものを残すようにしました。

▼児童については、障害児通園事業を県内では唯一、直営で実施しているそうですが、どのようなお考えからでしょうか?

障害のある児童については、子育て支援という思いで大切にしています。前向きな気持ちになれるように施策を用意して、障害のあるお子さんを受け止めようとする親御さんの気持ちの混乱を緩和できればと思っています。

▼市として自立支援法で何か特色を持たせた対応をお考えですか?

精神の方の通院医療費10割のうち、保険で7割、残りの3割のうち2割を自立支援医療費で負担しても残る1割を自己負担にせず、福祉医療で市が公費で補っています。指定した病院と薬局で使えます。市の負担は少なくありませんが、今後も継続していきます。

▼大切な支援だと思いますが、継続する見通しはいかがでしょうか?

ずっと援助し続けるというよりは、だんだん本人たちが自立していけることを願っているわけです。基本としては、生き方や働き方を覚えていくことが良いことだと思っています。実際には言うほどの成果を上げるのは容易ではないですし、理想はみんなで支え合える社会ですが、急に実現するのは難しいことですから、行政のできる範囲で支えなければと思っています。理想に向けて、他人事でないと思える人を市民の中に少しずつ育んでいけるように工夫をしていきたいと思います。市役所の職員の育成にも力を注いでいきます。何が必要なことで、何が大切なのかを、自分で考えて判断できる職員を求めています。


(インタビューを終えて)

障害のある方は、生き方が敏感―センシティブだ、との思いが市長の考え方の根底にあることが印象的でした。知的障害のある仙台四郎は、素直な性質であったが、気に入らない店には誘われても決して行かなかったといいます。逆に、四郎が立ち寄る店は必ず繁盛するとされたため、どこでももてなされた。そんな捉え方を感じました。最後に、「まちづくりを進めるうえでは障害のある人の暮らしを先頭に位置づけ、壁に当たって、迷うようなことになったら障害のある人の暮らしを見つめて見直しをするバロメーターとしたい」と話されたことも印象に残りました。

また伊勢崎市には、南米諸国から働きに来られている方が1万2千人もおられ、県内でもトップクラスの受け入れです。「南米の方だからと言って、特別に配慮する必要を感じてはいない」と語られた市長の話に、多様さや表と裏、これらを柔らかく受け止めると、幅と厚みがでて豊かなふくらみが見える、そんな気がしてきました。これからの伊勢崎市の展開に注目です。