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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年9月号

障害こと始め

障害を表す英語の表記

寺島彰

今回は、英語圏における障害を表す表記についての議論と最近の状況を簡単に紹介します。

ハンディキャップ(handicap)

障害とジャーナリズムに関するナショナル・センター(National Center on Disability and Journalism)が1992年に発表した「メディアにおいて障害を表現する際のガイドライン」では、障害者を表現する際にハンディキャップ(handicapped)を使わずにディスアビリティ(disability)を使用することが推奨されています。この言葉が使われない理由は、cap in hand(手に帽子を持つ)、すなわち、物乞いを連想させるからだと言われています。

歴史的に見ると、17世紀半ばにイギリスのロンドンで生まれたhand in cap(帽子の中に手を入れる)という強弱の差をあらかじめ調整したゲームが語源で、それが、18世紀半ばに競馬で、19世紀半ばにゴルフで、そして20世紀はじめに障害者に用いられるようになったもので、最初にソーシャル・ワーカーが使い始めたとされています。

障害者は、身体的または精神的に何らかの重荷を社会から負わされているということを表すためにこの言葉を選んだということです。それであれば、dis(無)+ability(能力)よりも良い言葉のように思えますが、リハビリテーション法504条など障害者関係法の中でhandicapped peopleは法律用語として使われてきた歴史があり、これまでの障害者政策を象徴する用語として障害者運動では否定され、それが、社会的に受け入れられるようになっています。

ディスアビリティ(disability)

今日、障害者を表すのに、crippledのような刺激的な言葉や、the handicappedのように「the」をつけてレッテルを貼るような表現は使われなくなりました。また、DisabledやDisabled Personsではなく、Persons with disabilities,People with disabilitiesが用いられます。これは、障害(disability)ではなく、人(person,people,Individual)を先に置くことがモラル的に正しいと考えられているためです。

Personsを使うかPeopleを使うかは好みの問題のようで、国連ではPeopleを使っています。複数形か単数形かは、状況により使い分けます。たとえば、個人で単独の場合は、person with a disabilityになります。

また、米国では、最近、Individuals with Disabilitiesが法律用語として使われるようになってきました。たとえば、全障害児教育法(Education for All Handicapped Children Act)は、Individuals with Disabilities Education Act に改正されました。また、リハビリテーション法でも individuals with disabilitiesを使っています。

チャレンジド(challenged)

1991年に米国の日刊紙が障害者を表す婉曲的な表現として使用して以来、マスメディアを中心に急速に普及したと言われています。今日、新聞などで日常的に用いられている人気のある表現です。

しかし、カンサス大学が公表している障害者を表現する際のガイドライン(Guidelines for Reporting and Writing about People with Disabilities:the Research and Training Center on Independent Living at the University of Kansas)によれば、表現が婉曲的すぎるために障害者団体は、この用語に強く反対しているとのことです。同様の理由で、handicapable,mentally different,physically inconveniencedなどの用語も否定されています。

セルフ・アドボケイト(selfadvocait)

精神遅滞(retardedやmentally retarded)は、スティグマを感じるために使われなくなりつつあり、代わりに発達障害(developmental disability)が用いられています。発達障害という言葉からは、発達期の障害のような印象を受けますが、米国の発達障害者法(Developmental Disabilities Act of 1984)にみられるように、精神遅滞の言い換えとして用いられています。

また、intellectual disabilityも用いられます。国連の障害者権利条約の議論のなかでも取り上げられました。さらに、言い換えとしてselfadvocateという用語が用いられることが増えてきました。advocateは、擁護することなので、自分を擁護する人という意味になります。

サバイバー(survivor)

近年、障害者を表すために使われ始めた用語で、日本語に訳せば「生存者」ですが、ほんの10年前なら確実に死んでいたような事故や病気を経て生き残ったという意味で、polio survivorsやspinal cord injury survivorsなどを使う障害者が増えています。障害者団体としてもLandmine Survivors NetworkやWorld Network of Users and Survivors of Psychiatryなどの国際的な団体がサバイバーを用いています。

(てらしまあきら 浦和大学総合福祉学部)