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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年2月号

障害者自立支援法と自治体施策

石川満

2006年10月31日、日比谷公園において全国から1万5千人が集まり、「出直してよ、『障害者自立支援法』大フォーラム」が成功裡に開催された前後から、都道府県・市町村独自の利用料軽減制度などが各地で検討された。現時点で独自軽減策が実施されているのは、全国1、840区市町村のうち411(22.3%)で、検討中は103(5.6%)と、「きょうされん」の調査では報告されている。

06年12月1日に政府与党は、国としての利用料負担軽減策、事業者に対する激変緩和措置等などを発表した。また、12月24日には07年度の政府予算案が発表された。これらを踏まえ、主に市町村の立場から、当面する自立支援法の課題や障害福祉計画への取り組みの課題をここでは検討する。

1「国の障害者自立支援法の円滑な運営のための改善策について」の内容とその評価

(1)改善策の概要

3年後の見直しまでの措置として、以下の3つの柱からなる改善策を講じることとなった。全体の予算規模は国費で1,200億円(3年間)である。

1.利用者負担のさらなる軽減(07年度当初、08年度当初:計240億円)、2.事業者に対する激変緩和措置(06年度補正:300億円)、3.新法への移行等のための緊急的な経過措置(06年度補正:660億円)

(2)改善策の具体的な内容

1.利用者負担軽減

現行では、自立支援法の1割負担について、所得に応じた上限額が設定(一般 37,200円、低所得2 24,600円、低所得1 15,000円)されている。さらに、通所・在宅利用者およびしょうがい児に対しては、社会福祉法人に限り、低所得者(1・2)の利用料を2分の1に軽減する制度がある。

この改善策として、社会福祉法人以外のすべての事業者に拡大し4分の1に軽減する、さらに事業者の持ち出しを解消する。また、低所得2について、住民税非課税世帯から住民税所得割10万円未満まで拡大する。軽減時の資産要件を単身者で350万円から500万円に、家族同居の場合は1,000万円に拡大する。なお、この制度は通所・在宅利用者および通所・在宅しょうがい児を対象としている。このほか、入所施設の場合、工賃の控除を年額28万8千円(月額2万4千円)まで拡大する。

この評価としては、08~09年度の2か年に限り、次回の見直し時には介護保険との統合問題があるので、1割負担は避けられない見込みである。それでもこれまでの都道府県・区市町村の独自減免制度が低所得者への利用料軽減策が中心であったことを考えると、すべての地域に拡大され、しかも低所得の条件が若干緩和された意義は大きい。それでもまだ食費を支払うというのが現実であり、障害基礎年金2級の所得のみ(低所得1)で通所施設(4分の1に軽減)を利用する場合、利用料3,750円+食費5,000円程度で8,750円程度の負担となる。授産施設の平均工賃は15,000円だが、精神などの場合はそれよりも低いことも少なくないため、工賃収入に対し利用料と食費を合わせると赤字となるケースも引き続き出ることとなる。

いずれにせよ、1割負担という制度は、しょうがい者の生活実態からして、なじまない制度である。また、単身者で障害基礎年金2級(低所得1)などの場合は生活保護基準を下回っており、このようなしょうがい者から利用料を徴収するような制度は、社会保障の観点からも、大きな問題がある。また、家族と同居のケースでは、成人したしょうがい者本人のみの所得に着目した制度にするべきである。

自立支援法では、介護給付、訓練等給付、自立支援医療、補装具、地域生活支援事業のいずれでも1割の利用者負担があり、さまざまなサービスを組み合わせて利用する際は、とても大きな負担となる。すべてを合算して軽減するなどの検討が必要である。

2.事業者に対する激変緩和措置

06年度の報酬改定は平均1.3%程度の減額であり、また自立支援給付では報酬額が日払いであるため、毎日通所できない利用者もおり、事業者の報酬額が大きく減額となった。これにより、多くの事業者で人件費の引き下げ(きょうされんの調査では41.0%の事業者で引き下げ)をした。また東京都の調査(06年11月)では、全施設平均で約10%の減額、通所施設では約15%の減額となっている。

これらの問題を激変緩和するため、従前報酬の80%保障を90%保障とし、旧体系から新体系に移行した場合も90%保障とすることとした。このほか、送迎費用の助成、入院時の報酬補償を6日分から8日分へ拡充する。

確かに若干は事業者の激変緩和に資することができるが、それでも通所授産施設などでは日額報酬は相当に問題が残っている。日額報酬は介護保険との統合問題を考えると、政府としても譲れない点ではあると思われるが、これでどこまで事業者やそこで働く福祉労働者などの意欲を高めることができるかは、疑問も残る。

3.新法への移行等の緊急的な経過措置

  • 直ちに移行することが困難な無認可小規模作業所に対し、従前と同水準(定額110万円)の補助を実施
  • 従前のデイサービスや精神障害者地域生活支援センターが移行する(08年度)までの間、経過的に支援
  • その他新法への移行のための支援や制度改正に伴う緊急的な支援

ここでも、もともと無認可小規模作業所の補助額が極めて少ないため、基本的な問題解決とはならないことを指摘しなければならない。年間の運営費補助110万円では、たとえ非常勤の職員1名の確保もままならない水準である。従って、都道府県や市町村独自の支援策の継続・拡充が欠かせない。

また、無認可作業所が認可事業所に移行できずに、地域生活支援事業の地域活動支援事業に移行した場合でも、補助金が少ない(06年度200億円、07年度400億円)中で、市町村が十分な経費を支出することは極めて困難である。

要するに、無認可小規模作業所は、経過措置でも、新制度に移行しても、その運営は極めて厳しい状況が続くことになるのである。また、デイサービスも、地域生活支援事業の中の地域活動支援事業となるので、厳しい運営が避けられないものと思われる。さらに、これらの地域活動支援事業(地域活動支援センター)は一般財源化された(ただし強化事業分は補助対象)。地方交付税を受けている場合でも、07年度では地方分の総額で7,000億円程度の減額が予定されており、地方交付税を受けない団体でも財政の硬直化が進んでいる。このような財政危機下で、どこまで市町村の責任として財源保障できるか、疑問である。

2と3については、合わせて国の予算規模は960億円(06年度補正)であるが、具体的には都道府県で基金条例を制定し、その条例に即して08年度までの間の減変緩和をすることとなる。

2 市町村障害福祉計画と市町村の責務

すべての市町村において07年3月までに新たな「障害福祉計画」が策定される予定である。自立支援法が施行されてから1年しか準備期間が無く、しかも障害程度区分認定をはじめ、さまざまな事務の準備や施行に追われていたのが実状である。全般的に見てしょうがい当事者などの参画は不十分であり、またしょうがい者の生活実態に即して真の意味で「自立生活」を援助するものになっているかどうか。ここでは市町村の責務と計画の内実、特に具体的なサービス水準・内容について、そして市町村に対しての取り組みのポイントについて、若干の検討をする。

(1)市町村の責務について

自立支援法の第2条では市町村の責務について、次のように定めている。

1.障害者が自ら選択した場所に居住し、障害者・児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活または社会生活を営むことができるよう、当該市町村の区域における障害者等の生活の実態を把握した上で、公共職業安定所その他の職業リハビリテーションを実施する機関、教育機関その他の関係機関と緊密な連携を図りつつ、必要な自立支援給付及び地域生活支援事業を総合的かつ計画的に行うこと。

2.障害者等の福祉に関し、必要な情報の提供を行い、相談に応じ、必要な調査及び指導を行い、並びにこれらに付随する業務を行うこと。

3.意思疎通に支援が必要な障害者等がサービスを円滑に利用できるよう必要な便宜を供与すること、障害者等に対する虐待の防止及びその早期発見のために関係機関と連絡調整を行うこと、その他障害者等の権利の擁護のために必要な援助を行うこと。

これらの法の規定を大切にし、さらにこれらを具体的に障害福祉計画に盛り込むことが、市町村およびその住民の責務なのである。特に、『自立した日常生活または社会生活』としているが、このように社会生活を定めていることに十分に留意しなければならない。市町村の責務についての具体的な規定、また社会生活の支援については、介護保険法には規定が無い。そのため、常にこのような原点に立ち返って市町村の責務が明示されていることを肝に銘じなければならない。でなければ、次回の見直し時には介護保険に飲み込まれる命運となるであろう。

(2)サービス水準・内容について

ここでは、自立支援給付のうちの行動援護と重度障害者包括支援についてと、地域生活支援事業の必須事業に限って若干の検討をする。

1.行動援護について

これまで積極的な市町村では、移動介護ということで、幅広いしょうがい者(児)のさまざまなニーズに対応してきた。しかし、自立支援法では、知的・精神、常時介護を要する者、区分3以上で行動関連項目10点以上ということとなった。このため、従来の移動介護の対象者でも行動援護に移行できない事例が生じている。区分3以上というのは、相当に制限的で、しかも行動関連項目10点以上というのは、相当な行動障害が必要とされる。抗精神薬などの服薬も、十分に把握されなければならない。障害認定調査会では、しょうがい者の生活実態や生活の困難さをはじめ、社会生活の必要性に熟知して柔軟な認定をしなければならない。もし、この行動援護が受けられない場合は、後述の地域生活支援事業の移動支援事業を受けられるようにしなければならない。1日5時間までという利用時間制限も問題がある。

2.重度障害者包括支援について

対象者は常時介護が著しく高い者で、区分6以上、意思疎通に著しい困難を有する者で、四肢すべてにマヒがあり、寝たきり状態のしょうがい者としている。気管切開による人工呼吸器を装着している身体しょうがい者、行動関連項目15点以上などが具体的な対象者である。この部分は、介護保険に統合されたとしても、残されるべきものである。このような最重度しょうがい者に対し、大都市部では最大で月に500~600時間の支援費が認定されていたにもかかわらず、06年度の国庫負担基準額は45,500単位にとどまっている。時間数に割り返すと、120時間程度となる。

この程度のサービス水準では、大都市部で地域生活をしている人たちのサービス水準が大幅にダウンし、生命の維持も困難になることが予想される。当面はサービス水準を下げないという国会答弁もあり、経過措置としてかろうじて現状が維持できていると予想するが、やがて国庫負担金の清算基準目指してサービスの切り下げが起きるであろう。確かに、全国平均では、大都市部を除けば家族介護でこれらの方の生活を支えているのが実態であり、極めて低い利用実態(月額平均216,940円)ではある。

3.地域生活支援事業について

この補助金は、国ベースで06年度(6か月分)200億円、07年度400億円と低額にとどまっており、市町村として十分な事業展開をすることが財政的にも難しい状況にある。

この地域生活支援事業の必須事業には、相談支援事業、コミュニケーション支援事業、日常生活用具給付事業、移動支援事業、地域活動支援事業がある。これらはいずれもきちんとした運営費が確保できるようにしなければならないものである。

この中で、特に相談支援事業は、先に市町村の責務の項目でも見たとおり、極めて重要である。できるだけ市町村の直営で体制を構築することを期待するとともに、仮に委託した場合でも市町村には最終的な責務があること、その責任と義務を逃れることはできないことを指摘しておく。

この事業はすでに一般財源化されており、06年度の地方交付税の算定基準は、1,049万1千円である。また、相談支援事業の強化事業分は補助対象とはなるものの、もともと補助額が不十分なので、市町村の財源において相談事業を確立するというルールを徹底しなければならない。

(3)市町村に対する取り組みについて

現在策定中の市町村障害福祉計画は、さまざまなところで不十分さが残っていると予想される。従って、さまざまな機会を通して自治体への取り組みが必要である。当面、2月から3月開催の自治体定例議会における取り組みが極めて重要なことも、指摘したい。

このほか、しょうがい当事者や関係者、住民などが地方自治の主体者として、幅広くさまざまな取り組みをしていかなければならない。しょうがい者の生活実態調査や、それに基づく事例検討などがまず必要である。そのうえで、科学的根拠のある具体的な資料に基づき、自治体へ働きかけることが重要である。

埼玉県障害者協議会は、07年1月11日に県民集会を開催し、アピールを採択した。その内容は、現時点における障害者自立支援法の課題を鋭く突いている(詳しいことは同協議会へTEL048―825―0707)。同協議会は県内のほとんどの障害者団体が参加し、また県の社会保障推進協議会も加わっている。県社会保障推進協議会は毎年県内の市町村を対象に『自治体キャラバン』を実施し、高齢者・しょうがい者・子ども家庭支援などについて懇談し、詳細な報告書も作成している。これら埼玉県などの取り組みも参考にして、全国各地での取り組みが強化されることを期待したい。

最後に、しょうがい者には低所得者が多いのが実態であるので、生活保護制度を受けやすくすること、さもなくば生活保護を受けないですむための利用料軽減措置も使いやすい制度にすることも、市町村に求めたい。特に、生活保護受給申請ではないのに、利用料軽減時において、生活保護申請時と同様の預貯金等の調査をする必要性が無いことを強調しておく。

(いしかわみつる 日本福祉大学教授)