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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年2月号

ブックガイド

特別支援教育に関するおすすめの本

榊原剛

教育の世界において「個を尊重する」というのは、もはや手垢のついた言い回しです。

障害の程度等に応じて特別の場で指導を行う「特殊教育」から、障害のある子ども一人ひとりの教育的ニーズに応じて支援を行う「特別支援教育」への転換を図る教育行政改革についても、その思想の根幹にあるのは「個の尊重」です。ところが、この「個の尊重」にオブラートされながら、今日では子どもを障害種別でカテゴライズする考え方がまかり通り、LD、ADHD、高機能自閉症等に関する指導論が花盛りです。

“「じゃ、個性ってなんですか。史麻さんが考える個性って」/島尾先生は憤然となる。/「誰にもわからへんもんや」/コップに残った焼酎を、史麻さんは一気で飲み干した。/「誰にも予測のつかへんもんが個性なんや。そやから人間はすごいものなんやとおれは思うで」/島尾先生は史麻さんの顔を見た。/「これだけのことをしたら、こう変わったというのは個性といわへんのや。学校の先生はそこを錯覚するのとちゃうか」/「……」/「人間を手の内に入れたらあかん。人を傷つけるだけや」”(灰谷健次郎「海の図」より)

どんな子どもに対しても、基本的な教育のあり方、教育者の姿勢は変わらない(変わってはいけない)はずです。

ここでは、特別支援教育についての理解を深めながらそのことに気付かせてくれる良書を紹介します。

「特別支援教育への扉」(鈴木陽子・井坂行男・東風安生編著/2004/八千代出版/2,500円+税)

本書は、特別支援教育の実践現場を目指す学生用の教科書として書かれています。特殊教育から特別支援教育への移行に関する背景から始まり、障害種別ごとの内容や課題が概論され、医療・労働・福祉分野との関連についても理解を深めることができます。

さらに本書の特長は、才能児の教育、帰国児童生徒・在日外国人児童生徒の教育、矯正教育についても触れられている点です。

「特別支援教育の授業づくり―より良い授業を求めて―」(冨永光昭/2006/ミネルヴァ書房/2,200円+税)

特別支援教育を担う教師の今日的課題は、細分化しつつ拡大した障害概念に対応する授業づくりの力を身に付けることです。特別なニーズをもつ子どもたちの授業において必要なポイントを押さえるなかで、日々取り組んでいる「授業」を再検討する必要があるといえるでしょう。

本書は、授業づくりに関する理論と、具体的な授業分析研究の内容がまとめられています。「授業」の質的向上を図るための参考書となるでしょう。

「障害児授業実践の教授学的研究」(湯浅恭正/2006/大学教育出版/4,600円+税)

本書は、前項の内容をより専門的・理論的に解釈したい方におすすめです。「教えること」と「学ぶこと」の相互関係を探求する「教授学」の理論から、障害児教育の授業実践を論究しています。

また、本書は、障害児教育の授業実践の視点から、通常学級・学校の授業実践をも問い返します。教師・子ども・学習内容の相乗効果としての授業成立過程や、授業づくりにおける集団の意義を考察しながら、授業実践を理論化する方向性を示します。

「子どもの発達支援―障害児教育のフィールドワーク―」(山口勝弘・古屋義博編/2002/啓明出版/1,787円税込)

障害のある子どもたちの発達支援のためには、多様なアプローチが必要になってくることは言うまでもありません。本書は、障害児教育の入門書としての性格を持ちつつも単なる概説的内容にとどまらず、著者らの専門領域での実践を踏まえた専門的内容にまで踏み込んでいます。

「第3部 障害児教育のさまざまな視点」は、種々の現場での実践における具体的指針を明示してくれます。また、「第1部 障害児教育という世界の魅力」と「第2部 障害児教育を科学する」は、障害児教育を学び始めた方/学んでいる方へ、その世界の深淵をのぞかせながら、掘り下げるためのツールを与えてくれます。

「はじめて学ぶヴィゴツキー心理学―その生き方と子ども研究 フォーラム21」(明神もと子編/2003/新読書社/1,000円+税)

早世でありながらもその非凡さから数多くの研究を残し、「心理学のモーツァルト」と呼ばれたヴィゴツキーは、障害児教育に関しても極めて示唆に富んだ思想を残しました。しかし、その内容ははなはだ難解で、理解することは容易ではありません。

本書は、これからヴィゴツキーを学んでいこうとする学生や、子どもに関心を持つ大人のためのヴィゴツキー入門書です。発達心理学と教育学のふたつの立場から、ヴィゴツキーの思想と人柄が平易に書かれています。

(さかきばらたけし 帝京学園短期大学専任講師)