音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年2月号

列島縦断ネットワーキング【岡山】

岡山県精神保健福祉センターにおける新たな取り組み
―ACTおかやま―

藤田大輔・西川里美

はじめに

精神障害者への精神保健福祉施策は、現在まで、地域というより精神科病院での入院を中心としたものであったように思われます。

欧米では、1970年代頃より脱施設化の流れに伴い、精神障害者を地域でケアするシステムの必要性をより積極的に意識するようになってきました。まず、取り組まれたのは、それぞれの機関で提供されていたサービスを統合するシステム……つまり、ケアマネジメントでした。しかし、当初のケアマネジメントというシステムも、重度の精神障害者に対しての効果としては低いものでした。

そのような背景から、重度の精神障害者に対するケアマネジメントとして、Assertive Community Treatment:ACTが行われるようになってきました。日本においても、徐々に各地で同様の試みが始まっています。本稿では、岡山県でも実践しているACTおかやま事業について紹介します。

なぜ公的機関でACTが?

岡山においても、思いを持った個人、各関係機関で地域精神保健福祉の先進的な取り組みがなされていましたが、基本的には、医療・入院中心であったように思われます。そのような背景の中、岡山県においては、平成15年10月の精神保健福祉審議会において県立精神保健福祉施設のあり方について検討する中で、「複雑困難事例への対応や入院患者の退院促進を推進するため、精神保健福祉センターが地域で医療や福祉サービスを提供する包括的地域生活支援プログラム(ACT)を実施する」と意見具申されました。その意見具申に基づき、翌平成16年度の準備期間を経て、平成17年度よりACTおかやま事業が開始されました。岡山県精神保健福祉センター内にACTおかやまチームを設置し、県独自で実施しています。

ACTおかやま事業について

ACTおかやまでは、対象者を重度の精神障害者としていますが、重度の意味するものを「孤立」と定義しました。つまり、社会から孤立すれば「ひきこもり」でしょうし、医療から孤立すれば「治療中断」となるでしょう。

そのような対象者に対し、私たちが大切にしている理念は、その方は地域で生活をしている生活者であり、その方が夢や希望を持って暮らしていけるよう関わることです。この安心を提供することを目的に、精神保健福祉士、作業療法士、看護師(保健師)、臨床心理士、医師などの専門職スタッフでチームを構成し、ケアマネジメントの手法を用いて関わっています。

その主な内容は、1.地域生活を送るうえでのさまざまな危機への介入、2.精神科病院での退院促進などです。これらのサービスを、訪問活動を中心に提供しています。私たちは公的機関でもあるため、連携機関は多岐にわたり保健所、市町村、地域活動支援センター、精神科病院などです。

ACTを実践して

ACTチームの中の、一人の精神科医として感じることを述べます。ACTというシステムがあることで、今まではその方が希望する自宅での生活の継続が困難であった、重度の精神障害者を明らかに支えることができることを実感しています。

特筆すべきことは、ACTは医療をチーム内に持ちながら、その医療を前面に出さずに後方にスタンバイさせることです。そこで、チーム内の多職種スタッフによる生活支援を、必要なときに、必要な場所で、提供します。つまり、地域で生活している状況で突然医療が必要な状況になるのではなく、それ以前に日常生活上の危機の段階があり、その段階で相談ができない等の理由で状況が悪化し、医療が必要な状況になるように思われます。

よって、私たちは医療の出番の前に、タイムリーに相談その他の生活支援を提供することを大切にしています。これを実現することにより、従来の医療(主に薬物調整など)への依存を低下させることが可能と思われます。その時、私たちには自由な発想とアレンジ、そしてそのアイデアをタイムリーに、関わりとして行動に移していくという意識が必要です。

しかし、公的機関の中でこの自由な発想をもとに、行動に移していくことの難しさも実感しています。ACTおかやまチームが設置されている精神保健福祉センターは、従来より訪問を大切にした活動を行っていた経緯もあり、その独特な文化の中で現在私たちは、公的機関としてはユニークな関わりが可能となっているように思います。

課題及び今後について

今まで述べてきたように、地域においてさまざまな理由で孤立する重度の精神障害者に対し、ACTという新しいシステムは、とても効果があります。しかし、岡山においても今まで存在しなかったACTという社会資源が、既存の地域精神保健福祉システムの中に何らかの形で位置づけられることにより、さまざまな方面での混乱を招いているのも事実です。

まず、そのサービスの利用者とご家族です。今まで、このようなサービスを受けたことがないため利用者もご家族も混乱します。そして、ACTチーム内での混乱です。これは、各スタッフは医療機関等での連携チームの経験はあっても、ACTのように、常に多職種スタッフが行動を共にしながら利用者への支援を実践する経験がないため、主に職種間での混乱が生じます。最後に混乱するのが、今まで存在しなかったACTチームが活動する場である地域です。

この混乱は、時にアレルギー反応とも呼べるかもしれません。たとえば、私たちが非常に大切にしているご本人のニーズに基づいた柔軟な関わりは、時として、従来の保健所等の公的機関にとっては理解しがたく、連携しにくい状況となることもあります。また、地域における危機介入事例では、ご本人が希望する自宅での生活継続のため頻回な訪問を実施しました。効果も徐々に認められましたが、家族から言われた言葉が、「今までならすぐ入院していて良かったのに…」でした。

私たちは、まるで悪いことでもしているかのように悩まされることがあります。そうです、ご家族はご本人が良くなっていく経過を見たことがなく、従来その間は精神科病院に入院していたのです。私たちが関わることによって、不安定な状況でも自宅にいることが可能となり、ご家族はその状況を目の当たりにすることになったのです。

ここで、私たちが忘れてはならないことは、今現在、ACTのような関わりが当たり前になっている欧米においても、実践し始めた頃は同じような混乱があったということです。

現在、日本でも精神障害者に対する施策として、入院から地域という大きな流れにあると思われます。よって、現在私たちが経験している混乱は、その大きな流れを実現させるために避けて通るわけにはいかない道だと思います。そして、今私たちが歩んでいる道も間違っていないということを、日々の実践の中で感じています。さまざまな障害者の方が、まずは地域で暮らしていることが、すべての出発点であることを感じざるを得ません。

(ふじただいすけ 岡山県精神保健福祉センター、にしかわさとみ 岡山県保健福祉部健康対策課精神保健福祉班)

●岡山県精神保健福祉センター
〒703―8278
岡山市古京町1―1―10 岡山県衛生会館1F
TEL 086―272―8835
FAX 086―272―8881