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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年3月号

予算の概要を見て

障害者の地域生活確立に向け、一からの見直しを

尾上浩二

■深刻な法律施行の影響と「緊急避難」

「自立支援法」成立から1年となる2006年10月31日に、「出直してよ!障害者自立支援法」の声が日比谷公園一帯に響きわたった。1万5千人に及ぶ障害当事者、家族、関係者が10.31大フォーラムに結集した。この大フォーラムと相前後して与党での見直し作業が始まった。12月6日には衆議院の厚生労働委員会では「自立支援法」に関する参考人質疑が行われた。

そうした動きを受けて、政府の見直し案が12月26日の障害保健福祉課長会議で発表された。補正予算や2007年度予算が確定してから、さらに詳細が検討されることになろうが、現時点で明らかになっているのは、次の3点である。

  1. 利用者負担の更なる軽減として、世帯収入で決まる負担上限額を現行の2分の1から4分の1にする。当初伝えられていた現行の社会福祉法人減免の拡大ではなく、負担上限額の引き下げになるので、NPO法人の利用者等も対象になる。
  2. 事業者に対する激変緩和として、通所事業等で日割り方式の変更等で大きな影響が出ていることに対して、従前額の90%保障や送迎加算等を行う。
  3. 新法への移行等のための緊急的な経過措置として、作業所助成制度(110万円)、デイサービスや精神障害者地域生活支援センターの経過期間を延長(2008年度まで)、地域移行の推進や重度訪問介護等の在宅障害者地域生活支援基盤整備等の事業を行う。

全面施行からわずか2か月での見直し自体が異例であり、同法の施行による影響がいかに深刻であるかを物語っている。

私たちDPI日本会議が行った調査(2006年6月)でも、回答者481人のうち、生活費を削った人が4割近く、預貯金を切り崩した人が4分の1近くにのぼっている。そのため、実際にサービスを減らしたり今後やめることを検討している人が延べ2割以上との結果も出ていた。特に、この調査では全身性障害や知的障害があり、地域で暮らしている重度障害者から多くの回答を得たが、それぞれ上限額一杯の負担増となった人が最多を占め、やはり、障害が重いほど負担が重くなっている実態が浮き彫りになった(詳しくは、DPI日本会議のWebsiteをご覧ください。http://www.dpi-japan.org)。

そうした状況からすれば、今回の見直しは、さしあたっての「緊急避難」ということだろう。特に、障害者の地域生活に関連しては、利用者負担の見直しが旧来の社会福祉法人減免の拡大という点にとどまるか、NPO法人も含めたものになるかは一つの論点であった(重度障害者向けの介護サービスや移動支援はNPO法人が担っている場合が多いので、社会福祉法人減免の拡大ではカバーできないため)。

■「私たち抜きに私たちのことを決めないで!」の声に応えた検討を

しかし、影響の深刻さ故の「緊急避難」とは言うものの、障害が重度であるほど重くなる負担構造や重度障害者の長時間介護、移動介護の地域生活支援事業化の問題等は、今回の見直しだけでは解決しない。昨年10月の全面施行に伴って、サービスが引き下げられ、トイレや水分補給を減らす、外出を減らす、体調が悪くなったなどの影響が出ている。こうしたサービスの支給決定や移動支援事業の後退の問題は残ったままである。

各種の調査を見ても、入所施設系、通所施設系、在宅サービス系の中でも、特に、サービス抑制の影響が大きく出ているのが介護など在宅サービス系である。ところが、今回の見直しでは、その在宅サービス系に対して十分な対応がなされていない。また、ケアホームの入居者はホームヘルプ利用が認められなくなり、重度障害者の支援を困難にしているが、これも未解決だ。これらは、同法のうたい文句である「障害者が普通に暮らせる地域社会に」とも大きく矛盾したものと言わざるを得ない。

さらに、「ピアサポート強化事業」という名称の事業があるが、「パソコン教室等の設備費」という名目であり、本来必要な人的支援部分への制度ではない。

このように、見直しで積み残された点にこそ、今後の課題が示されているともいえる。障害者の地域生活実現を真正面に据えた、根本からの制度見直しが必要だ。

同法の制定段階では、「持続可能な制度」ということが繰り返されたが、やはり、障害者の生活やサービスが持続できない制度設計に問題があったと言わなければならない。あらためて、障害者の生活実態やこれまでの施策の歴史を踏まえた、一からの制度設計が求められる。国連で障害者権利条約が採択され、国内履行が課題になる今、そうした国際的な議論の水準にも照らし合わせた施策の確立が喫緊の課題だ。国連の権利条約の検討の際には、「私たち抜きに私たちのことを決めないで!」が世界の障害者の合言葉になった。そのことを踏まえた丁寧な議論と今後の検討を期待したい。

(おのうえこうじ DPI日本会議事務局長)