音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年3月号

予算の概要を見て

平成19年度バラマキ立ち止まり予算

戸枝陽基

■せっかくの貴重な予算が……

「本当に、この国は急には変われないのねぇ。」

落胆のため息とともに、「平成19年度障害保健福祉関係予算」及び「障害者自立支援円滑施行特別対策」を見た。

もちろん、障害者自立支援法の財源の弱さを補うために1200億円もの追加措置をした政府与党、並びに厚生労働省関係者のご尽力には素直にお礼を述べたい。とりわけ、昨年の郵政解散後の与党・連立政権合意に障害者自立支援法の財源補填を位置づけ、特別対策への道を開いてくれた公明党関係者への感謝の念を強くしている。

それにしても。せっかくの大切なお金の使い道がおかしい。まったくおかしいと思う。

■本当に、障害者自立支援法を推進していく気があるのか?

どうして、障害者自立支援法における新しい施設体系に対応しない事業所に、「事業運営円滑化事業」の名のもとに、日割り報酬の導入や障害程度区分による判定に基づいた報酬単価設定の導入による減収分を9割補填したのだろう。これでは、「頑張らずに立ち止まっていても経営的に行き詰らないし、国もこっちが困れば何とかするし」という誤ったメッセージが事業者に届く。

そんな金があるのなら、新しい施設体系に行った事業所にガッチリ報酬をつけて、そちらに行った事業所はきちんと護られるということにすればいいのに。だって、障害者自立支援法を推進するための予算なのでしょう?

そうやって、少しでも多くの事業者が新しい施設体系に行かないようにして平成21年の制度見直しを迎え、「残り2年ですべての施設が新しい施設体系に対応するなんて無理じゃねぇか!」と騒いで、古い施設体系も残れるようにするか、少なくとも経過措置を伸ばそうとしている輩に塩を送ってどうするのですか?

新しい施設体系に行き、実践を通して障害者自立支援法を推進する立場の事業者にこそ、インセンティブが働くようにお金と知恵を使ってほしいと強く願う。

■ほしいのは金なのか? 地域生活を支える社会資源なのか?

利用者負担の減免措置にも意義あり。確かに一部、利用者負担が現行の減免措置では厳しい人がいたことは理解しているし、それが今回の特別対策で改善されたことは喜ばしい。

しかし、全世帯の1/4が貯蓄のない状況になっているこの世の中で、一層の資産要件の緩和など必要だろうか。こんなことを書くと怒り出す障害のある方の家族がたくさんいると思うが、一般の方の中に、「障害のある方がいる世帯は、みんなそんなに貯蓄があるのか?」と言い出している方がいることを知ってほしい。

もともと障害者年金は税金なのだから、使わないなら国庫に返して、必要なことに使ってもらうという考えもあってもいいのではないか。国庫に返した後の使い道がいいものになるかどうか信じられない、障害のある方の人生がきちんと最期まで見通せない現状では酷な話だろうか。

さらに言うと、本当にほしいのはお金なのか、そこを今一度世に問いたい。今一番必要なものは、「障害があっても親亡き後も含めて人間らしく最期まで住みたい場所で愛する人と暮らし続けることができる社会資源」ではないだろうか?

そうだとしたときに、それぞれに細切れに特別対策の大切なお金を配ってしまうのではなくて、地域生活のための社会資源整備にこそしっかりとお金を使ってほしいと強く願う。ばら撒いたお金で、いったいいくつのグループホーム・ケアホームが整備できただろうか?ホームヘルパーが雇用されただろうか?

当事者団体の、とりわけ親の会や家族会の運動方針を再考してもらえないだろうか。

■平成21年までに、相談支援と地域自立支援協議会をきちんと整備すること

その他にも、110万円の小規模作業所等への補助を復活させたために、せっかく法人格を取得し、事業所として前進しようとしていた所がその歩みを止めてしまったりしている。本当にこの「バラマキ立ち止まり予算」での障害者自立支援法へのブレーキ効果は情けないくらい強烈だ。

もはや可能性のかけらもない平成21年に介護保険制度と統合されるかも知れないのでそれまでは様子を見るべきだという、まことしやかなデマとともに、新しいサービス体系での障害者自立支援法は、事業者がまったく動かないことで少なくとも平成21年までは始まらないだろう。

そうだとして、それまでの時間は、各都道府県、市区町村単位の相談支援体制と地域自立支援協議会の整備をきちんとしたい。それに連動する障害福祉計画をきちんと動かすことでの障害のある方が地域で暮らすための社会基盤整備も大切だ。

都道府県ごとにきちんとスーパーバイザーを置き、そこからの指示で保健福祉圏域ごとにアドバイザーが動き回り、市区町村の相談支援センターや就労・生活支援センター、発達障害などの各相談支援事業とネットワークする体制をきちんと構築したい。平成21年以降の障害者自立支援法が仕組みとして動き出した時にきちんと備えたい。

そのために使えるさまざまな予算が含まれていることが、この「バラマキ立ち止まり予算」というパンドラの箱の底に入っている最後の希望だと思う。

(とえだひろもと 社会福祉法人むそう)