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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年4月号

海外の状況

フランスの新しい障害者所得保障政策
―2005年法のシステム―

大曽根寛

2005年の障害者権利法

フランスでは、2005年2月、“障害のある人々の権利と機会の平等、参加および市民権に関する2005年2月11日付け法律”という画期的な法律が制定されました。これは、「障害者基本法」(1975年6月30日)に全面的に取って代わるものであり、2000年代に入ってからの、国連における障害者権利条約の採択など国際的な動向やEUの差別禁止政策の動向とも関連したものとなっています。

実は、この法律は、二つの原理に基づきながら、両者を調整しつつ成り立っています。

第一は、障害をもっているという状況ゆえに、この分野に限定した給付金や介護措置、補償的解決策あるいは特殊手当の支給等を「必要」(besoins)とする人々のために、連帯の原則を適用し保障することです。「必要」の原理ともいえます。

第二は、通常の生活の場に参加が可能な人すべての自立を促すこと。そのために、自立の妨げとなる障害物を排除・減少させ、各人の潜在的価値をより高め、差別に対する闘いという原理を実効あるものにすることです。

このために、この法律は、八つの柱から構成されています。1.総則、2.予防・研究・ケア、3.補償と財源、4.アクセシビリティー、5.障害者の「必要」の評価と権利の確認、6.市民権および社会生活への参加、7.諸規定、8.経過措置です。このうち本稿で扱うのは、第三の「補償と財源」の部分です。

新しい障害者所得保障施策

この法律によって、新たに多分野の専門家チームの活動を統括する“県障害者センター”が設置され、「アセスメント」(障害評価)の仕組みが改善されることとなりました。これらのセンターは、この任務に加え、給付の認定、障害のある人々の受け入れ方法についての助言、進路指導といった業務も担当します。

従来のCDES(障害児委員会)とCOTOREP(成人障害者委員会)は廃止され、県障害者センターは、前述の委員会に代わる“権利と自立のための委員会”の本部ともなり、特に、この法律によって設立された新たな権利(主に補償給付金)をはじめとするすべての給付金の権利について、その意見を表明することができるのです。これらのセンターは、県、国、社会保障機関との間の協議で、公益団体の形で組織化されることになります。

この法律はまた、2004年6月30日付け法律によって創設された“自立のための国民連帯公庫”を明確に位置づけ、政策の中心部分を整えています。

すなわち、国民連帯公庫の主な任務は、各県の間に予算を配分し、各県のセンター間の経験および情報交換を円滑に行わせ、補償給付の申請に対する処理の公正さを監視することです。

所得保障における「補償」(compensation)の概念

さらにこの法律は、障害のある人々に人生の計画についての選択の自由を保障するために、一方では障害の影響に対する補償、もう一方では労働あるいは国民連帯制度から得られる生存の手段について次のように区別しています。

第一に、個人別の障害への「補償」の権利については、特に「障害に係る特別の追加費用に対する補償給付金」(障害を原因とする特別の出費がキー概念)が設定されたことによって、この法律の中に、その定義と具体的な給付方法が規定されることとなりました。

この給付金は、県障害者センターの多分野専門家チームによる個人別の「障害補償計画」の枠内で、各人の「必要」性に応じて決定されることとなります。この給付金は、人的および技術的援助、動物を介して行われる援助、住居および乗用車の整備に関する援助等の費用の支払いに対して認められます。また、身体障害関連製品の購入やそのメンテナンスに関するもののような、特殊・例外的援助にも支給が可能になることでしょう。この給付金は受益者本人の選択に従い、「現物給付」あるいは「現金給付」で支給されます。当給付金の実施は2006年1月1日から開始され、権利と自立のための委員会がこれを決定し、県によって支払われることになります。子どもと成人それぞれの補償給付金に関する措置についての年齢による区別をなくすための調整(年齢の壁の撤廃)は、数年内に行われます。

第二に、1975年から続いてきた「成人障害者手当」(AAH)の改革が行われました。これによって、働くことが可能で、場合によっては最低所得保障(国家による最低賃金までの所得補填(ほてん))を得ることができるような障害者については、経済活動収入とのより柔軟で合理的な二重取得(職業収入+所得補填)が可能となりました。さらに、独立した居住環境で自立して生きるために「必要」な収入が職業活動によっては得られないという人々に対しては、自立生活のための増額支給、これらが可能になるはずです。

まとめ

この法律が制定されたことにより、2005年には並外れて大量の作業が行われました。その中でも、県障害者センター、新たに設置された権利と自立のための委員会、障害の評価手段、新たな権利についての認定基準、これらはとりわけその実施に期待がかかっています。障害のある人々に対する自立サービスの新たな手段である補償給付金も、国土全体にわたって公平な条件で姿を現すこととなるでしょう。

(おおそねひろし 放送大学)