「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年4月号
所得保障政策への提言
日本障害者協議会障害者生活実態調査(JD調査2006)から
障害者の自立と所得保障について
菊池江美子
障害者自立支援法による障害者の生活への影響(医療・福祉サービスの利用状況、応益負担による生活費等の経済状況、社会参加の状況などの変化・影響)を明らかにするため、日本障害者協議会(JD)では、「障害者生活実態調査」(JD調査2006)を行っている。同一障害者に対し、3時点(法施行前の2006年2月、1割負担・日割り制等導入後の2006年7月、障害程度区分・新事業体系施行後の2006年11月)での追跡調査という形式を取り、現在では、第2回調査(2006年7月時点)までを終了している。本稿では、得られた調査結果(第2回調査回答者414人のデータを中心に)を用いながら、障害者の自立に必要な「所得保障」についての検討を試みたい。
1 調査結果から負担増による影響(概要)について
(1)調査対象者の主な障害
精神障害113人(27.8%)、肢体障害111人(27.3%)、知的障害71人(17.5%)、内部障害22人(5.4%)、聴覚障害20人(4.9%)、発達障害20人(4.9%)、視覚障害18人(4.4%)、難病17人(3.6%)、言語障害2人(0.5%)など。重複障害を有している人は144人(34.8%)。
(2)費用負担の変化(第1回調査と第2回調査の負担額の差)とその影響
自立支援医療の利用者144人(37.4%)のうち、約7割(104人)が精神障害者(精神科の通院医療利用者)。通所・入所・居宅等の各福祉サービス利用者は282人(68.1%)。以上の延べ利用者426人の費用負担の変化は、自立支援医療では45.5%、福祉サービスでは66.6%の利用者に負担増が見られた。利用者一人において、自立支援医療では約2,500円、福祉サービスでは約7,600円が負担増の平均額であった。特に顕著であったのは、入所施設利用者で、平均で1人15,540円もの負担増があった。
負担増へは、「住民票・外国人登録票を家族と別にした」(23.5%)、「預貯金を減らした」(31.2%)、「家族の経済的負担が増えた」(33.2%)などで対処し、現状ではサービス利用を極力継続させている様子がうかがわれた(6.9%が医療サービスの利用を減らし、8.3%が福祉サービスの利用を減らし、1.4%が利用を止めている)。
(3)調査対象者の経済状況
収入の種類(表1):どの障害分野も収入源の1位は障害年金、2位は勤労収入(福祉的就労によるものも含む)。勤労収入は月額3万円未満が67%(140人)を占めた。その他障害別の特徴では、生活保護は精神障害に多く(15人)、福祉手当は肢体障害に多く(24人)見られた。
表1 収入の種類と平均額
収入の種類 | ありと回答した人数 | 平均額 |
---|---|---|
勤労収入 | 200人(48.3%) | 38,268円 |
障害年金 | 309人(74.6%) | 76,329円 |
他の年金 | 17人(4.1%) | 120,375円 |
生活保護 | 25人(6.0%) | 87,591円 |
手当 | 57人(13.8%) | 36,967円 |
その他 | 43人(10.4%) | 55,136円 |
合計 | 414人(100%) |
月収額状況(表2):いずれの障害でも月収額には格差が見られたが、月収額の平均は107,782円で、全体の約6割が平均月収額以下であった。
表2 月収入額(収入合計額)分布
収入額分布 | 回答者数 | 累積 |
---|---|---|
0円~1万円未満 | 14人(3.9%) | |
1万円~5万円未満 | 19人(5.3%) | 33人(9.2%) |
5万円~7万円未満 | 62人(17.3%) | 95人(26.5%) |
7万円~9万円未満 | 82人(22.8%) | 177人(49.3%) |
9万円~10万円未満 | 27人(7.5%) | 204人(56.8%) |
10万円~12万円未満 | 49人(13.6%) | 253人(70.4%) |
12万円~15万円未満 | 35人(9.7%) | 288人(80.1%) |
15万円~20万円未満 | 43人(12.0%) | 331人(92.1%) |
20万円以上 | 28人(7.8%) | 359人(100%) |
障害種別比較(表3):まとまった回答者数が得られた肢体不自由と知的障害と精神障害で、勤労収入額と月収額を比較。知的障害と精神障害の勤労収入の平均額は、全体の平均額よりも下回っている(精神障害は半額以下)。また、精神障害は(どちらも)低い平均額のうえに月収に占める勤労収入の割合も低い。就労においても、その他の収入を得る手段(所得保障)においても、より困難な背景があることを意味している。
表3 勤労収入(月額)と月収額の平均 3障害での比較
勤労収入平均額(a) | 月収平均額(b) | aのbに占める割合 | |
---|---|---|---|
肢体不自由 | 38,026円(61人) | 108,575円(98人) | 35.0% |
知的障害 | 23,338円(47人) | 100,812円(60人) | 23.2% |
精神障害 | 17,894円(43人) | 98,217円(106人) | 18.2% |
( )内は、金額について回答があった人数
自由に使えるお金(表4):生活するための必要経費(食費・水光熱費・家賃・医療保険料・医療や福祉サービス利用料)を差し引いて手元に残る金額について。半数近くが月額2万円未満であり、マイナスや0円という回答があることは看過できない実態を示している。
表4 自由に使えるお金 月額分布
金額区分 | 回答者数 | 累計 |
---|---|---|
マイナスになる | 7人(2.1%) | |
0円 | 63人(19.0%) | 70人(21.1%) |
1万円~1万円未満 | 31人(9.4%) | 101人(30.5%) |
1万円~2万円未満 | 50人(15.1%) | 151人(45.6%) |
2万円~3万円未満 | 70人(21.1%) | 221人(66.7%) |
3万円~5万円未満 | 62人(18.7%) | 283人(85.4%) |
5万円以上 | 48人(14.5%) | 331人(100%) |
以上の調査データから、回答者の多くが、障害者自立支援法の下、費用負担を行いながら、諸サービスの十分な活用が困難な経済状況にあることがわかる。月収額の平均や手元に残るお金の金額からは、月に7,000円程度の応益負担等による負担増は過重なものと察する。さらに、応益負担以外の食費・水光熱費等の実費負担や複数のサービス利用が必要な場合の負担や病状悪化時の入院費もかさむなど、深刻な個々の事情も調査結果には表れている(※)。
2 障害者の「自立」に必要な所得保障について考える
(1)収入と福祉サービス利用の関係(表5)
障害基礎年金も受給できていないと考えられる月収6万円未満の層(無年金もしくは、障害厚生年金3級の最低保障額程度等)は、障害基礎年金受給相当以上の月収層に比べ、福祉サービス利用にかけるコスト(食費などの実費や交通費等を含む)が低く、サービスの利用件数も比較的少ない傾向が読み取れる。必要に応じて福祉サービスを選択し、その必要量も確保しているのではなく、福祉サービスの利用は収入の状況にも左右されているといえる。
表5 月収額と福祉サービス利用状況
月収額区分 | 一人当たりの利用件数(平均) | 一人当たりの利用料自己負担額(平均) |
---|---|---|
6万円未満 | 1.59件 | 21,343円 |
6万円~8万円未満 | 1.51件 | 36,930円 |
8万円~10万円未満 | 1.74件 | 36,770円 |
10万円~15万円未満 | 2.05件 | 35,780円 |
15万円以上 | 1.73件 | 22,158円 |
(2)単身生活と収入額について(表6)
単身生活者と親(両親または父または母)と同居している成人障害者の月収額の比較を行うと、親と同居している障害者の月収額は単身生活者より平均で4.2万円ほど低いことがわかる。「自立」のあり方は固定したものではないが、成人したら当たり前に親の扶養から離れて独立する生活を可能にする「所得保障」について検証していく必要性を強調したい。「自立」を可能にする「所得保障」の水準の検討には、単身生活者の平均月収額(精神障害の場合は低額であるが…)から、14~15万円という金額(単身生活へと踏み切れる金額として)も参考になるのではないだろうか。
表6 単身生活と親と同居の場合の本人の月収額の比率
人数 | 平均月収額 | ||
---|---|---|---|
全体 | 単身生活 | 52人 | 138,866円 |
親と同居 | 101人 | 96,915円 | |
精神障害以外 | 単身生活 | 32人 | 157,720円 |
親と同居 | 72人 | 103,702円 | |
精神障害 | 単身生活 | 20人 | 108,700円 |
親と同居 | 29人 | 80,064円 |
(3)就労と経済的自立について(自立を可能にする所得保障)
月収に占める勤労収入の割合については、回答者の約半数が15%以下で、50%を超えるのは回答者の4分の1であった。これらの結果は、勤労収入のみで経済的自立を実現することの困難さを表している。さらに単身生活者52人で、勤労収入があったのは27人(51.9%)、うち月収の100%を勤労収入で占めていたのは2人のみであった。3人がプラス生活保護、22人がプラス障害年金など、勤労収入を得ても障害年金を中心に他の制度を組み合わせて収入を確保し、単身生活を経済的に成立させている状況がうかがわれた。障害者の経済的自立には、障害年金や生活保護などの所得保障制度活用が不可欠であることを示していると思われる。
3 まとめ-障害者の所得保障を求める取り組みにおいて必要な視点
障害者の経済基盤の保障は、所得保障制度抜きでは成り立たない。「自立」できる経済基盤の保障を求めていくには、無年金障害者問題をはじめ、現行の所得保障制度における諸問題の解決に取り組むことが重要である。そのような諸問題が解決することは、就労支援施策の活性化(障害者の就労促進)につながることになる(安心して“働く”ことにチャレンジできる)。
さらに、「自立」に必要な所得保障の水準(いくら必要なのか)に、障害者運動が客観的(科学的)論拠を持つことが必要である。昨今の経済情勢や社会保障改革などのあり方は、さまざまな形態の社会的弱者(貧困)を生み出している。このような現況の社会に対して、説得力をもてる障害者の所得保障施策の方向性を探ることは急がれる課題である。
(きくちえみこ 日本障害者協議会政策委員)
※「障害者生活実態調査」(JD調査2006)の詳細な報告は、日本障害者協議会HP(http://www.jdnet.gr.jp/)に掲載されています。