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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年4月号

列島縦断ネットワーキング【北海道】

八雲養護学校における重い障害のある子どもたちの就労移行支援
~だれもが参加できる仕事の形を探しています~

田中栄一・元木祐子

ある日常の風景

函館から車で1時間ほど北に移動したところにある北海道八雲養護学校と、隣接する国立病院機構八雲病院では今、“医療と教育の協働”という、新しい風を迎えています。

八雲病院は、全国で27施設ある筋ジストロフィー専門病棟の一つで、現在117人が、生活と勉学を一緒にしながら親元から離れて長期療養生活を送っています。そんな病院の一角。作業療法室を舞台にし、電動車いすに人工呼吸器を乗せて、常時9~12人がさまざまな支援機器を駆使し、就労や学習、作業活動など思い思いの活動に取り組んでいます。部屋の壁には、いろいろなテーマの絵のコンテスト募集や、名刺作成などの仕事依頼のポスターが所狭しと貼られ、よくあるリハビリテーション室や共同作業所とは異なる光景です。

「初めは難しいと思ったが、やっていくと楽しい。そうだな。仕事をしているんだなって思う」。1個のスイッチでパソコンのマウスを操作し、黙々と作業をしている修くんは、今の心境についてそう語っていました。彼は、3個のスイッチで電動車いすを巧みに操り、病室から作業療法室の十数メートルの距離を毎日、午前と午後の1時間ずつ通っています。現在、彼の仕事は出版社の依頼で、自分でも使っている人工呼吸器のマスクのメディカルイラストを写真からおこす作業です。こうしたイラストは、執筆者の意図を的確に伝えやすい利点があります。

彼が仕事に従事するようになったのは、電動車いすの操作が自分では難しくなり、作業療法室に相談に訪れたことがきっかけでした。「ちょっとでもいいから動ければいい」と、余生を静かに過ごすかの様子でしたが、自由に行き来できる手段を手に入れたことで、自分への可能性を感じたようです。ちょうど、仲間がパソコンで仕事をする姿を目の当たりにして興味をもち、困難と感じていたパソコンでの絵の描き方を学習し、今では誇りをもって絵をみてもらえるようになったと話します。

一般に、人工呼吸器を24時間装着していて身の回りのことをすべて介護者に頼らなくてはいけないと聞くと、“寝たきり”で、優しさに守られた介護を受けるという生活のイメージが先行します。しかし、ここではこうした重い障害をもつ方が、「卓上カレンダーって結構、需要があると思うんだけど、どうしたら売れると思う?」などと、精力的に自らの可能性にチャレンジしている風景があります。

卒後支援の形を探して

筋ジストロフィーの中でも代表選手のデュシェンヌ型筋ジストロフィーの医療は、ここ数年で大きく変わろうとしています。3歳ごろから転びやすくなることで気づかれるこの病気は、その後小学校に上るころには、階段の上り下りができなくなり次第に体中の筋肉が壊れていきます。最近では医療の進歩で、20歳を超えての大幅な生命時間の延長が可能となり、高校卒業後の進路指導も現実味を帯びてきました。しかし、運動機能の退行は止まらなく、食事や着替えなどのすべてに介助者を必要とし、かつ知的な障害を併せもつ例も多いことから、多くの卒業生が「何をしてよいかわからない」「どうやって勉強したらいいんだろう?」と、特に就労においては、「僕には無理」「いつまで続けられるか不安」と、自分の可能性を見出せずにいることが少なくありません。せっかくの教育も次に繋がっていくことができない。それでは、もったいないと思いませんか?

2005年秋。“卒業後の生活をスムーズに支援できないか?”と、病院と学校を巻き込む卒後支援の形を探す話し合いが始まりました。しかし、運動・知的機能の障害を併せもつ彼らがどうやってお金の授受に結びつくのだろうか?外部からの「仕事」を前提に考えていた私たちは、彼らの仕事の姿を具体的に想像できずにいました。

コレクトスペースSUNSUNの形

ITの普及は、障害をもつ方の社会参加の機会を増やしましたが、重複障害の方へはその恩恵は少なく、就労活動への大きな壁となっています。卒業生の“つとむくん”もその一人で、漢字や文字理解が困難なため、パソコンへの敷居は高かったようです。彼は、お気に入りのアニメキャラクターの手書き模写を得意としていましたが、最近では思うように鉛筆が使えなくなっていました。そこで、彼が使いやすいパソコン操作の工夫と一緒に、彼に合わせた課題を提示しながらパソコン操作指導に取り組みました。初めは、不安を口にしていましたが、もともと絵が好きだったことと、何度でも描き直しができる道具に興味をもち、作業活動時は目覚ましい集中力をみせ、他ではなかなか真似ができない絵を描き出してきました。

好きなことが仕事に繋がっていく。こうした出来事から就労移行支援では、彼らが価値を発揮しやすい絵やパソコンを活用しての仕事を中心に考えていきました。2006年6月には、これまで描きためた、それぞれの個性が光る作品をアートギャラリーにして、養護学校のWEBページから在校生と卒業生のコラボレーションとして発信していくことになりました。このコンテンツの名前は、いろいろな情報が集まる場所であり、発信していける願いを込め“コレクトスペースSUNSUN”(コレスペ)と、入所者の“きんじくん”がつけてくれました。

コレクトスペースSUNSUNにバトンタッチして

実際に仕事が形になり始めたのは、9月、学校祭のTシャツのデザインを、卒業生に頼んだらどうだろう?との、ちょっとした出来事からでした。それまでは、教員が絵をデザインしていましたが、コンテスト形式にして、いろいろな作品を募集したほうが面白いかも?と話が進み、第1回コレスペコンテストが開催されました。応募は14点とまずまずの出だしで、提案をした教師のほうが、面白さと驚きをもって審査に参加できました。この事をきっかけに、仕事は足元にあって、自分たちで仕事を作ることができる楽しい雰囲気づくりが重要であることを気づかされました。私たち支援者自身が「仕事=金銭の授与」というイメージに縛られすぎていたようです。

就労支援を考えるとき、納期や仕事の責任が前提で話が進められますが、これでは気持ちはあるが、自分の体力に自信がもてずに一歩を踏み出せない人にはますます敷居が高くなるばかりです。そこで、ワークシェアリング!!体力と気持ちに余裕があり「あっ!やってみてもいいかな?」と思えるときに利用する。絵が好きな人、絵は苦手だけど文章を書くのが好きな人だとか、一緒にコラボレーションすることで一つの仕事になる。これが、コレスペが考える仕事のイメージです。

さらなる広がりの中で

病院と学校との協働は、さまざまな仕事を呼び込む一方で、「絵を描いて仕事をしたい」「福祉情報技術コーディネーターの資格を取るために勉強したい」などと、在校生の進路選択に目に見える情報として、さらなる形を生み始めました。特別支援教育や障害者自立支援法を背景に、在校時から卒業後の生活を継ぎ目のないようにシームレスにつむぎ“生涯教育”“生涯発達”として、一人ひとりの“やってみたい”気持ちに寄り添い、チャンスを一緒につかむ支援として、“コレスペ=協働・卒後支援”の合い言葉で進めていきたいと思っています。

コレスペには形がありません。一度訪れてみてください。きっと、自分らしさを見つけられると思います。

(たなかえいいち 国立病院機構八雲病院作業療法士、もときゆうこ 北海道八雲養護学校教諭)

コレクトスペースSUNSUN
http://www.yakumoyougo.hokkaido-c.ed.jp/museum/index.html