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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年5月号

1000字提言

素敵なトイレ、ふしぎなトイレ

糟谷佐紀

トイレは我々の生活に不可欠なものである。水洗トイレ、腰掛トイレ、温水洗浄トイレと目覚しい発展を遂げた日本のトイレは、世界一だと思われる。昔は建築の設計においてトイレは後回しにされることが多かったように思われる。しかし今はトイレの充実度が建物の満足度を左右すると言っても過言ではなく、十分な数とスペース、充実した設備など、丁寧な設計が求められている。日本のトイレがここまで充実してきた背景には、衛生機器メーカーや研究機関の調査、研究によるものが大きい。約40年前に障害者や局部疾患・手術後・産後の患者用に医療・福祉機器として輸入された温水洗浄便器は、今や多くの人にとって不可欠なものとなった。

また多くの障害のある人や高齢者の排泄動作を研究し、さまざまな事例を紹介した設計マニュアルは、設計者にとって大切な資料となっている。しかしマニュアルができるとその通りに設計しておけば十分と思う人が出てしまうのも現状である。個人住宅のように使用者が特定される場合、マニュアル通りではかえって不都合となる場合があることも覚えておかなくてはならない。

トイレの設計はとても奥が深い。基本的機能に加えて、最もプライベートな空間として設計者の手腕が問われる空間でもある。私は初めて訪れる建物や駅舎では必ずと言ってよいほどトイレを見に行く。居心地がよく長居したくなるトイレもあれば、立ち座り時に頭を打つほど狭いトイレ、手すりと干渉して立たないと届かない位置にある紙巻器など不思議なトイレも多い。男性トイレは設計の自由度が高くて面白い。ハエや的のイラストが書かれた小便器を見たことがある。対象を見ると狙いたくなる心理を利用した便器周辺を汚されない工夫である(的は温度で色が変わる特殊なインクが使われている…)。

このような興味が高じて、昨年ある学会のイベントのひとつとして「おもしろ・ふしぎトイレコンテスト」を行った。応募33作品(おもしろ部門16、ふしぎ部門17)の中から各部門の優秀賞を決定した。個室の壁3方が水槽の壁で腰掛けながら本物の魚が泳ぐ様を見られる水族館トイレ、多機能トイレのドアを開けると段差解消機があり、これを使って数10センチメートル上の便器へ向かうという不思議なトイレなどさまざまな作品が寄せられた。今年も同様のコンテストを企画している。これは使えないトイレを批判し改善を促すことも目的のひとつだが、トイレに関心を持つ人を増やしたいというのが最大の目的である。関心が高くなれば、世の中のトイレはもっと良くなるはずである。コンテストに興味のある方は、http://www.resja.gr.jp/sumai-sig/ へ。

(かすやさき 神戸学院大学総合リハビリテーション学部)