音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年7月号

障害児・者と家族の暮らし

瀧澤久美子

1 障害児を育てること

男女が出会い結婚し、子どもが生まれてくる。両親は、健康で五体満足な子どもの誕生を、と願っている。しかし、誕生の時に、また後からでも障害があると分かると、家族はそのことを受け止められない。戸惑い拒否してしまう。不安、失望、落胆など、それはどんな家族でも見せる最初の自然な反応である。結婚、妊娠、子どもの誕生、そこから描く温かい家族像、そうしたイメージの中に障害のある子どもの誕生は想定されなかったもの。両親の前に、突然姿を見せたものなのだ。

両親の戸惑い、不安や拒否には、自然な人間感情から来るものと、また、両親の育った家庭環境、地域社会、受けた教育、そして日本の歴史の中で醸成されてきたさまざまな価値観なども混じり合い、影響しているように思う。

障害がある、と言っても、障害児や障害者という“特別な人”がいるわけではない。一人ひとり顔も違えば家族も違う。特に家族の暮らしは、実に多様である。両親のみの家庭、きょうだいのいる家庭、祖父母のいる家庭、母と子どもだけの一人親家庭もある。そこに見えるのは、かけがえのない関係を持った、ただ一組だけの親子である。

現代は、障害のない子どもでさえ、子育ての難しい時代である。障害の軽重にかかわらず、わが子に障害があると分かった時の家族の衝撃は計り知れないものがある。どう育てていけばいいのか、障害児が生きる世界は、どんな世界なのか、どんな生活が続いていくのか、どんな支援制度があるのだろうか、葛藤と問いが続く。家族は、ここから一歩を歩み出す。

2 女性の社会参加、働く女性の増加
―結婚後に主婦・母親を求められるストレス

豊かに育てられた世代が親になってきている。特に女性は、結婚前に働いていた経験があり、自由な自分自身の時間の中での暮らしの経験もある。それが、障害のある子どもが生まれ、普段の買い物にさえ不自由さを感じる生活に陥った時、大きな孤独感に包まれる。寂しさ、失望、落胆、描いた生活観との落差や苛立ちを述べた人もいる。ストレスから、自己の人生を負の面で見るようになる。また、これから続いていく生活のあれこれを考える。

障害のある子どもの訓練の場や療育の場はあるが、親たちのこうした不安をこそ支える仕組みは、ほとんどないのが実情である。子どもをどうしても受け止められない、そのことが一番辛く、生んだ自分が悪いと責める。この母親たちの感情にしっかり向き合い「辛さを声にしていいんだよ」と受け止め、支えるサポートこそが必要である。母親を孤独にしないこと。

そこで、生活基盤を持ち始めた先輩の母親たちや仲間たちに繋いだり、一人ひとりの母親に必要な支援とは何かを一緒に考えていく人の存在が不可欠である。サービスの提供へと進む前に、母親にじっくり向き合い、耳を傾け、不安を少しずつ取り払っていくことが本当に求められている。

3 親同士の支えあい
―ピアカウンセリング

仲間でなければ支えられないことがある。障害が分かった時期は、子どもへの支援はもちろんのこと、両親への支援はさらに大切である。

仲間の中で、子どもの障害が分かって辛いという気持ちを吐き出していくことが必要だ。母親は障害児を生んだ自分を負の面で引きずり続けている。母親が、そうした自分の障害観から解放されるのには時間がかかる。他の母親の中に自分と共有する感情を見出し、子どもを受け止められないことはだれにでもあるのだということ、一人ではなかったのだということ、そうした共有の感情を得て、子どもに向ける心にも元気を得て、子どもを育て、愛する気持ちを少しずつ育んでいくことで、また次の一歩を進めていく。

この世に生まれ出た幼い生命を守り育ていく力を母親の中に養うこと。そのためには、心の中を語れる安心な場所や仲間や援助者との出会いがこれからの母親の人生を勇気付けていく。

4 私たちが願うふつうの暮らし

平成7年に、横浜障害児を守る連絡協議会(以下、連絡協)が、障害児本人が自分らしく暮らし、家族が家族として当たり前に暮らすために必要な支援を提言することを目的に、生活状況調査を行った。その調査結果は、「私たちが願うふつうの暮らし」としてまとめられ、横浜市をはじめ、関係機関にも配布し、障害児を抱える家族の生活実態に基づいた具体的な支援策の検討に役立てられた。その調査から10年余が経過し、社会状況の変化により、さらには支援費制度の導入や、障害者自立支援法の施行などもあり、福祉サービスも様態が変わってきている。

そうした変化を受け、今年3月、横浜市こども青少年局と連絡協との協働で「障害児と家族の生活状況調査」を行った。その中で「困った時に相談する相手は」という質問の答えとして、生活全般なら、配偶者が46.1%、親の会や訓練会の仲間たち38.0%、身近な情報源は、親の会や訓練会の仲間63.7%で、友人が34.7%だった。親の会や訓練会の仲間たちが非常に大きな役割を担っていることが分かる。感情や想いを共有する仲間たちこそが支えであることを、支援者はしっかりと見据え、親の会への側面的な支援を行っていくことが必要である。

5 家族支援

家族支援ということがよく言われるようになってきた。家族支援というと、単に育てる家族が楽になることと捉えられていないだろうか?家族の中に障害のある子どもが一緒に生活しているから支援するのであり、基本は、障害のある子どもの成長を促すプログラムにある。

重い障害のある子どもは、いつも母親と一緒に行動していて、母親の負担は大きい。前述の調査の中でも母親が負担に思うことの一番に“毎日の送迎”がある。次には、“帰宅後の過ごし方”があった。

図1 主たる介助者である母親が精神的な面について負担に思うこと
図1 主たる介助者である母親が精神的な面について負担に思うこと拡大図・テキスト
「障害児と家族の生活状況調査」より

家族支援、というと、母親からのニーズにより一時ケアをしているところが多いのではないだろうか。それを超えて「本人の大人への助走段階」を支えるプログラムこそ必要である。親から離れての外出や泊まることを可能にする本人参加のプログラムである。たとえば泊まりのキャンプであったり、夏休みを利用して年齢の近い友達と会う機会などをつくることが大切である。家族が楽をする、という発想ではなく、本人が、家族や学校の先生などの限られた人間関係の中だけでなく、他の人と出会う場をつくることが本人の成長にも必要なのである。

親も、子ども中心のプログラムであれば、すべてを抱え込まずにゆとりも生まれる。レスパイトは、障害児・者を抱える家族側への支援であり、親御さんは、きょうだいの授業参観や通院など、緊急時以外の利用には後ろめたさを感じている。年齢の高い障害者と一緒に暮らしている家族ほど利用に尻込みしがちである。障害児・者本人のためのプログラムが増えれば、より積極的に参加できるし、結果的には家族もレスパイトされていく。自立支援法のサービスの中に、子どものための自立支援プログラムをぜひつくっていただきたい。家族にとっての真のニーズとは何かが見えてくるのではないだろうか。

6 最近の相談から
―最近の子どもと家族の変化

社会の変化や子育て環境の変化により、核家族化が一層進み、個人を包み込んでいる家族の力が弱くなってきている。障害児・者の家族もその流れの中にある。最近の特徴をあげてみる。

1.子どもの障害を受けいれるまでの不安な日々にメンタル面の治療を受ける人が多くなっている。

2.夫の暴力、夫とのコミュニケーションで悩む母親が増加している。

3.周囲の人に敏感で情報に振り回される。

4.30代の母親と50~60代の祖母との関係の悪さがここ10年ほど目立つ。自身が虐待を受けてきた母親も相談の中に出てくる。

5.発達障害の子どもでIQは高いのに、過敏すぎる子どもが徐々に増加している。

6.仲間の中で、生活のしんどさを出せずにいる。個別の相談の中でのみ癒される。

7.軽度発達障害の子どもの引きこもりや不登校、暴力など、小学校上級から中学生には、支援の窓口がほとんどない。

8.発達障害の子どもへの告知や本人の戸惑いをどう支えるのか。

9.養護学校の子どもの増加と一般学級での発達障害児が増加している。

10.障害児が2人以上いる家庭が増加している(図2)。

図2 家庭内の障害者のある子どもの人数
図2 家庭内の障害者のある子どもの人拡大図・テキスト
「障害児と家族の生活状況調査」より

11.母親の就労継続希望に対する支援。

12.グループホームの充実、権利擁護と成年後見制度の活用。

7 地域での暮らしを考える

障害者自立支援法が施行され、少しずつ民間サービスが増えてきている。幼児・学齢期は子どものニーズより、家族からのニーズが前面に出る。家族とともに子どもの成長を考えた暮らしを組み立てるマネジメントの視点が一層大切になってくる。

親の会での調査でも10年前と変わらず、送迎、夏休み、放課後、病院への通院は、主として、母親が子どものために非常に多くの時間を割いていることがはっきりと出ている。子どもの幸せのために、母親自身の人としての人生の時間を割いている。子どもを育てることには家族としての責任はあるが、しかし、障害は家族だけでは担いきれない。障害のない子どもを育てている家族の暮らしの余裕を障害のある子どもを育てている家族にも与えたい。障害のある子どもへの成長支援が増して、大人になっていく社会的見通しがあれば、家族にもゆとりが出てくるだろう。

先の見えない人生が家族を不安にする。障害のある本人の人権を支える根本的なところが、家族の負担の上にだけ成り立っているのであれば、障害児・者は辛い。本人にも家族にもよい人生が過ごせるように、地域での真のネットワークが求められている。支援機関の連携と必要な時期による支援のキーパーソンがしっかり機能することが必要である。

主役は、障害児・者本人と家族である。彼らの力を信じて引き出すこと。急がず、生きることを支援し、それぞれの暮らしがあることを尊重すること。支援する人間もさまざまな情報に流されがちである。自分ひとりで抱え込みすぎず、スタッフが連携し、役割分担していくことが求められる。そして、支援している一人ひとりが、自身の不足を自覚すること、しかし、ほんの少しの小さな支援だが、大切な役割を担っていることの自覚もまた必要なのである。

(たきざわくみこ 横浜市社会福祉協議会障害者支援センター・地域コーディネーター)