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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年7月号

列島縦断ネットワーキング【神奈川】

Andante 障がいがあったってなくったって
―NPO法人こども応援ネットワークの“ふつう”な取り組み

佐藤洋子

障がい児が生まれちゃいました…

生まれた子どもがたまたま障がい児だった…。それがすべての始まりでした。でもどうやって育てたらいいのか、どうやって生きていったらいいのか、自分の今までの狭い価値観からは、何も回答を生み出すことができませんでした。だから必死になって先生を探し、障がい児だから「訓練」や「療育」が何より大事という時期を過ごしたこともありました。息子にとって何がいいかというよりも、親の“何かをしなくちゃいけない気持ち”を満足させるために、子どもを連れ回していたのです。

だったらつくっちゃえ!

息子が3歳になったときに、“障がいのある子と遊ぶ会社”をつくりました。障がいのある子をあちらこちらに親が連れ回すのではなく、必要なときに自宅に先生が来てくれる…そんな仕組みをつくろうと考えたのです。送迎が大変とか、先生を探すのが大変とか、こんな思いをしているのは私だけではないはず…。主婦のあさはかなこの決断が、今の法人を生んでしまったわけです。今だから白状しますが、子どもを産むまでは普通のOLとして過ごし、出産後は専業主婦。子どもが生まれたらあんなことさせてこんなことして、そんな単純な夢を描いていた私には、“障がい”のことなんか何にも分かってなかったのです。

でも今思うと、何も知らなかったことで子どもを取り巻くさまざまなことを“ふつう”に考えてきたことがよかったのかなって感じています。障がいにどっぷりだと、逆に見えなくなってしまうものがあります。そして意外と楽しいことも多いということに気づきました。究極な発言をすれば、障がいがあることよりも、“障がい”を見ている周りの方にかなり問題があるのでは…と感じることもしばしば。そんなことに気づきはじめて、設立から10年、アンダンテは「あそぶことを純粋に楽しもう」という会社になりました。

“その子が自分らしく”

私たち法人の目的は、“障がいのあるなしに関係なく、だれもが地域で自分らしく暮らすこと”です。でも“自分らしく”ってどういうことなのでしょう。純粋に楽しむつもりが、ついつい私たち大人って、“楽しませなきゃ”ってプレッシャーに悩まされてしまうのです。そんなときにはたびたび“軌道修正”をする必要がでてきます。

子どものこと見てましたか?

子どものこと感じてましたか?

そして、何より私たち自身が楽しかったですか?

子どもたちが何を好きなのか、どこへ行きたいのか、何をしたいのか、できるだけ子どもたちの“思い”に近づきたいと思っています。「○○式」ではない、その子なりの時間をつくるために…。

私たちが大切に行っていること

私たち法人では、現在4つの事業を行っています。

1.「あそぶ」子どもたちのあそびを提案するAndante事業部

2.「くらす」子どもたちの暮らしをお手伝いするvivo事業部

3.「そだつ」地域で自分らしく子育てすることを応援する地域子育て支援事業部

4.「きづく」福祉や子育て、障がいを「楽しく」「かわいく」「カッコよく」伝えるための子育て・福祉の理解をすすめる事業

特に、自分の子育ての実感から、生まれた街で「共に生き、共に育つ」環境をつくることは大切なことだと感じています。それは障がいのあるなしに関係なく、母国語が日本語でないとか、ひとり親であるとか、さまざまな家族の状況にとらわれることなく、その街で暮らす”仲間“として、互いを尊重したうえで、相互理解の観点に立った“場”の必要性です。

そこで2005年秋には、アートフォーラムあざみ野内の「子どもの部屋」の協働事業を受託しました。ここでは大人も子どももその人らしい時間を過ごすために、一時保育と「ひろば」事業を行っています。また06年には地域子育て支援拠点として「都筑区子育て支援センター Popola」の運営を受託しました。ここは「子育ての休憩所」「自分らしい子育て」をコンセプトに、決して子育て指導にならない、それぞれの家族の目的に合った“出会い”や“きっかけ”が生まれるように、“大人のための施設”と位置づけて、肩の力が抜けるような子育て環境をつくる目的で「ひろば」「情報」「相談」「ネットワーク」「人材育成」の5つの事業を展開しています。

「きづく」という事業においては、05年から07年にかけて、横浜市ボランティアセンターとの協働で「車いすホイールカバーデザインマーケット」という、福祉機器のデザインという切り口からスタートした「楽しく」「かわいく」「カッコイイ」福祉理解をすすめるプロジェクトを行いました。また障がいのある子どもとその家族のためのスポーツフェスティバルを過去5回開催し、延べ3000人の方々にご参加いただきました。最近では養護学校を舞台とした余暇支援事業や地域交流イベントの企画、ワークショップを開催しています。その多くの出会いの中で、地域を意識し、世代交流を意識したりしながら、立場の違うさまざまな人たちに「きづく」きっかけをつくっています。

マンツーマンで遊ぶ

事業開始当初から、私たちはその子どもの住む街へ出かけ、マンツーマンで子どもたちと遊びます。自宅近くの公園で遊んでいると、近所に住む子どもたちやクラスメイトが声をかけてきます。直接はなかなか遊ぶことが難しい子どもたちも、家族でない“第三者”が間に介在することで、互いの興味をつなぐことができるのです。鬼ごっこやサッカーが始まっても、上手にできることは問題にはなりません。子どもたちは分からないなら分からないなりに、ちょっとしたアドバイスで新しいルールを考えてもくれます。お買い物も同じです。近所のスーパーに買い物に行くと、レジでゆっくりお金を払うことを待ってくれる店員さんが増えてきます。「今日は何買いにきたの?」と声をかけてくれる人もでてきます。公共の交通機関を使うことも大切です。切符を買ったり、自動改札を通ったり、駅員さんに顔を覚えてもらうこともポイントです。そうやって、街で共に暮らす人たちと、街にある資源を使って、活動を広げることを繰り返していくうちに、24時間365日の日常を意識したお手伝いができるのだと考えているのです。しかも「楽しく」「かわいく」「カッコよく」が大事なのです。

これからそして未来へ

横浜市には児童館がありません。乳幼児から学齢児、そして青少年から地域で暮らすさまざまな人たちが、障がいのあるなしに関わらず、たとえ日本語が話せなくても気軽に訪れることができる場所があるといいなと考えています。行政の施策はどうしても縦割りを崩せません。乳幼児の居場所、障がい児の居場所、青少年の居場所、バラバラな施策の中である年齢に達したら使えなくなり、障がいと診断されたら「この場所へ」というのは、私としてはすんなり「そうですね」と理解することはできません。「○○だけしか使えない施設」ではなく、だれもがいつでも気軽に訪れることのできる“場”や“しくみ”をつくっていき、「地域で自分らしく暮らす」ことを実現するために、いろいろな人たちがアイデアを出し合い“福祉の観点”ではない“普通の感覚”での暮らしが成り立つことを目標にしていきたいと考えています。

(さとうようこ NPO法人こども応援ネットワーク理事長)

●NPO法人こども応援ネットワーク
TEL 045―948―4877
FAX 045―948―4878
http://www.kodomo-ouen.net/

※10年間の記録を写真絵本『Andante 障がいがあったってなくったって』として発行。定価500円(送料別)。