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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年8月号

各国における障害の定義

寺島彰

1 障害の定義に関して

最初に確認しておかなければならないことは、制度の目的によって障害の定義は異なるということである。

わが国において、身体障害者福祉法の障害の定義と国民年金法による障害の定義や学校教育法における障害の定義が異なることをご存知の方も多いだろう。他の先進国でも同じであり、制度の目的により障害の定義は異なっている。ところが、障害の定義について議論される際に、「国際保健機関(WHO)の定義では、人口の10%が障害者であるが、わが国では、人口の5%程度しか障害者ではないため、わが国の障害者の定義は外国に比べて厳しい」というようなことを言われることがある。この場合、わが国の制度は、身体障害者福祉法等の各福祉法の定義を用いている。

身体障害者福祉法の目的は、身体障害者の「社会経済活動への参加」と「必要に応じて保護」を目的としており、主な目的はリハビリテーションである。一方、WHOは、保健機関としての観点から支援をすべき障害者の数を述べているのであり、両者の数を比較することは、あまり意味がない。比較するのであれば、目的の同じ制度を比較する必要がある。

障害者制度の目的は、さまざまなものがあり、世界各国の障害者制度全体の目的を網羅できる分類はこれまで発表されていないが、筆者の試案としては、おおまかに障害者制度は、表1のように分類できると考えられる。

表1 障害者制度の目的・対象者

制度の目的 対象者 対象者数
障害者差別の禁止 バリアフリー等を必要とする障害者が対象。幅広い障害も含む。また、妊婦などの一時的な障害も含む。 人口の15-20%程度
社会サービス 何らかの社会サービスを必要としている永続する障害者が対象。 人口の10%程度
リハビリテーション リハビリテーション訓練を受けることで職業復帰を中心とした社会参加が期待できる障害者が対象。 人口の50%程度
年金・手当 職業的収入が十分期待できない障害者が対象。 人口の1%程度

一般的には、障害者差別禁止を目的とする制度では、障害の定義は細かく規定されていないが、年金・手当制度では、障害が細かく分類され、障害程度がランク付けられていることが普通である。たとえば、わが国の障害年金には、1~3級の等級があるように、ドイツやフランスの年金・手当でも、障害程度をパーセント表示している。

また、障害認定は基本的に医学的診断が中心である。医学的診断がどの程度行われるかは、国によって違い、米国の社会保障障害年金(Social Security Disability Insurance)は、ほとんど医学的診断により受給が決められるが、英国の就労不能給付(Incapacity Benefit)では、医学的診断が中心であるものの、日常生活活動も勘案して受給が決められる。

社会サービスやリハビリテーションは、これらの二つの制度の間に存在しており、医学的診断が行われるかどうかは、制度ごとに幅がある。たとえば、イギリスの社会サービスや米国の障害者職業リハビリテーションでは、制度の対象となる障害を細かく制限していないが、医学的診断をかなり取り入れている。

2 各国の障害の定義

前記での議論を踏まえ、以下、各国の障害の定義について紹介する。

(1)アメリカ

アメリカの障害者制度は、単純化されており、障害の定義は大きく三つに整理できる。

1.差別禁止

障害のあるアメリカ人法(Americans with Disabilities Act:ADA)、1973年リハビリテーション法503条、労働力開発法188条などで、障害者差別に着目した障害者の定義を使用している。これらの法律では、次のどれかに該当する場合に障害者とみなされる。

(1)個人の主要な生活活動の一つ以上を実質的に制限する心身の機能障害がある場合。
(2)(1)の障害をもった経歴がある場合。
(3)(1)の障害をもつとみなされる場合。

2.年金・手当

社会保障障害年金や社会保障所得補足給付(Social Security Supplemental Security Income)が該当し、これらの障害の定義は、次のようになっている。そして、この定義を満たすための詳細な医学的診断基準が定められている。

医学的に証明できる精神障害または身体障害でその障害のために生活できる収入を得られる仕事に就くことができないこと。この障害は、少なくとも12か月継続するか、あるいは継続したか、または死亡に至ると考えられる障害であること。また、この仕事は、従前の職業ではなく、一般的な仕事を意味する。

3.職業リハビリテーション

職業リハビリテーションは、州単位で実施されており、障害者が職業リハビリテーションを受けられるかどうかを決める障害の定義は、身体または精神的障害が申請者の雇用される際の「実質的な障壁」になるかどうか、あるいは、結果的にそうなったかどうかである。この場合、診断書を必要とすることもあるが、年金・手当とは違い、厳密な医学的診断基準はない。

(2)イギリス

イギリスは、非常に多くの障害者制度をもっているために、障害者の定義もいろいろである。主なもののみを取り上げると次のようになる。

1.差別禁止

障害者差別禁止法(Disability Discrimination Act:DDA)があり、それによる障害の定義は、次のとおりである。DDAは成立時、ADAと同じ定義を用いるという案もあったが、結局は、ADAと従来の障害の定義の折衷のようなものになっている。

通常の日常活動を遂行する能力に実質的、かつ長期の不利な影響を及ぼす身体的または精神的損傷がある場合に障害者とされる。また、雇用や製品・機器・サービス・建物については、過去にそのような障害のあった人にも適用される。

2.年金・手当

就労不能給付は、名前のとおり、働けないことに対して給付される手当である。障害についての包括的な定義はないが、障害別に就労不能を引き起こす具体的な医学的診断基準があり、それが、障害の定義であるといえる。

障害者税額控除(Disabled Person’s Tax Credit:DPTC)は、障害者等が復職したり仕事を始めるのを支援したりするための所得補助制度であり、DDAの定義を用いているが、職業的な活動を遂行する能力のみが対象となる。詳細な医学的診断基準がある。

これ以外にも、障害生活手当(Disability Living Allowance:DLA)、所得補助(Income Support:IS)、重度障害者手当(Severe Disablement Allowance)等多くの手当があるが、それぞれ、医学的診断を基本としている。

3.リハビリテーション

アクセス・トウー・ワーク(Access to Work)は、障害者の就業を支援するために、就業に伴う福祉機器の購入や補助者にかかる費用などを支援する制度である。障害の定義は、DDAの定義を用いているが、職業的な活動を遂行する能力のみが対象となる。具体的には、就労能力について専門の職業評価機関が面接して決定するが、必要に応じて医学的な検査が課される。

(3)フランス

フランスの特徴は、1975年に障害者基本法ができ、同法に基づきCOTOREP(職業指導再就職斡旋委員会)(児童はCDES(県特殊教育委員会))が障害認定を統一的に行っていることである。すなわち、制度ごとにサービスを利用できる障害の種類や程度は異なるのであるが、それを一つの機関が評価するのである。評価基準は、国際障害分類を活用しており、機能障害や能力障害を中心に医学的・社会的評価が行われる。そのために、各制度は、包括的な障害の定義を持たず、この評価基準を活用してサービス提供の範囲を決めている。

1.差別禁止

1990年に障害者や患者に対する差別禁止法ができたが、障害の定義はなされていない。

2.年金・手当

機能障害のために、職業能力の3分の2が失われた時に、社会保障手当の対象になる。就労困難、就労不能、就労不能でかつ日常生活のサポートが必要という三つのランクがある。

(4)ドイツ

1.差別禁止

2002年に障害者差別禁止法ができ、障害者のバリアフリーなどが取り上げられているが、障害に関する明確な定義はなされていない。

2.年金・手当・リハビリテーション・社会サービス

2001年に以前の「リハビリテーション調整法」と「重度障害者法」が統合されて、社会法典第9巻に「障害者のリハビリテーションと参加」というタイトルで記述されている法律に基づき、年金、医療、労災、介護、雇用などの広範な領域に共通する障害の定義が行われている。その定義は、次のようになっている。そして、各制度は、それぞれの目的に応じてサービス受給資格を詳細に定めている。

(1)身体機能、精神的能力、心理的健康が、6か月以上損なわれており、それにより、同年齢の人々と比較して社会参加が制限されている場合を障害者とする。
(2)障害程度が50以上であり、ドイツに居住し、またはドイツで働いている場合は、重度障害とする。
(3)障害のために就職または職業維持ができず、障害程度が30―49の人も重度障害とする。

おわりに

本稿では、紙面の関係で4か国の障害の定義について紹介した。制度ごとに制度の目的を達成するために障害が定義されているが、障害の定義には二つの意味がある。

一つは、その制度の理念を示す目的である。たとえば、ADAの障害者の定義は、障害がある人に加えて、過去に障害があった人と、周囲の人から障害があると思われている人を含んでいる。前者は、悪性腫瘍などの病歴があった場合、医療費負担が増えることを心配した雇用主が、採用を拒否したり解雇したりすることは障害者差別にあたるという理念を明らかにしている。

後者は、伝染性の疾患のある患者と同居する人を差別することを禁止している。しかし、このような定義では、どのような人が具体的に障害者なのかについては、明確ではないので、稀少な資源を効果的に分配すべきサービス提供のための制度では、利用できる人の範囲を限定する必要がある。これが第二の定義である。多くの制度では、この第二の定義を必要とする。我々が、障害の定義について考えるとき、制度の目的と共に定義の意味についても考える必要がある。

(てらしまあきら 浦和大学総合福祉学部)