音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年10月号

わがまちの障害福祉計画 大分県大分市

大分市長 釘宮磐氏に聞く
「きれいなまちづくり」と「市民の健康づくり」を障害者福祉に活かす

聞き手:倉知延章
(九州ルーテル学院大学教授)


大分県大分市基礎データ

◆面積:501.25平方キロメートル(2007年1月1日現在)
◆人口:469,142人(2007年8月末現在)
◆障害者の状況:(2007年4月1日現在)
身体障害者手帳所持者 19,525人
(知的障害者)療育手帳所持者 2,518人
精神障害者保健福祉手帳所持者 1,285人
◆大分市の概況:
古代・豊後国府以来、現代まで1300年にわたり県都を担ってきた。「豊の都市」とあるように海、山、川の自然に恵まれ、戦後の高度経済成長とともに近年は新産業都市として大きく発展。陸地では鉄道3線や高速道路、空港などが合流し、また豊後水道を経由して内外に通じる海上交通の要衝も占め、東九州における経済活動の拠点。高崎山自然動物園、水族館「うみたまご」、海水浴場、温泉、大分国際車いすマラソン(今年第27回)、サッカーの大分トリニータと、名立たる観光スポットも多い。
◆問い合わせ:
大分市役所障害福祉課
〒870―8504 大分市荷場町2―31
TEL 097―537―5658(直通) FAX 097―537―1411

▼大分市は大分県の県都ですが、海、山、川のすべてがそろい、自然と都市が共存するまちです。また、海の幸、山の幸にも恵まれ、食の魅力にあふれた地としても有名です。その大分市では、「日本一きれいなまちづくり」を推進しています。これは、市長以下市職員が率先してごみを拾い、それが一大市民運動へと発展したものです。ごみ拾いの参加者数のギネス記録にも挑戦し、14万7千人という記録を達成しました。

また、「市民の健康づくり」にも取り組んでいます。こちらも市長が河川敷で始めた朝のラジオ体操がきっかけで、今では市内各地でラジオ体操会や健康づくり教室などが行われています。8月5日には河川敷に1万人を集めて、NHK朝のラジオ体操をして、その後みんなでごみを拾うというイベントがあったそうです。このように二つの活動は連動しており、確かに市内にごみはほとんど落ちていませんでした。

このようにユニークな市民活動を展開している大分市、「わがまちの障害福祉計画」にはこれがどのように活かされているのでしょうか。大分市長の釘宮磐氏にお話をうかがいます。まず最初に、市長の障害福祉に対する考え方についてお話ください。

福祉は私の政治の原点であり、思い入れは深いですね。父がホームレス支援を行っていた影響もあり、兄弟もみんな医療・福祉の分野で働いています。私も知的障害者施設で働き、施設長も経験しました。私は障害のある方を保護する施策から社会参加をめざす施策にすべきであると考えています。今でも、施設にいた人とまちで会うと、声をかけてくれるんです。こちらからも声をかける。うれしいですね。彼らが地域で、普通の人と同じように当たり前に、働く・食べる・買う喜びを感じられ、地域で普通の暮らしができるように応援したいと思っています。

▼では、大分市の障害福祉計画のセールスポイントについてご紹介ください。

医療費の助成(各障害者手帳所持者が対象)や障がい児長期休暇生活サポート事業、知的障がい者自立生活促進事業、知的障害者通勤ホーム委託事業など、従来から大分市が独自で行ってまいりました施策等も含めて、今後も熱心に取り組んでいきます。福祉に対する市民の理解は進んでいるという自負があります。職員もよくやっており、市民の声を積極的に担当部署が取り上げ、それを施策にして私に上げてきます。先例がないならば作ればよいというスタンスですね。

具体的には、障害者自立支援法関連で言いますと、利用者の負担軽減策ですが、低所得1および2の対象者は月額上限額を2分の1とし、一般世帯の対象者も3段階に分けて、月額上限額を減額いたしました。また、通所施設利用者で、一般世帯の対象者が負担している食事代人件費(420円)の9割を市が負担しています。これは国に先駆けて実施したもので、近隣市町にも影響を与えました。現在は国も同様の負担軽減策を講じていますが、市の施策に国が追随してきた感じですね。

また、デイサービス事業を地域活動支援センターⅡ型に、小規模作業所をⅢ型に移行するようにして、市独自の補助を入れていますし、4人以上の小規模作業所への運営費補助も行っています。

▼その他、障害福祉計画にはユニークな事業もありますね。

高齢重度聴覚障害者生活支援・訪問事業といって、60歳以上の単身または聴覚障害者夫婦のみの世帯で支援を必要とする方に対して、生活支援員を派遣して支援を行っています。具体的には、月に1~2度訪問して生活状況を把握したり生活費のことやその他の話し相手などです。昨年度は221件の利用がありました。

また、障害者食の自立支援事業があります。これは、身体、知的、精神の障害がある障害者世帯に対して、栄養バランスのとれた食事を定期的に配食し、同時に安否確認を行うなどの在宅生活支援策です。現在85人の方が利用しています。

地域生活支援事業については、地方交付税の大幅な減額があったために、財政的にはかなり厳しいのが現状です。大分市では、地域生活支援事業に19年度は約10億円を計上しています。今、必要な支援は何か、現場の声を聞きながら行ってきましたし、これからもそうしていくことで、効率的で効果的な施策を実行していきたいですね。

▼働くこと、障害者自立支援法に掲げられている就労支援に関する施策はどうでしょうか。

非常に重要だと考えています。施設長をしていた20年前、私は「農業を主体とした就労支援を進める」と言ったんです。周りからは「やれるはずがない」と言われました。しかし、都市から離れた地域で、30人の知的障害をもつ人たちが、そこで酪農に従事し、弁当屋さん、レストランなどを開いて働いています。企業と連携し、障害者を現場で支援する人がいれば彼らは働けるんです。市場ニーズに対応するような美味しくていい物を作れば、必ず売れると確信しています。

市としては、障害者を雇用する企業に対して公共事業の発注を優先しています。また、福祉的就労では、障害者が働く喫茶店などに、市庁舎や文化施設などの場所を提供し、働く場の拡大と、市民とのふれあいを進めるという広い意味でのノーマライゼーションを推進しています。

同様に、市のリサイクルセンターのペットボトル等の分別業務を、五つの障害者支援を行う法人からなる就労支援協議会に委託していますし、公園等の清掃業務や草刈り業務も障害者支援の法人に委託しています。さらに、市の指定管理者制度を活用して、温泉施設の運営を障害者の法人に委託しています。丹生(にゅう)温泉といって、1回300円(12歳以上)で入れる日帰り温泉です。近隣の方の憩いの場になっています。最近は、企業誘致したキャノンの若い従業員のお客さんも増えてきたようです。

▼温泉施設の指定管理者とはユニークですね。最後に、市長の今後の方針について教えてください。

私は、「ばんのマニフェスト」として「ネクスト大分構想」を発表しています。できるだけ数値目標も明らかにしています。しかし、先ほど申し上げたように、市として財政的には厳しいです。しかし、「ハンディをもつ人のハンディをいかにうめていくのか」という視点で自立を進め、障害者施策を充実させていきたいと思っています。お金をかけなくても障害者が自立できるように考えていきたいですね。そのために私は、市民協働のまちづくりを進めていきたい。

現在、「おでかけ市長室」を実践しています。これは、各地区で福祉活動などを行っている団体に集まっていただき、そこに私が出向き意見交換を行うものです。すると、地域の特徴や課題がよく分かるのです。現在4巡目になるのですが、住民同士のつながりが市民協働のまちづくりへとつながっていくのです。

また、リサイクルセンターの就労支援協議会のように、市の事業に社会福祉法人の参入を進めていきます。このように、財政的な支援だけでなく、障害者が暮らしやすいまちづくりを基盤において、お金がなくてもできる福祉を考えていきたいと思っています。

わがまちでは、ゴミ拾いなど「日本一きれいなまちづくり」や、ラジオ体操などの「市民の健康づくり」に取り組んでいますが、これは、障害者を排除しないというノーマライゼーションの基盤になると思っています。


(インタビューを終えて)

三位一体改革によって地方交付税が減額され、市町村の財政は厳しい状況に置かれています。大分市も例外ではありません。そのような中で、国に先駆け、障害者自立支援法によって生じた利用料の自己負担軽減策をとってきました。大分市の動きが近隣の市町に影響を与え、国にも影響を与えて、ついに国も追随することになりました。それを誘導した大分市の功績は大きいといえるでしょう。

しかし、大分市はそれだけにとどまらず、地域づくりをしながら、市民協働型の福祉も同時に進めています。それはラジオ体操やゴミ拾い運動、そして「おでかけ市長室」に表れています。そして、施設などのハコモノをつくるのではなく、地域の働く場や働く機会を障害者に提供するという施策を展開しています。これは、市民と障害者が自然にふれあうというノーマライゼーションの推進にも役立っているといえるでしょう。市民と行政と市長が一緒になってまちづくりを進め、その中に障害者施策が自然と入っているという印象を受けました。これをさらに発展させていって、大分方式となることを期待しています。ありがとうございました。