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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年11月号

事業者

「りとるらいふ」の取り組み
~「地域で暮らす」を前向きに、力強く~

片桐公彦

はじめに

私が「障害者自立支援法」に初めて出会ったのは、2004年の冬。新潟県内で行われたあるフォーラムでのことだった。あれから3年。私たちが運営する「りとるらいふ」は昨年の10月から障害者自立支援法における「行動援護事業」と地域生活支援事業の「日中一時支援事業」「移動支援事業」を組み合わせて、主に障害児を対象としたサービスを提供している。障害者自立支援法の本格施行から約1年。私たちが向き合った障害者自立支援法の風景について、語ってみたいと思う。

「りとるらいふ」について

「りとるらいふ」は、2002年の7月、当時、上越市役所で臨時の相談員をしていた筆者と、在宅介護支援センターで相談員をしていた現在の副代表の呼びかけによるボランティア団体からスタートした。当時の団体名は「障害者の余暇活動を支援する会りとるらいふ」。学生や若手の社会人を中心に、月に1回の日帰りキャンプによる余暇活動支援を行っていた。

2004年4月からは市内の一軒家を借りて、私的契約型のいわゆるレスパイトサービスを土日祝日を中心にボランティアベースで並行して始めた。そして2005年4月から上越市の委託事業である「上越市障害児放課後支援事業」を開始する。この時から、筆者を含む3人が法人の職員として勤務することになる。

現在では、「上越市障害児放課後支援事業」は2006年10月の障害者自立支援法の本格施行に伴い「日中一時支援事業」となり、同時に「行動援護」と「移動支援事業」を開始している。

団体プロフィール:特定非営利活動法人りとるらいふ

[設立]2002年7月(2004年2月NPO法人化)
[代表者]片桐公彦
[事業]
◆障害者自立支援法でのサービス
・介護給付
 行動援護
・地域生活支援事業:
 日中一時支援事業(障害児の放課後・長期休暇時の支援及び、余暇・社会参加での利用が主)
 移動支援事業
◆法人独自のサービス
・タイムケアサービス
・福祉有償運送
・相談支援
・普及・啓発(研修会・フォーラムの開催)
[スタッフ]常勤5名、パート・アルバイト15名、ボランティア約200名

障害者自立支援法の使い心地

1.日中一時支援事業

昨年の春先から、上越市担当課と障害児放課後支援事業を「日中一時支援事業」に切り替えようという話し合いを行っていた。それは今までの年払いの包括的な収入が利用者の利用実績による「日割り」に変化することを意味していたわけだが、私たちはこの変化を前向きに受け止め「望むところです」という気分でいた。「綺麗(きれい)ごと」と受け取られるかもしれないが、委託という包括的な収入構造は事業者の「殿様商売化」を招くとずっと感じていた。

私たちが委託から日割りに切り替わるときに提示した条件としては、1.利用者の受け入れ人数(定員)を増やすこと、2.土曜、日曜日の開所もできるようにすること、3.集団での1日の外出(りとるらいふが実施していた余暇活動支援)にも利用できるようにすること、だった。これらの条件が認められ、定員は今までの12人から15人程度まで拡大した。スタッフの配置も「2.5人に1人」という基準が守られれば、その日の利用人数に応じて調整することができる仕組みにしてもらった。

「りとるらいふ」が設立当初から行っていた余暇活動支援の事業についても日中一時支援事業での利用が可能になったことで、4,000円~6,000円の利用料を徴収しなければならなかった6時間の余暇活動支援の利用料が、日中一時支援の利用料(4時間以上8時間未満で469単位)プラス食費や施設使用料金の実費1,500円程度を合わせても2,000円弱で利用ができるようになった。これまで利用者にはかなり経済的な負担をかけていたわけだが、事業所には余暇活動・社会参加に事業を行うための収入がきちんと確保でき、利用者にとっては利用料が下がるといったことが可能となった。

2.移動支援事業

多くの自治体がそうであるように、上越市でも外出介護の「身体介護あり」の支援類型は、移動支援事業になってから消失した。「りとるらいふ」のように、支援対象者の多くが知的障害者の場合、行動援護スケールが10点以下の方について、以前の外出介護の「身体介護なし」が適用される。事業者にとってはかなりの痛手ではある。この辺りは、障害者自立支援法になって後退していると言わざるを得ない。地域生活支援事業の財源の多くが市町村の持ち出しということを考えると、仕方のない面もあるが、国からの地域生活支援事業統合補助金の少なさがこうした自体を結果として生んでいる。

3.行動援護

「りとるらいふ」で行っている個別給付の事業は「行動援護」のみである。個別給付に関して言えば、「りとるらいふ」は知的障害・自閉症の専門事業所ということになる。移動支援事業の単価が低く設定されているものの、行動援護の飛び抜けて高い単価によって、その辺りをうまくカバーできているという構図がある。これまで分かりにくかった「重い行動障害を有する人々への介護」を行動援護はきちんと文言化した。求められるヘルパーの専門性や事前の準備に対して、報酬という形で正当に評価されていると感じている。訪問系サービスを中心に支援を行っている事業所としては、行動援護という「サービスの場所と方法を固定しない」サービスの登場によって、とりわけ重い行動上の障害を有する方の地域生活支援は飛躍的に伸びたと確信している。

課題としては、5時間を超える長時間の利用について制限があることと、行動援護スケール10点クリアという高いハードルが設けられていることにより利用対象者の幅の狭い点である。

図 りとるらいふ新体系移行イメージ拡大図・テキスト

「日割り反対」についての違和感

ここ最近の「日割り」を従来の月割り方式に戻す議論が強まっている傾向について違和感があるので書いておきたい。

「日割り」の仕組みは絶対に守るべきであると私は考えている。2007年4月に「日割り」がスタートしたが、4月から送迎を始めた通所系の事業所がある。土曜日も開所する事業所も出てきた。「障害の重い人は受けないというのがウチの施設の方針」と言っていた施設が急に障害の重い人の受け入れも始めた。これはすべて2007年4月以降、つまり日割りがスタートしてからのことである。月割りに戻ったら、これらの事業所が始めたサービスの質を維持していくとは、到底思えない。

日割り制度の導入には「サービスを選ぶ」という大前提があるはず。利用者の立場に立ったとき、この仕組みは評価されるべきだ。選ぶことのできない仕組みは事業所の「殿様商売化」を生む。日中活動系サービスの報酬単価の低さは確かに問題ではあるが、「サービスを選ぶ」という仕組みそのものを否定することは、事業者として恥ずべきことではないか。

日中活動系に関して言えば、報酬単価を引き上げることで減収分をカバーする視点が必要だと感じる。また、利用定員についても現行の1割増しではなく、適切にサービスが提供できる環境であることを前提として、4割~5割程度まで利用受け入れを認めるような配慮が必要ではないか。

さいごに

私たちが事業を始めてから出会った障害のある子どもたちが養護学校卒業の時期を迎えている。就労の場、居住の場に加えて、医療を必要とする方への支援や権利擁護の仕組みを整える必要があると感じている。こうした展望について、以前の制度では諦めざるを得なかったことが、障害者自立支援法ではグッと近くに引き寄せられる具体的なイメージがある。「事業展開のしやすさ」でいえば、障害者自立支援法は私たちがほしかった形にかなり近い。

障害者自立支援法が「好き」か「嫌いか」と聞かれれば、私は迷わず「好きです」と答える。さまざまな問題点はあるものの、基本的な仕組みや方向感は正しいと感じているからだ。

障害者自立支援法を正しく理解し、積極的に活用することで障害のある方の地域生活を前向きに、力強く推し進めていけると感じている。

(かたぎりきみひこ 特定非営利活動法人りとるらいふ理事長)