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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年11月号

わがまちの障害福祉計画 東京都狛江市

東京都狛江市長 矢野裕氏に聞く
住民とつくりあげてきたものを大切に、市民福祉を推進

聞き手:柳田正明
(日本社会事業大学実習教育センター実習助教授)


東京都狛江市基礎データ

◆面積:6.39平方キロメートル
◆人口:77,051人(平成19年10月1日現在)
◆障害者の状況:(平成19年4月1日現在)
身体障害者手帳所持者 1,861人
(知的障害者)療育手帳所持者 236人
精神障害者保健福祉手帳所持者 156人
◆狛江市の概況:
狛江市は、東は世田谷区、北西は調布市、南は多摩川をはさんで神奈川県川崎市に隣接しており、小田急線で副都心新宿から南西に電車で約20分。全国の市の中で3番目に小さい自治体。1927年の小田急線開通を機に人口が増え始め、ベッドタウンとして発展。近年は小田急線が立体化され、駅周辺の再開発、リサイクルセンターの開設、道路の整備など、ハード面・ソフト面の基盤整備が進んでいる。
◆問い合わせ:
狛江市健康福祉部社会福祉課
〒201―8585 狛江市和泉本町1―1―5
TEL:03―3430―1111(代) FAX:03―3480―1133

▼はじめに狛江市の特色についてお伺いします。

狛江市は、昭和20年頃まで東京近郊の農村としての性格を強くもち、人口も1万人前後でしたが、昭和30年代から40年代にかけての高度成長期を境にベッドタウンとして大きく変貌を遂げ、現在は人口7万7千人という住宅地になっています。東は世田谷区、北西は調布市、南は多摩川をはさんで神奈川県川崎市と接しています。ほとんど平坦な地形で、面積は6.39Kmで東京都全市の中で最も小さく、全国の市の中でも3番目に小さな市ですが、多摩川など自然が豊かなうえ、都心へ向かう交通の便もよく、平日は人口の3割が市外に出ています。大きな産業や観光スポットもなく、市外から人を呼び入れるものは特にはありませんが、市民が主役となって住みやすいまちづくりをすすめ、行政がそれを支援し、時には協働しています。まちへの愛着を育み、定着させ、それを土台に魅力ある狛江市のまちを築いていきたいと考えています。

▼障害のある人たちへの地域生活支援についての市長の考え方はいかがでしょうか。

児童や高齢者は、経験や共通性がありますが、障害については外からではわからないことが多く、70年代は偏見が少なからずありましたが、就学制度の改革など美濃部都政により、障害のある人が家から外へ出られるようになりました。切り開いてきたものを後退させてはいけない、前進させるのが行政の役割であると考えています。障害福祉の分野でも、市民参加、市民協働を進め、発言の場をつくっていくことが大切であり、私自身も障害のある方、関連団体からお話をうかがう場をできるだけ多くつくるよう努力してきました。

平成6年3月制定の「狛江市福祉基本条例」、平成14年3月策定の「第2次あいとぴあレインボープラン障害者分野編(障害者計画)」に基づき、すべての市民が、地域でお互いに助け合い、支えながら、生活できる「狛江」を目指して、福祉の推進に取り組んできました。

平成12年4月の介護保険の導入、障害福祉では平成15年4月に支援費制度の導入、また障害者自立支援法への移行と社会福祉制度は大きく変わりました。利用者の主体的な選択による契約を中心とした制度へ転換した中で、だれもが安心してサービスを利用し、地域での自立した生活を送れる社会を実現するため、「狛江市福祉基本条例」の基本理念である「であい、ふれあい、ささえあいのまちづくり」をさらに前進させていこうと考えています。

この条例は、町田市に続いて2番目になりますが、市内のすべての事業に福祉の視点を導入したものです。現在もマンション建築の際には、この条例が適用されます。これがすべての土台となり、「第2次あいとぴあレインボープラン」が策定されています。「狛江市福祉基本条例」により、狛江市市民福祉推進委員会が常設されており、行政の計画策定や大きな変更の時には同意を得て、行政が具体化することとしています。これによって、市民との合意形成もしっかりしたものとなっています。

▼狛江市における障害者施策のセールスポイントは、どのようなものがあるのでしょうか。その事業を実施した経緯や特色、事業内容などをお聞かせください。

まず、従来から力を入れて取り組んできた事業では、現在の障害者自立支援法の関連では児童デイサービスという枠になりますが、都からの母子保健事業移管時に他市に先駆け、未就学児に対する早期療育として、平成9年10月に、あいとぴあ子ども発達教室「ぱる」を立ち上げ、サービスを提供してきました。保育園との連携はもちろん、小学校とも連携し、就学後の相談・支援も実施しています。あいとぴあセンターには温水プールも併設しているので、療育プログラムに取り入れるなど工夫もしています。

▼教育と福祉の連携を、広域的な対応をしていた時代から、地域での実践をされて、その連携によって効果を高めていることは、学ぶべきことが多いように思います。自立支援法関連の事業についてもう少し、詳しくお話しいただけますでしょうか。

障害者自立支援法関連の事業では、利用者や事業者に対する負担軽減策として、都制度(ホームへルプ3%負担)助成に加え市2分の1負担、短期入所・デイサービス・通所施設利用者に対する市単独減免、市内通所施設利用者の昼食代の減額等をしています。

地域生活支援事業で独自性のある事業としては、従前から必要と思われる事業は実施してきましたので、今回の地域生活支援事業に伴い、特に新規の事業展開はしていません。ですが、たとえば、手話通訳者の派遣が主なコミュニケーション支援事業では、要約筆記者の派遣を従来より実施していましたので継続しています。同じ継続事業ですが、成年後見制度利用に関して、身寄りもなく資産・収入もない方に市長申し立て等の支援を行っています。また、地域生活支援事業として位置づけてはいませんが、近接の5市共同で多摩南部成年後見センターという機関を設置し、法人後見も実施しています。

特に、就労支援事業は大切になると考えており、平成20年度より就労支援センターの本格実施に向け、今年度より準備期間として始動いたしました。それに関連して、養護学校高等部2年の生徒さんを市役所内で、いわばインターンシップのような形態で来ていただき仕事をしていただいています。封筒のタックシール貼りなどが主な仕事ですが、すごく仕事が丁寧であり、他の事業所にも広めていきたいと思っています。仕事に安定感があっただけでなく、周囲の変化も感じられます。身近に接しないとわからないものもあり、体験とふれあいは重要でさらに進めていきたいと思います。

▼障害福祉計画についてはいかがでしょうか。その策定の経緯なども含めてお聞かせください。

まず、計画策定の経緯ですが、平成17年7月より、狛江市市民福祉推進委員会で障がい作業委員会を設置し、本計画・策定に着手しました。策定のためには「第2次あいとぴあレインボープラン・障害者分野編」の評価・進捗状況等の調査が重要と考え、当事者やご家族のニーズ把握のためのアンケート調査、関係団体に対するヒアリング調査を行い、多方面から審議を行いました。

内容で特に力を入れたことや工夫したこととしては、障害福祉計画策定時に、関係団体に対するヒアリングを行い、障害者計画である「第2次あいとぴあレインボープラン障害者分野編」に対する評価をお聞きしました。その内容は障害福祉計画の中に掲載しましたが、ご回答いただいた多くのご意見は、今後の施策の中に活かしていきたいと考えています。また、障害福祉計画の中では、「福祉施設入所者の地域生活への移行」の目標値を国の設定より多く設定しました。年齢、入所年数等勘案して、できるだけ多くの方が地域に移行するようにと考えました。

▼今後の障害者施策について、抱負などを含めてお聞かせください。

先ほど狛江市の特色で触れましたが、住民の合意がとりやすいまちであると思っています。障害のある方が地域社会に参加する力を育むこととそれを受け入れる力をつくりやすいところです。障害のある市民、団体が頑張っています。参加の呼びかけ、誘い、協働にも信頼が築かれており、やりやすさがあると感じています。

「障害福祉計画」および「第2次あいとぴあレインボープラン」に基づき、障害のある人もない人も、互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会を目指す「ノーマライゼーション」の理念にかなうよう、障害者の自立と社会参加の促進を図っていくことを決意しています。

▼最後に、市長の障害者福祉への思いをお聞かせください。

障害者福祉ではなく、市民福祉であると認識しています。高齢、障害などの枠ではない、市民一人ひとりが主役になるようなまちをつくりたいと思っています。市民参加で合意を得ながら、福祉の推進を図ってきましたが、到達点まではまだまだですので、さらに進めていきたいと思っています。


(インタビューを終えて)

先駆的な実践から、教育と療育・福祉の連携が取れていること、「障害福祉計画」の策定時にマスタープランの評価をも実施していることなどは、学ぶべきこととしてお聞きできました。東京都では人口70万に迫るところもあり、安易な比較は慎重であるべきも、よく言われる「住民の顔が見える」ということばの濃さの違いが小さいまちであることのメリットとして感じられました。このことは、住民と市長との関係にも生きているように思われました。市長さん、ありがとうございました。