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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年11月号

フォーラム2007

第2次「アジア太平洋障害者の十年」
中間年評価ハイレベル政府間会合開催される

松井亮輔

はじめに

第2次「アジア太平洋障害者の十年」(2003年~2012年)の中間年にあたる今年9月19日(水)~21日(金)、バンコクにある国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の国際会議センターを会場に、中間年評価ハイレベル政府間会合(以下、政府間会合)が開かれた。同会合には、域内の27か国・地域政府および国連機関代表、ならびに障害NGO関係者など、全体で185人(その約半数は、障害NGO関係者)が参加した。注目されたのは、米国およびロシア政府代表も参加したことである。とくに米国政府代表は、後述の非公式会合において、びわこプラス5最終案づくりに積極的に加わっている。

今回の政府間会合の主目的は、第1次十年の最終年に当たる2002年10月、滋賀県大津市で開催された最終年ハイレベル政府間会合で策定され、翌年のESCAP総会で採択された第2次十年の政策ガイドラインであるびわこミレニアム・フレームワーク(以下、BMF)の各国での取り組みの進捗状況を評価するとともに、2006年12月に国連総会で障害者権利条約が採択されたことなど、BMF採択以降の国際的動向も考慮に入れながら、第2次十年の後半で取り組むべき具体的な戦略づくりである。

以下では、政府間会合の最終日に採択された、BMFの補足文書であるびわこプラス5の概要、その成果と課題などを中心に紹介することとする。

びわこプラス5の概要

BMFは、7つの優先領域(1.障害者の自助団体および家族・親の会、2.女性障害者、3.早期発見、早期介入と教育、4.訓練と自営を含む、雇用、5.各種建築物および公共輸送機関へのアクセス、6.情報通信技術および支援技術を含む、情報と通信へのアクセス、7.能力開発、社会保障および持続可能な生計プログラムによる貧困の削減)と21の行動目標、これらの目標を達成するための4つの主要戦略(1.障害に関する国の5か年行動計画、2.障害問題への権利に基づく取り組みの促進、3.計画のための障害統計と障害に関する共通定義、4.障害原因の予防、リハビリテーションおよび障害者のエンパワメント強化のためのコミュニティ・ベースの取り組み)と17の具体的な戦略などが掲げられている。

ESCAPでは、2004年と2006年の2回にわたり、BMFの実施状況に関するアンケート調査を各国政府および障害NGOを対象に実施している。これらの調査により明らかになった各国の実態や新たに出てきたニーズ、ならびに2003年以降の国際的動向などを踏まえ、BMFを補完するため、(1)7つの優先領域における行動目標をさらに10追加すること、(2)4つの主要戦略を5つに変更するとともに、具体的な戦略目標を25に増加することなどが行われている。

紙面の関係でここでは、びわこプラス5の主要戦略に絞って取り上げる。その主要戦略は、次のとおりである。

(1)障害問題への権利に基づく取り組みの強化

(2)機能付与的環境の促進と有効な仕組みの強化

(3)政策立案と実施のための障害に関するデータおよび情報の入手しやすさや質の改善

(4)障害インクルーシブな開発の促進

(5)障害の原因の予防、障害者のリハビリテーションおよびエンパワメントのための障害問題への総合的なコミュニティ・ベースの取り組みの強化

BMFのそれと比べると、新たに加わったのは、(4)で、それ以外は表現や力点の違いはあれ、ほとんど共通している。

(4)のもとに3つの具体的な戦略が掲げられているが、そのポイントは、各国政府や国際開発機関等に対して、すべての社会・経済開発計画(とくに、国連ミレニアム開発目標に関連したもの)の策定と実施において障害の視点をメインストリーム化すること、および障害インクルーシブな災害マネジメントを促進する一環として、ユニバーサル・デザインのコンセプトを災害準備と被災後の復興活動におけるインフラ開発に統合することを要請していることである。

なお、びわこプラス5の最後の「有効なモニタリングと評価の強化」で、第2次十年の最終年である2012年に地域、小地域および各国レベルでBMFとびわこプラス5の実施評価が行われなければならない、とされていることに関連して、韓国政府から、最終年評価政府間会合を、第22回リハビリテーション・インターナショナル(RI)世界会議および第5回アジア太平洋障害フォーラム(APDF)()会議と合わせ、韓国で開催したい旨の提案があったが、その正式決定は、来年またはそれ以降のESCAP総会で行われると思われる。

ハイレベル政府間会合の成果と課題

今回の政府間会合の成果は、BMFの補足文書としてびわこプラス5が採択されたことで、第2次十年の後半において域内各国が、インクルーシブな、バリアフリーで、権利に基づく社会づくりにより強力に取り組むための政策ガイドラインが明確化されたことである。

びわこプラス5の原案は、ESCAPが主催した、2005年10月の「中間年に向けての障害者に関する包括的行動計画ワークショップ」、2006年10月の「変革の担い手:『びわこプラス5』に向けて、障害者の自助団体、家族・親の会、女性障害者の自助団体に関するワークショップ」、ならびに2007年2月~3月の専門家会議およびそれに続くBMF関係者調整会議(BMF―SCM)などの一連の会議を通して策定されたが、その策定過程には、政府代表や国連機関代表に加え、障害NGO関係者も参画している。

しかし、今回の政府間会合では、びわこプラス5の最終案の交渉は、政府代表のみに参加が限定された非公式会合で行われたため、障害NGOの意見は、いずれかの政府代表に働きかけ、政府代表の意見として発言してもらうという方法をとらざるを得なかった。障害NGOサイドがベトナム政府を通じて提案したアクセシブル・ツアリズムが、優先領域E.建築物環境と公共輸送機関の行動目標の(e)として「アクセシブル・ツアリズムを促進すべく適切な措置をとること」として追加されるという、一部の成果はあった。

しかし、障害者権利条約の第2条定義にある「言語には、音声言語、手話及び他の形態の非音声言語を含む。」という規定をびわこプラス5の中に何らかの形で入れてほしいという、世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局長宮本一郎氏の切なる願いは、びわこプラス5を採択する最終日の公式会合で、NGOであるがゆえに発言の機会も与えられなかったこともあり、実現しなかった。障害者権利条約を検討する国連の特別委員会では、制約はありながらも、公式会合でも障害NGOにも発言の機会が与えられ、その意見が条約に相当程度反映されたのと比べ、政府間会合には大きな落差がある。

こうした障害NGOへの対応のあり方が、2012年の最終年ハイレベル政府間会合までにぜひ是正されることを期待したい。

今回APDFにとって、より深刻だったのは、そのメンバーとして台湾の団体関係者が参加したことについて、中国政府代表からESCAPおよびAPDFに対して、厳重な抗議があったことである。中国政府代表の言い分は、ESCAP会場内で行われる政府間会合に国(つまり、中国)のパスポートを持たない台湾関係者の参加を許すべきでない、ということである。結局、最終参加者リストから台湾関係者の名前を削除するということで妥協が図られた。中国政府代表から提起されたことを冷静に受け止め、APDFが今後ともESCAPと密接に連携して、BMFおよびびわこプラス5の推進に積極的な役割を担いうるためには、ESCAPが主催する会議への台湾関係者の参加についてより慎重に対応する必要があろう。

(まついりょうすけ APDF事務局長)

(注)APDFはアジア太平洋地域で障害者権利条約の批准および履行、ならびにアジア太平洋障害者の十年とその政策ガイドラインであるBMFなどの実施を推進することを目的として、2003年11月にシンガポールで設立された、障害NGOから構成されるネットワーク組織。事務局は、(財)日本障害者リハビリテーション協会におかれている。