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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年11月号

ブックガイド

子どものこころや発達に関するお薦めの本

武居光

ぱっと思い浮かんだ10冊。冬の青空にくっきりうかぶ雪山の稜線のように、読むたびに励まされ、しゃんと背筋が伸びる本だ。

1.「からすたろう」は最近友人から教えてもらった本。しゃべらない子ども、悲しげな子ども、不可解な子どもと出会うとき、1秒だけでいい、この本を思い出そう。きっと何かが違ってくる。そういう強い力がロングセラーの理由だろう。

2.「ピノキオから少年へ」は、学校や家庭での暴力や逸脱行動など重篤な問題を抱え、学校からも治療機関からもさじを投げられた少年とその家族を支えた2年余にわたる症例報告。仲間との詳読会で何度も読んできたが、その度に発見があるし正直にいえば毎度熱いものがこみ上げてしまう。今は「障害特性についての本」が多数出回り、読者は障害の理解こそ子どもの理解につながると思い、あれこれ読破する。その気持ち、わからなくもないが目の前にいるのは何よりもまず子どもなのだ。マニュアル本はほどほどに、子どもとの出会いや成長について書かれた良質の症例報告を一読することを薦めたい。著者のたくさんある言葉の中で好きな言葉は「ほかでもないA君、Bさん」。

3.「多動性障害と虐待」も良質な症例報告。ADHDのわが子に振り回され疲弊しきった母親との出会い。著者の「この母親を支えよう」という決意。子どもの入院治療。やがて語られる母親の隠された気持ち。子どもとの関係の変化。1年半にわたる経過が簡潔平易な文章で示され、それゆえ深い奥行きにふれた余韻が残る。

4.「僕のこころを病名で呼ばないで」は、長年思春期外来を担当する精神科医のエッセイ。外来にくる子どもたちはふしぎに居眠りをしない。治療がうまくいっているかどうかは、子どもが教室で居眠りするようになれたかどうか…等。子どもたちとの出会いを通じて感じる世界が穏やかに語られる。「病名を知ることが、子どもそのものや子どもの心から目をそらすことになるとすれば、われわれは病名をすてなければならない」。現場人から語られる人間的なインフォームドコンセント論は関係者必読。

5.「思春期外来~面接のすすめかた」は、職員室で先輩同僚から助言をもらいエネルギー充電するような感覚で読んだ。今は表紙を見ただけで「さあがんばるか」と思う。

6.「少年犯罪と向きあう」の著者は、少年犯罪事件の弁護活動に20年にわたり取り組んできた弁護士。「子どもたちは変わっていない。変わったのは大人の子どもへのまなざしだ」で始まる本書は、私にとっては児童福祉のあり方を考える名著である。

7.「カナー児童精神医学」は子どもの保健福祉に関わる人なら手元においてほしい大書のひとつ。膨大な臨床記録に圧倒される時間が好きだ。職業人として先人の遺産が「手許にある・ない」の差は大きい。絶版だが、私は古書店ネットで簡単に入手した。

8.「さっちん」は少年のドキュメント写真集。天才アラーキーの処女作にして第1回太陽賞受賞作。「生きるってのはね、やっぱり跳ねるとか、ヴィヴィットであるとか、声が大きいとかってことだから。少年たちがさ、フレームからはみ出してるでしょう、飛び出してるでしょう、そういうことなんだよね」。今私たち大人に欠けているものは、子どもと一緒に跳ねるようなヴィヴィットさや、おおらかな人生賛歌かもしれない。

9.「子育て百話」は、敬愛する京都の児童自立支援施設「東樹」ホーム長龍尾和幸氏の素敵なエッセイ集。昔スイスで修業中に出会った言葉「カズユキ、職員の役割は子どもたちにあれをしなさい、これをしなさいと言って何かをさせることではないわ。私はここにいるから、困った時、悲しい時、嬉しい時いつでもここにおいでなさい。福祉とは存在することなの」。この言葉が今なお龍尾氏の仕事の原点であり目標である。

10.「詩のこころを読む」は茨木のり子の傑作だと思う。優れた読み手によって深く読み解かれ、読者の心に命を宿しはじめる詩の数々。飛躍を恐れずに言えば、私も頑張って「子どもたち」の優れた読み手の端っこくらいにはいたいと思う。

それにしても子どもが減っているのに子どもや子どもの障害についての本がたくさん出ていることに驚く。寺山修司ではないが、「書を捨てて子どもと遊ぼう」という健康さも大切だろう。

(たけいこう 財団法人神奈川県児童医療福祉財団 川崎市発達障害者支援センター開設準備室長)

.絵本『からすたろう』(八島太郎)偕成社.1890円

.症例報告「ピノキオから少年へ」(村瀬嘉代子)『子どもの心に出会うとき』所収.金剛出版.3605円

.症例報告「多動性障害と虐待」(田中康雄)『思春期青年期ケース研究8:虐待と思春期』所収(責任編集:本間博彰、岩田泰子)岩崎学術出版.2940円

.『僕のこころを病名で呼ばないで』(青木省三)岩波書店.2100円

.『思春期外来~面接のすすめかた』(大西勝・太田順一郎)新興医学出版社.2520円

.『少年犯罪と向きあう』(石井小夜子)岩波新書.777円

.『カナー児童精神医学』(レオ・カナー)医学書院.8500円(絶版:古書で購入可能)

.写真集『さっちん』(荒木経惟)新潮社.1600円

.『子育て百話~育ちの場は母親の胎内のように』(龍尾和幸)セルフサポートセンター東樹出版部.1300円(FAX 075―551―5656にお申し込み下さい)

10.『詩のこころを読む』(茨木のり子)岩波ジュニア新書.580円