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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年11月号

列島縦断ネットワーキング【千葉】

「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」
~障害者差別をなくすための千葉県の取組み~

千葉県健康福祉部障害福祉課

1 条例の概要

千葉県では、平成19年7月1日「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」(以下、千葉県条例)が施行されました。

近年、障害のある人に対する理解は進んだと言われていますが、「うつ病の薬を飲んだだけで会社を解雇された」「「障害者はちょっと…」と言われレストランへ入ることを拒否された」など、依然として、誤解や偏見のために、障害のある人は、日常生活のさまざまな場面で「生きにくさ」「暮らしにくさ」を余儀なくされている実態があります。

「千葉県条例」は、このような実態を踏まえ、障害のある人に対する理解を広げ、差別をなくすために制定された条例です。

障害者差別を禁止する法制については、わが国では、平成16年に障害者基本法が改正され、基本理念に「何人も障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」という規定が盛り込まれました。しかしながら、改正障害者基本法では、どのような行為が差別に当たるのかが明らかにされず、また、権利利益の侵害があった場合の具体的な救済措置等が講じられていないなどの問題点が指摘されてきました。

こうした中、制定された千葉県条例は、障害のある人に対する差別について、何が「差別」にあたるのかを具体的に定めるとともに、差別を解消するための仕組みとして、1.個別の差別事案について第三者を交えた話し合いにより解決を図る仕組みや、2.制度や社会慣行が背景にあって構造的に繰り返される差別について、さまざまな関係者がその解消に向け議論する仕組み、3.障害のある人のために頑張っている人を応援する仕組み、等を定めています。

2 条例の特徴

千葉県条例は「障害があっても、住み慣れた地域で、自分らしく暮らしたい」という県民の思いから提案され、2年半以上にわたって障害当事者やその家族を含む多くの方々が繰り返し議論を重ね、成立に至りました。

県議会の議論では、一時は条例案の撤回、そして廃案といった状況にもなりましたが、条例づくりを提案し、議論してきた障害者やその家族、関係者の熱意と努力が、大きな「うねり」となって、この条例を成立に導いたといっても過言ではありません。

このような経過を経て、この条例においては、障害者差別の問題を「差別する側とされる側」という対立構図を克服し、「さまざまな立場の県民が、それぞれの立場を理解し、相協力することにより、すべての人がその人の状況に応じて暮らしやすい社会をつくるべきことを旨とする」という基本理念が生まれました。

従って、千葉県条例には罰則はありません。差別をした人を罰したり、取り締まるのではなく、障害のある人の理解者を増やすことで差別をなくそうとする条例です。

条例のもう一つの特徴は、障害者差別の定義として、障害を理由とした不利益な取り扱いのほかに、「合理的な配慮に基づく措置の欠如」を差別として定義したことです。

千葉県条例では、障害のある人の日常生活の場面に即して、福祉、医療、商品・サービス、雇用、教育、建物・公共交通機関、不動産取引、情報提供の分野に関し、具体的な15の行為について、障害を理由とした不利益な取り扱いとして「差別」と定義しています。しかし、障害のある人が、障害のない人と同じように社会生活を送るためには、障害を理由とした不利益な取り扱いをなくすだけでは十分ではありません。

たとえば、視覚障害のある人にとって、音響式信号機のない横断歩道、バスの行き先や運賃表示、タクシーやエスカレーターの利用、自動券売機や自動改札など、社会にはさまざまな障壁があります。

千葉県条例では、このような日常生活や社会生活のさまざまな場面において、障害のある人が、障害のない人と同じような生活をすることができるよう、合理的な配慮に基づく措置が行われないことも、また差別としています。この点は千葉県条例の大きな特徴ということができます。

3 施行後の状況

7月に条例が施行されてから、県内各地で、福祉関係者だけではなく、経済団体が主催するもの、町民勉強会など、さまざまな形で条例の勉強会が開催されています。条例の周知という点については、引き続き地道な努力が必要ですが、着実に条例の取組みが広がりを見せていると感じています。

千葉県条例は、個別の差別事案に対し、身近な地域での相談支援と、県中央の委員会による助言あっせん等の重層的な事案解決の仕組みを定めています(図1)。

図1 対象事案解決の仕組み
図1 対象事案解決の仕組み拡大図・テキスト

条例の施行後、9月末までの3か月間に、県内16か所に設けられた条例の専用相談窓口に114件の相談が寄せられました。これらの相談に対し、県内500人を超える相談員や、相談員の活動をコーディネートする16人の専門職員が、各地域で相談活動を始めています。

相談事案の中には、福祉サービスや就労に関する問い合わせ等、相談者に対する情報の提供や助言により解決の道筋をつけることのできる事案もある一方、経済的な事情や家族の崩壊などが背景にあって、さまざまな支援ニーズへの対応が求められる事案も多く認められます。これらの事案は、権利擁護の視点から生活全般にわたる支援が必要であり、問題解決に向け関係機関と連携した高度なソーシャルワークが要求されています。

また、これまでに寄せられた相談を通して、障害者差別は、周囲の人々の障害に対する理解がないことや、誤解や偏見が根底にあって生じている場合が多いことに、あらためて気付かされます。

障害者差別をなくすためには、この条例による三つの仕組みとともに、障害のある人に対する理解を広げる取組みを一体的に進めることが極めて重要であると考えています。

4 今後に向けて

昨年12月に、障害者権利条約が国連で採択されました。わが国も本年9月には条約に署名し、条約の批准に向けた法制の検討が進むものと思われます。こうした時期に千葉県で条例が施行されたことは、とても意義深いことと考えています。

「千葉県条例」は、千葉県で障害のある人が、ありのままにその人らしく地域で暮らせる社会を育てていく上で大きな力になるものです。しかし、条例が施行されただけで、即時・全面的に差別がなくなるものではありません。事案の解決に向けた活動を積み重ね、条例以外の取組みと合わせて、幅広い県民運動として展開することで、一つずつ、障害のある人に対する差別をなくしていくことが重要であると考えています。

こうした、千葉県の取組みを全国に発信し、また、全国各地の取組みを千葉県も学び、各地域が共振・共鳴することにより、日本の社会全体が「障害のあるなしにかかわらず誰もが暮らしやすい社会」へと変わっていくことを期待したいと思います。