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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年12月号

「施設」から「地域生活」へ
―障害者自立支援法の検証と自己決定の視点から―

光増昌久

はじめに

障害者自立支援法ができて1年が経過しました。福祉関係の法律で、このように国民の多くから反対され、施行された法律はかってあったでしょうか?グランドデザイン(案)が出た時、驚いたのは入所施設利用者の軽減策を実施しても手元に残るのは、障害基礎年金(2級)で1万5千円でした。残金で医療費、日用品費などを支払うと赤字になってしまう。さすがにすぐ事業者団体の反対があり、2万5千円に変更になりましたが、結果、事業者団体の報酬は逆に7%カットされました。

メディアは、この法律が施行されて利用者負担が高く利用をやめた人がいないかと取材してまわりました。さらに一番問題があるのは、障害程度区分の認定調査と審査会を経過しての障害程度区分の問題でした。

当事者団体、事業者団体が抜本的改正を主張してきましたが、ようやく与野党とも抜本的見直しを掲げて国会で論争する状況になってきました。抜本的見直しの内容が今、問われています。

1 支援費制度から自立支援法

措置制度から支援費制度に変わるときのパンフレットには、「ノーマライゼーションの実現に向けて」(中略)…支援費制度の目指すもの~自己決定・自己選択を尊重します~…利用者本位の考えに立つ新しい仕組み「支援費制度」。この新しい制度では、利用者である障害のある人が、事業者との対等な関係に基づき、自らサービス提供者を自由に選択し、契約によってサービスを利用することとなります。

と記載されています。理念はすばらしく措置制度からの脱却で、精神障害者のサービス、小規模通所授産施設、小規模作業所等が支援費制度に組み入れられなかったものの、将来の障害者福祉の道筋を示すものでした。

障害者基本法ができ、障害者基本計画ができた時、7か年で1万人の入所施設の計画が示されました。ノーマラーゼーション7ヵ年戦略なのに逆行する計画でした。さすがに次の計画では、真に必要な場合以外、新規の入所施設の国庫補助での建設は認めないとしたが、現在でも入所施設の新設は続いています。

一方、入所施設からの地域生活移行は、各地で進んでいますが、グループホームは予算の制限もあり、支援費制度になっても開設の制限があり緩やかな伸びにとどまっていました。

支援費制度になり、障害の重い人たち、支援が多く必要な人には居宅介護の身体介護、家事援助等が使えるようになったので、重症心身障害、重複障害、行動障害がある人たちのためのグループホームが開設されました。昨年度からは、個別のホームヘルパーの利用ができなくなり、障害の重い人のケアホームでは運営が困難になった所も出てきました。今年4月からは区分4以上、かつ重度訪問介護、行動援護対象者には個別のホームヘルプ利用が可能にはなりましたが、課題は多く、地域生活移行がスームズに進展しない要因の一つでもあります。

2 地域生活移行と障害程度区分

入所施設からの地域生活移行は、利用者の意思を尊重し、分かりやすい情報提供とグループホームの見学、体験利用などを経て、本人の意向確認を経て地域生活へ移行する取り組みが各地で行われています。施設によっては、自活訓練を利用してよりスムーズな移行計画を立てています。

しかし、国が示した障害福祉計画の5年間で10%の地域生活移行、7%の入所施設の定員削減計画は何を根拠に示したのでしょうか。

さらに、多くの問題が指摘されている障害程度区分により施設利用ができなくなることは、支援費制度ができて、国民(特に利用者)に示した自己決定、自己選択の理念はどこに吹っ飛んだのでしょうか?

障害程度区分による地域生活への移行誘導が先にあるのは、疑問です。障害程度区分4以下の人は施設には暮らせなくなる(50歳未満は区分3)、この1点で多くの家族の不安をあおり、利用者への不安と混乱を生じさせました。生活する場所の選択は多様性が必要です。

3 地域生活移行の利用者への情報提供

支援費制度、障害者自立支援法の論議の時もそうでしたが、サービスを利用する当事者(特に知的障害のある人たち)へのやさしい説明の取り組みは、一部の自治体を除いて非常に少ない状態でした。自分たちが使うサービスに関して、何も知らないで次々と制度が変わっていく不安もありました。

「私たちに関することは、私たちを交えて決めてほしい」と十数年来、育成会の本人決議で主張しています。II(国際育成会連盟)の当事者理事ロバートマーティンさんは、障害者の権利条約に関するアドホック委員会で多くの発言をして、条約成立に大きな役割を果たしました。日本も早く当事者主体の政策論議をするようにしたいものです。

4 地域生活移行の阻害要因は

小林は地域移行への阻害要因(小林繁市「知的障害者の施設から地域への移行」『療育の窓』No.118より)として、

・施設及び関係職員の自立理念の欠如

・現在の施設におけるリハビリテーションプログラムが、地域移行に向けての現実的なものになっていない

・入所者が重度、高齢化している

・地域の中に支援システムがない

・施設入所者と地域生活者の経済的格差

・事故や失敗に対する過剰な恐れ

・自立を進めるほど施設の運営が厳しくなる

と指摘していました。グループホームの制度も度重なる改正があり、現在に至っていますが、変わっていないのは、報酬の脆弱性です。地域生活支援の質を高めるためにも報酬を抜本的に見直す必要があります。

5 地域生活移行推進の政策展望

1.障害程度区分ではなく、地域生活する意向を尊重する制度の実現を!

2.障害が重くても必要な人はだれでも使えるホームヘルプサービスの提供を。

3.身近にグループホームもない地域もある。都市部では家賃が高くて、年金だけでは暮らせなく地域生活を諦めている人も多い。所得保障をして、さらに家賃補助制度を国の政策で取り上げて、地域生活がスムーズにできる体制を。

6 北海道の取り組み

北海道の入所施設は、地域性、地方自治体や家族などの運動もあり、全国の入所施設の約1割弱の定員数になっています。平成11年4月開設が最後です(政令指定都市の札幌市は除く)。逆にグループホーム・ケアホームの数、利用者数とも全国1です。

タウンミーティンを経て最終的な北海道の計画数値は定員削減13.7%の1,656人、地域生活移行は19.6%の2,366人です。北海道は来年度、全入所者約1万2千人一人ひとりの意向調査を実施して、地域生活移行の確認作業をする計画が進んでいます(イメージ図参照)。

図 地域生活移行システムの確立 (拡大図・テキスト)

まとめ

新任の厚生労働省の障害福祉の担当者は、入所施設を「山の中にある、人里離れた所にある」と形容する場合があります。地域支援の担当者も入所施設を否定するような表現でしゃべる場合もあります。でも、日本の知的障害者福祉の歴史の中では、入所施設を拡大してきた経過があります。国立、都道府県立、事業団、社会福祉法人等さまざまな経過で生まれました。街の中での生活を地域住民が認めなかった時代もあります。街の中で小規模な支援は歴史的にできてきませんでした。入所施設を形骸的に批判するのはやめましょう。それより日本の知的障害者の福祉は、希望する人はだれでも地域で安心して暮らせるような施策の実現が大事です。

障害程度区分で生活を選ぶのではないのです。

(みつますまさひさ 松泉学院)