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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年12月号

「施設」から「地域」へ

小林繁市

1 障がい者と共に生きる町「伊達市」

太陽の園は、昭和43年に、北海道南西部の太平洋岸に位置する静かな町伊達市に、日本で最初のコロニーとして入所定員400人で開設された。創立時から、「決して閉鎖的な施設にしない」をモットーに、地域に溶け込むための活動を行い、入所者の地域生活の実現をめざして積極的な取り組みを展開してきた。こうした努力が実って、今では人口3万7千人の小さな町に300人を超える知的障がいのある人たちが、町の中でしっかりと融和して暮らしており、全国的にも「ノーマライゼーションの町」と評価されている。

入所者の「社会自立」は開設以来の目標であり、これまでの40年間で、他施設移動や入院などの非自立も含めて1030人が退所、そのうちの半数にあたる515人が通勤寮やグループホーム、アパートなどの地域生活に移行している。本来であれば、施設入所以前の生まれ故郷に戻るのが望ましいと思われるが、実際には出身地に生活の場や就労の場が整っていない場合が多く、結果的には自立移行者515人のうち210人が、現在も伊達市で生活している。これらの人たちの支援は、太陽の園と同じ法人が運営している「だて地域生活支援センター」が支援の拠点となって活動している。

2 入所施設「太陽の園」の小規模化、地域化、分散化

開設以来の退療者は1030人であるが、いくら施設から地域移行しても平成15年度までは、北海道の方針によって入所定員の削減ができなかった。このため退所しても新たに入所していつも定員一杯の400人で、その中からまた一定数が地域移行していく。このように伊達に住む障がい者の数は、年を追うごとに増加していくという現象が35年にわたって続いていた。

しかし、平成15年度より支援費制度がスタートし、施設福祉から地域福祉へという大きな流れの中で、北海道の考え方も施設の入所定員を削減する方向に転換し、新たなグループホームの認可にあたっては、入所施設の定員を削減することが条件となった。

北海道の動きに併せて、太陽の園も入所定員の削減に着手し、平成16年度に40人、17年度に40人、18年度に10人、3年間で90人の地域移行と定員削減を実現し、現在の入所定員は310人となっている。地域移行の受け皿については、生活の場は、だて地域生活支援センターが73人分のグループホームを拡充し、日中活動の場は、太陽の園自らが通所授産施設を増設し、他社福法人やNPO法人に協力を依頼して、市内に88人分の日中活動の場を拡充した。

北海道は障害福祉計画の中で、平成23年度までに入所施設利用者の20%を地域に移行し、14%の定員削減を目標にしている。これに沿って、太陽の園も平成19年度以降23年度までにさらに60人を地域生活に移行し、入所定員も250人以下とし、さらなる施設の小規模化、地域化、分散化を図っていく方針である。

3 自立支援法の施行と地域移行に向けての緊急課題

太陽の園では、30人を20年4月に地域移行する予定になっている。希望する者についてはできる限り出身地に戻すことを原則にしているが、利用者はこれまで長い間暮らしてきた施設所在地を移行先に選ぶ場合が多く、最終的には出身地移行は5人のみで、他の25人は伊達市内のグループホーム等に移行する方向で検討が進められている。

地域移行を実現するにあたって、送り出す側の太陽の園と移行後の地域支援を担当するだて地域生活支援センターが連携し、対象者の確認、出身地への移行の働きかけ、伊達に残る人たちの住宅や日中活動の場の確保、ケアホームの支援体制の整備など急ピッチで作業を進めているが、自立支援法の掛け声とは裏腹に、地域移行のための基盤整備が極めて不十分であることを改めて思い知らされている。自立支援法によって大きく後退した次の2点については、早急な改善が望まれる。

第1点目は、所得保障の問題である。今回の移行者は、障がいが重く、全員が日中活動事業を利用している。この人たちの所得は障害基礎年金に3~5千円程度の工賃が加給されて、1級年金受給者で月額約8万5千円、2級年金受給者で約7万円程度の収入である。この生活保護以下の収入でも、自立支援法以前は利用料負担や通所施設の食費負担がなかったため、何とかぎりぎりでグループホームで生活できた。しかし、自立支援法後は負担が増えたため、取り崩す預金のある者でなければ、地域生活は不可能となった。施設入所者は食費等の補足給付によって手元に2万5千円が残ることになっているが、こうした措置は地域生活者にはなく、極めて平等を欠く制度設計になっている。家賃補助等の緊急措置が必要と思われる。

第2点目は、ケアホームの報酬単価の問題である。今回の地域移行者は、ケアホームに移っても何らかの理由で夜間ケアが必要であり、これらの人たちの障害程度区分は、半数近くが夜間加算の対象とならない区分2・3と認定された。この報酬単価では以前の重度加算の程度区分1と比べて、一人あたり月額2万5千円程度下がることになってしまい、この単価で夜間支援体制を維持することは困難である。

また、世話人の配置基準が4対1から6対1になったり、以前は利用できたホームヘルプが利用できなくなってしまうなど、自立支援法によってグループホーム制度は大きく後退している。報酬単価を中心とした抜本的な見直しが必要と思われる。

実際に取り組んでみると、地域移行の課題は余りにも多い。だからといって、地域移行を止めるわけにはいかない。「障がいのある人もない人も共に生きる共生社会の実現」は、福祉関係者にとって最大の使命だからである。

(こばやししげいち だて地域生活支援センター)