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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年2月号

障害のある人と共に

瀧澤久美子

障害への理解を地域から掘り起こす

横浜で障害児・者の日々の暮らしを支援している。ここ30年ほどを振り返ってみても、障害児の全員就学の保障や国際障害者年の活動を契機に、福祉は目に見える形では大きく変化してきている。障害児・者の暮らしを支える制度拡充や公共施設のバリアフリー化、交通機関等での移動の保障など、少しずつ障害のある人の生活の幅も拡がってきた。

しかし、障害そのものの理解や、障害のある人が生きていくこと、暮らしていくことの困難さは、まだまだ十分に理解・共感されているとは言えない。障害ってなんだろうか。

横浜の学齢障害児の親たちで構成されている横浜障害児を守る連絡協議会が、昨年春、横浜市子ども青少年局と協同で、学齢障害児を抱える家族に、「障害児と家族の生活状況調査」を行った。そこには、障害児とその家族を取り巻く周囲や社会の現状がたくさん書かれていた。

1.外観からでは障害が分かりにくい子どもの騒がしさに日々神経を使い、それがために神経質な親だと、近所から見られてしまっている。

2.障害児だってエネルギーを持て余す。だから公園やスーパーにも連れて行く。そこで奇声を発し、「気持ちの悪い子ね」などとすれ違いざまに言われる。中には、変な生き物を見るかのような目つきに、体も心も冷え切ってしまう。平穏な暮らしがなぜできないのだろうか。

3.自閉症の理解は随分広まってきた。でも世間の目には、「障害は私たちには関係がない」という切り捨てと、また、視野にも入っていないんだ、というあきらめも感じる。街中で区役所で自閉症理解のポスターなんかを見ている人はあまりいない。「うちの子、自閉症なの」と気軽に話せて、「そうなんだ! どんなことが苦手なの?」と聞き返してくれる、こんなことが可能な社会になってくれればいいと願っている。

4.もっと障害について世間の理解を高めてほしい。学校教育やメディアで正しい情報を定期的に流してほしい。不正確な情報や無関心が多すぎる。

5.普通の暮らしがしたい。障害に対する理解には、小さい時から人への思いやりを育む環境が必要だ。

6.将来の不安の解消には、周囲の理解と協力が必要だ。障害児と健常児が共存できる社会を、と願っている。

大人になって急に障害への理解が生まれるわけではない。この生活状況調査の中にもあったように、小さな頃から障害を理解し、思いやりを育む生活環境が必要だ。

小・中学校への出前授業

数年前から、小・中学校へ福祉の出前授業を行っている。テーマは「障害ってなあに」。初めに子どもたちに、得意なことは何?と聞き、次に、みんなの苦手なことは何?と聞く。そしてどんなに頑張ってもできないことを障害ということや、人間の脳のイラストを見せ、脳のどこかに目で見えない小さい傷があると、身体が動かなかったり、計算ができないことなどを、伝えていく。

障害のある人の描いた絵や本も紹介し、障害のある人たちがみんなとは別にいるのではなく、○○さんという友達がそばにいるだけなのだ。生活の中で困っていることを伝え、少し工夫して手伝ってほしいこと、みんなが全員で声をかけなくてもいいけれど、見守ってほしいことなどを話す。そして授業の後、感想を書いてもらう。とても率直に新鮮に感動し、自分たちなりに障害児・者の行動を理解するようになっていく。これは小さな試みだが、障害理解への大切な一歩だ。

横浜市のある区では、自立支援協議会の作業部会として、出前授業の検討グループがあり、養護学校や社会福祉協議会や福祉関係者で出前授業の内容検討も始まっている。

警察学校での出前授業

神奈川県警察学校にも年3回ほど、「知的障害について」の、出前授業を行っている。1.「障害児・者支援制度や地域のもつ資源」、2.「障害ってなあに」、3.「障害のある人の加害と被害の事例」などをあげ、工夫してほしいことを具体的に伝えている。

コミュニケーションボードの作成

障害のある人とのコミュニケーションは、分かりやすい絵文字・記号や写真を活用することで豊かになる。

セイフティーネットプロジェクト横浜では、障害者とのコミュニケーションを拡げるため、「店舗用」のコミュニケーションボードを作成、4年前の12月には、親の会と福祉関係者の協力で市内のコンビニ全店に配布した。昨年は「救急隊用」も作成、今年度はさらに「災害時用」のボードも作成した。この「災害時用」のボードは、障害のある人たちが、避難場所で支援してくれる人たちとの情報交換に力を貸してくれるだろう。

災害時用ボード
図 災害時用ボード拡大図・テキスト

災害時用チラシ
図 災害時用チラシ拡大図・テキスト

こうしたボードの作成には、家族、支援者、そして障害者自身も参加し検討され完成したものだ。このボード活用は、その後さらに広がりを得て、横浜市内の指定避難場所、民生・児童委員、障害児・者関係機関・団体にも順次配布していく予定である。このボードが、また、地域の人たちの障害理解のツールにもなってくれることを願っている。

市バス・地下鉄職員への研修

横浜市健康福祉局からの依頼で、障害児親の会のメンバーが交通局の職員に研修を行った。何回かに分け、もう2年ほど続けている。職員たちは障害のある人たちによく対応してくれているが、障害のある人の暮らしの中での対応のポイントを伝えると工夫ができたので、こうした研修はもっと早くやってほしかったそうだ。民間の交通機関などへの研修などはまだ行われていないが、バスの中で何度もボタンを押したり機械類に触れたりする時、どんな対応をしたらいいのか分からない、という声もあった。今後はこうした民間への対応も求められている。

ほっとスクールでの交流

横浜のある区では、障害児の夏休みの余暇活動が、特別支援学校、児童民生委員、ボランティア、福祉・当事者団体、社会福祉協議会などで組織した実行委員会主催で8年間続いている。区内に在住する小学校4年から高校3年までの障害児たちに、夏休み中の2日間から3日間の余暇活動を企画し、私たちも一緒に過ごす。こうした地道な交流の結果、児童民生委員や学生・一般のボランティアが学校以外の地域の暮らしの中で、声をかけてくれるようになった。

障害の子どもを知ってもらえる意味は大きい。今まで障害児と接触のなかった人たちが、一緒のプログラムを過ごし、同じ体験を共有して、見えなかったものが見えてくる。子どものそれぞれの障害のあり方が見えてくるようになる。

いままで述べてきた地域でのさまざまな取り組みによって、以前よりも自閉症や知的障害のある人への理解と交流が確かに増えてきている印象を受ける。地域に根ざした、こうした小さな、しかし具体的な活動と実践の積み重ねこそ、障害のある人たちの暮らしを外に向けて開いていくだろう。

(たきざわくみこ 障害者支援センター)

)障害のある人が、地域で安心して暮らしていくために、セイフティーネットを作ることを目的とし、平成17年7月に発足した。市内の14団体・機関で構成され、当事者や家族が、自分たちのできることから活動していくことを大切にしながら、さまざまな障害についての理解を進めていこうと活動している。