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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年2月号

列島縦断ネットワーキング【福岡】

まちに暮らす人たちと共に
~オアシスくるめの取り組み

向江英子

このまちに何が必要なのか

2004年に社団法人久留米青年会議所の創立50周年記念事業の一環として開催した「くるめまちづくりフェスティバル」の中で、『オアシスくるめ』は小さな一歩を踏みだしました。きっかけは2002年、久留米青年会議所の呼びかけにより集まった50の市民団体と200人を超える市民の参加で「これが我らのまちづくり~今、JCとNPOにできる事~」をテーマにシンポジウムを開催したことでした。

福岡県久留米市は、数多くの市民団体がそれぞれのスタンスと理念を持って、とても活発に活動をしている地域です。しかし当時、それぞれの団体を結びつけるネットワークは構築されていませんでした。そのためにまず取り組んだのが、さまざまな市民団体や市長をはじめとする行政にも参加していただいて5回開催した、「まちづくりタウンミーティング」です。まちづくりを単なるボランタリズムの側面だけではなく、もっと掘り下げた内容の講演や意見交換を行う中で、この縦横のネットワークを活かした新しい組織を作る必要性を痛感し、『オアシスくるめ』として活動が始まったのです。その後、組織立ち上げに賛同していただいた多くの団体が一同に会し、4日間のまちづくりフェスティバルを開催しました。市民からの大きな反響があり、参加していただいた団体にとっても有意義な活動発表の場となりました。

オアシスくるめは、継続的にまちづくり活動に取り組んでいく団体として、久留米青年会議所メンバーが中心となり、行政やNPO団体、市民で構成され、中心市街地活性化分科会(イベントなどのまちづくり)、くるめ塾分科会(食育などをテーマにひとづくり)、そして障害者支援分科会という三つの分科会から成り立ってます。

「オアシスキッズセンター」の設立を目指して

2005年、障害者支援分科会では「重度障害児も一緒に暮らせるまちづくり」をテーマにシンポジウムを開催しました。メンバーに重度の障害を抱えたお子さんがいます。「子どもの支援ももちろんだが、その家族のケアも重要だ。障害のある上の子の世話に追われて、下の子の運動会にも行ってあげられないことがある」という彼の一言がきっかけでした。

「オアシスキッズセンター」は、重度障害児とそのお母さんたちの憩いの場であり、ショートステイも可能な施設です。在宅を開始した子どもたちが、安心して生きていくためには家族の支えが必要です。同時に、家族にも癒される時間と安心できる空間が必要なのです。医療機関が身近にあり、重度の障害を抱えた子どもたちをいつでも受け入れてもらえる憩いの空間が身近にできれば、家族にとって大変大きな精神的な救いとなります。障害をもった子どもたちが安心して家族と共に生活できる支援体制の確立は、以前からその必要性が叫ばれ、多くの方が検討を重ねていたにもかかわらず、これまで久留米市の中心地にはありませんでした。

こうした要望と現状をシンポジウムを通して知った私たちは、設立のためには何が必要で、だれの協力がいるのか、試行錯誤を繰り返しました。最初に協力してくれたのは、ある病院の先生でした。そして、今まで要望を訴え続けてきただけだったお母さんたちも、「自分たちにもできることはないか」と腰を上げてくれたのです。さらには、「行政を巻き込むためにぼくたちを使ってください」と地元の若手市会議員が声を上げてくれました。こうして、次第に賛同者・協力者が増え、「絶対に実現させてみせる!」と本気になってきたのです。今まで机上の空論に過ぎなかったこの事業が、形になるべくスタートしました。

実現のためには多くの課題が

しかし、現実には高いハードルがあります。大金を使って施設を建設することは、私たちにはできません。そして、現在の医療法では、医療施設において自立支援法の適用範囲内であるキッズセンターを作ることは不可能なのです。県、市と何度も協議をし「特区申請」についても検討しましたが、現段階では答えはNOです。引き続き市の担当者、病院の担当者、市議会議員、お母さんたち、そしてオアシスくるめの担当者と協議を続けています。

既存の病院にキッズセンターを作る際の規模及びリフォーム費用の試算、看護師の人数及び人件費・維持費の試算、並びに子どもを預ける時の当事者負担の費用等、現実的な問題も山積しています。しかし、私たちには「この施設は必要とされている」という確信があります。そして、現に協力してくださる総合病院もあります。制度面の問題をクリアすることは簡単にはいきませんが、行政の担当者もその可能性を模索してくださっており、私たちは実現に向けて前に進むのみです。

たくさんの方の協力と応援

私たちは「自分たちにできるのは、こうした悩みをもつお母さんたちと行政・医療機関との橋渡し役、コーディネートではないか」という考えから取り組みを始めました。オアシスくるめの役割は「今まで実現しなかったのはなぜか理由を明確に、進展の妨げになっていたものをクリアにし、だれもやらなかった役割を担うこと」だと思っています。

私たちの団体は、青年会議所が基礎になり多種多様な職業、得意分野を持つ先輩や仲間がいますし、これまでの活動を通して得た幅広い人脈があります。オアシスキッズセンターが実現し、実際にスタートするためには、さらに多くの方のご理解とご協力が必要です。久留米市には大学がいくつもありますので、多くの学生さんにボランティアとして関わっていただきたいし、こうした問題を全くご存じないような多くの方々にも関わっていただける仕組みを作っていきたいと思っています。

久留米市は「先進医療のまち」といわれますが、医療機関の数だけでなく、「市民が積極的に携わって支えている」という、「まちづくり、ひとづくり」の観点からも内外にアピールできると、もっと素晴らしいまちになると考えています。

だれもが元気になれるまちに

オアシスくるめの3つの分科会はそれぞれが自主的に事業を企画し、実行しています。2007年11月、地元のイルミネーション事業の点灯式に併せたイベント開催の依頼を受け、私たちも俄然やる気になりました。障害者支援分科会では、当事者団体を中心に「活動を積極的にアピールしてほしい」と考え、久留米市の中心である駅前広場にたくさんのテントを設置しました。にぎやかなステージイベントと相まって、当日は多くの方が足を止めてフェスティバルを楽しんでくださいました。そして何より、出展した皆さんが「楽しかった!また来年もよろしくお願いします」と言って握手を求めてくださったことで、私たちも元気をもらったような気がします。まだまだやりたいことがその通りに進んでいるとは言えませんが、「久留米のまちをもっとよくしたい」「まちの役に立ちたい」という一心です。まちのニーズに応え、共に事業を実行し、成果を実感することを積み重ね、さまざまな人と共に、このまちと共に歩んでいきたいと思っています。

(むかええいこ オアシスくるめ)