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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年2月号

ほんの森

障害者の権利条約でこう変わるQ&A

東俊裕監修 DPI日本会議編集

評者 佐藤聡

解放出版社
〒556―0028
大阪市浪速区久保吉1―6―12
定価(本体1,400円+税)
TEL 06―6561―5273
FAX 06―6568―7166

一昨年の12月、朝テレビをつけていたら、国連で障害者の権利条約が成立したというニュースが流れた。議場の様子が映像で流れたのだが、会場全体が拍手で沸き立っていた。私たち障害者に新しい時代の扉が開いたと胸が高鳴ったのをよく覚えている。

障害者の権利条約がどういうものか理解するために、私はこの本を皆さんにお勧めしたい。

この本は、1.読みやすく分かりやすい(活字が嫌いな人も大丈夫!)、2.条約のポイントがよく理解できる、3.条約と対比しながら現在の日本の問題点、国内法制定に向けての課題点が理解できる、というところが大変すばらしいと思う。

Q&A方式で21の問いがあり、それに22人の執筆者が答え、日本の課題点を解説するという構成である。もちろん条約の訳文も掲載されている。執筆陣は障害者団体のリーダー、長年障害者問題に取り組んでいる弁護士、研究者の方々であり、全員が現役バリバリで活動している方たちばかりだ。しかも、ほとんどの方が障害当事者であり、さらに監修の東弁護士をはじめ、何度もニューヨークの国連本部に通って権利条約制定に関わってきた方々が執筆されているのである。

私の団体ではいま裁判をやっている。5年前に脳性マヒの障害当事者がシンガポール航空の航空機に乗ろうとしたところ、単独を理由に搭乗を拒否されるという事件が起こったからだ。昨年の8月に一審の判決が出たのだが、裁判所の判断は「棄却」だった。判決が出た後に近くの公園に支持者が集まって集会を開いたのだが、そこでこの本の監修である東弁護士が言った言葉が忘れられない。「アメリカではこのような事件は裁判にすらならない。ADAがあるから、争うまでもなく差別だということを事業者もみんな知っている。しかし、日本では裁判しても一審では負けてしまった。いまの日本には障害者の権利を守る法律がないからだ」。

これからの日本の課題は、障害者の権利条約を批准し、しっかりとした国内法をつくることだ。私たち障害者が中心となって、力を合わせて運動していかねばならない。そのためには一人ひとりが権利条約の目指しているものは何か、国内の課題は何なのかを理解することが大切である。この本はそれにうってつけだ。本当に読みやすい本だから活字が苦手な人もぜひ手にとって読んでいただきたい。読むと力も湧いてくる本なのだ。

(さとうさとし メインストリーム協会事務局長)